「ドル高・金(ゴールド)高」が目立っている

 以下は、先月末から先週末までの、各種主要銘柄の騰落率です。COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)を経て、騰勢をさらに強めた「温室効果ガス排出権」先物価格は、目下、史上最高値を更新中です。そして、主要銘柄の中でも、「金(ゴールド)」価格の上昇が目立っています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、11月1週目に開催したFOMC(米連邦公開市場委員会)で、金融緩和の縮小(テーパリング)を決定しました。今月中旬より、資産の買い入れ額の減少が始まったと、報じられています。こうした動きを受け、「ドル指数」(複数の主要国通貨に対するドルの強弱を指数化したもの)が上昇しています。

図:主要銘柄の騰落率(2021年10月29日と11月19日)

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 つまりこの間、「ドル高・金(ゴールド)高」だったわけです。ドルが上昇する時、「世界のお金」という共通点を持つドルと金において、ドルが強く、相対的に金が弱くなる思惑が強まるため、“教科書的には”ドル高は金安要因と言えます。

 しかし、足元、金(ゴールド)価格は教科書的な動きになっていません。このカラクリを解明するために必要なことが、「材料の足し引き」です。以下は、筆者が考える、金市場を動かす6つのテーマです。短中期的には1~3の影響を強く受けると、考えます。

図:足元の、金市場における6つのテーマ

出所:筆者作成

 現在の金(ゴールド)市場には、「テーパリング開始」「利上げ観測」といった、米国の金融政策起因の「ドル高」要因から下落圧力がかかっていると考えられます。しかし、その理屈に反して価格が上昇していることを考えれば、別の文脈から、そうした下落圧力を相殺して余りある、上昇圧力がかかっていると、考えられます。

 諸条件より、「各種リスク拡大」や「インフレ懸念」が、上昇圧力をもたらしていると、考えられます。以下より、足元で強まっている「各種リスク」について書きます。

コロナ以外のリスク要因、「脱炭素」「枠組み乱立」「ボイコット」

 前回のレポート「金(ゴールド)大幅上昇!原油は膠着(こうちゃく)!?溝深まる世界」の中で、「ドルキャリー取引の巻き戻し」が、リスクの一つだと述べました。詳細はこちらをご覧ください。

「ドルキャリー取引の巻き戻し」は、新興国、ひいては世界全体の景気回復を鈍化させる、大きなリスクになり得る、直接的な景気悪化要素です。以下で述べるのは、主に、間接的な景気悪化要素です。主張、思想、パワーバランスなどの側面から、世界規模の不和が生まれ、その結果、世界景気が悪化するイメージです。

図:「脱炭素」をはじめとした、世界に漂う「短中期的リスク」

出所:筆者作成

 黎明期や過渡期という言葉がふさわしい“現在の”「脱炭素」は、さまざまなリスクをもたらす要因であることは、これまでのレポートでも述べてきました。それ以外に、「枠組み乱立」「ボイコット」「新型コロナ」なども、範囲・インパクトが大きいリスクと言えるでしょう。

 世界には、「ドルキャリー取引の巻き戻し」のほか、上記のような複数のリスクが漂っているため、金(ゴールド)の「資金の逃避先」としての魅力があせることは、当面の間、考えにくいと筆者はみています。

「各種リスク」と「インフレ懸念」は、しばらく(例えば数カ月程度)、ドル高起因の下落圧力を相殺し続け、時折、金相場をさらなる高みに導くきっかけになると、筆者は考えています。

原油急落の主因は、米国の主要株価指数の急落

 先週金曜日(11月19日)、原油相場は急落に見舞われました。報道では、バイデン米大統領の呼びかけに応じた、主要国の石油の戦略備蓄放出が主因とされています。確かに、戦略備蓄の放出は、市場全体の需給バランスを緩め、価格の押し下げ要因になり得ます。

 この点に加え、以下のグラフの通り、欧州の一部で新型コロナ対策のためロックダウンが行われると報じられたことも、急落の一因と考えられます。

図:NYダウ先物ミニとNY原油先物価格の推移(中心限月 5分足 終値)
※時間は日本時間

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 19日(金)の日本時間の夕方まで、原油相場はそれまで維持していたレンジの下限(80ドル)に戻ろうとしていました。しかし、オーストリアでロックダウンが行われる旨の報道がでると、景気後退懸念が広がり、株価指数が急落。株価指数急落により、需要減退懸念が強まり、原油相場も、株価指数と歩調を合わせるように、急落しはじめました。

 こうした、株価指数と原油の短期的な値動きから、足元、原油相場は株価指数に連動していると考えられます。

 グラフからもわかるとおり、先週初めは、「原油安・株価指数高」、「原油高・株価指数安」という、インフレ懸念が強まると株価指数が下落し、インフレ懸念が弱まると株価指数が上昇する動きが目立っていました。しかし現在、2つは連動性を伴った動きを演じています。

 石油の戦略備蓄放出についてですが、以下のとおり、米国はこの数年間、放出し続けています。つまり、足元目立っている戦略備蓄放出の動きは、真新しいものではないわけです。日本も米国の呼びかけに応じて放出を検討していると報じられていますが、価格を下落させる効果があるかどうか、専門家の中でも意見は分かれているようです。

図:米国の戦略備蓄の推移

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータより筆者作成

 このように考えれば、先週の原油相場の急落は、戦略備蓄放出よりも、コロナ起因のロックダウンを嫌気した株価指数の急落の方が、説明力が高いと感じます。

 テクニカルな話ですが、CME(シカゴマーカンタイル取引所)で売買されているWTI原油先物取引は11月19日に限月が交代し、期近限月が2021年12月限から2022年1月限になりました。週明けから見かけ上、数十セント安く取引が始まっていますが、この点は、株価指数急落や備蓄放出が原因ではない点に、留意が必要です。

欧州のコロナの感染状況は悪い。東欧諸国でのワクチン流通が望まれる

 欧州の一部地域におけるロックダウン開始報道が、株価指数急落の直接的な原因となり、原油価格急落の主因となったと書きました。以下のグラフは、EU(現在27カ国)の感染状況を示しています。

図:主要国・地域の新型コロナ100万人あたり新規感染者数 単位:人

出所:Our World in Dataのデータより筆者作成

 また、以下は、EU加盟国(一部その他の国を含む)の、新型コロナワクチンの接種率です。

図:EU加盟国などのワクチン接種率(2回接種)(11月18日時点)

出所:Our World in Dataのデータより筆者作成

 東欧諸国の接種率が低いことがわかります。同データベースより、こうした国では新規死亡者数が多い傾向があることも、示されています。接種率が、西欧諸国のような水準まで上昇すれば、EU域内の感染状況は改善する可能性があります。

 週末急落した株価指数も、それに呼応して急落した原油相場も、今後、ワクチン接種率が低い東欧諸国での接種率が上昇し、新規感染者の増加に歯止めがかかれば、反発しやすくなると、考えます。

目先の金(ゴールド)と原油相場の見方

 目先の金(ゴールド)と原油相場の見方(想定レンジ)は、先週までの内容を踏襲します。(原油のリスク要因に「株安」を追加しています)

図:年内の予想レンジ(11月15日と変わらず)

出所:マーケットスピードⅡなどより筆者作成

 金(ゴールド)は、「インフレ懸念」と「各種リスク」が、ドル高起因の下落圧力を相殺し、上値を伸ばしやすい、原油は株価反発に追随して反発しやすい展開が続くと、今のところ、考えます。(各銘柄のリスク要因は、絶えず留意しておく必要があります)

図:足元の原油市場の材料

出所:筆者作成

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)

[参考]原油関連の具体的な投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP