一般NISA・3つの留意点から考える有効な活用法

 2014年1月からスタートした一般NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)は今年(2021年)、8年目を迎えました。これから一般NISAを利用したい人はどのように制度を活用すればよいでしょうか。次の3つの特徴を踏まえつつ、考えていきたいと思います。

≫2024年からスタートする新NISAについては「2024年から新NISAがスタート。一般NISAとつみたての合体版」で詳しく!

・NISA口座内での商品の預け替え(スイッチング)ができない

・特定口座など他の口座と損益通算ができない

・非課税期間が最長5年間

 非課税口座はなるべく期待リターンの高い商品で運用するのが効率的です。とくに年齢が若く、長期間運用していける人は株式に投資する投資信託やETF(上場投資信託)などを運用のメインに据えたいところです。

 ただし、価格の変動が大きい商品は出口(非課税期間終了時の対応)を考えておく必要があります。

 長期的に資産形成を行うのであれば、「世界の株に幅広く分散された商品を保有し、制度が続く限り、ロールオーバーしていく」のがオーソドックスな活用法です。

活用術・投資信託やETFを活用して「世界の株」に投資する

 一般NISAでは、株式に投資する投資信託を一括で購入することも、一定額ずつコツコツ積み立てていくこともできます。

 世界の株にまとめて投資するには(1)日本を含む世界の株に投資する(2)日本株と日本を除く世界の株(先進国株+新興国株)に投資する(3)日本株、先進国株、新興国株を組み合わせるといったいくつかの方法があります。

投資信託の場合は?

 例えば、(1)ではMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)やFTSE グローバル・オールキャップ・インデックスに連動するインデックス投信を保有すると、1本で日本を含む世界株に投資することができます。

 日本株については、すでに個別株に投資している、あるいは日本株に投資する投信を持っているという人もいるかもしれません。

 その場合には、一般NISAでは(2)MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI、除く日本)に連動するインデックス投信を保有する、あるいは(3)先進国株のインデックスファンド(MSCIコクサイ・インデックス)に連動するインデックス投信を保有するという選択肢もあります。

 一般NISA口座の中だけで世界の株に投資する必要はなく、自分が保有する金融資産全体で世界の株に分散できていればOKです。

ETFの場合は?

 ETFを利用するという方法もあります。中長期的に運用するコア(中核)資産として活用するなら、先進国株や新興国株のETFを組み合わせたり、海外ETFであれば、VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)のように世界株に幅広く分散投資できたりするものが候補になります。

 ETFは値段を指定して購入・売却することができます。一般NISAは利益が出てこそ得する制度なので、値下がりを待って指し値で買う、あるいは売る時に値段を指定して利益を確定できるといった点はメリットといえます。一方、配当金が払い出だされてしまう(一般NISAでは解約扱いになる)点はデメリットです。

個別の株を買うことも選択肢の一つ

 一般NISAでは日本株や米国株を買いたいという方もいるかもしれません。例えば、企業型確定拠出年金やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)に加入していたり、すでにまとまった金額で投資をしていたりして、「資産形成の土台づくりとして、インデックスファンドやETFは保有している」「一般NISAではアクティブに運用したい」など、運用方針が明確に決まっている場合には、個別銘柄を買うというのも選択肢の一つです。

 確定拠出年金では個別株への投資はできないので、DCでは投資信託、NISAでは個別株という使い分けも可能です。

 一般NISA口座では、一度売却したら「その枠は再利用できない」というルールがあり、短期売買には向きません。そのため個別株を購入するなら、中長期で保有できる銘柄を選びたいものです。

 例えば、「長期で値上がりが狙えそうな会社の株を割安のときに買う」あるいは「安定して高い配当金が見込める会社に投資する」などです。

 自分で投資する会社を選べない人はアクティブファンドを購入するという選択肢もあります。ただし、しっかりした投資哲学を持ち、企業の選定プロセスが明確で、運用体制がしっかりしている、運用実績のある投信に限ります。

「世界の株に幅広く分散された商品(長期保有の株を含む)をもって、制度が続く限り、ロールオーバーしていく」という方針で一般NISAを利用する場合、メリットと留意点があります。

メリット

・ロールオーバー時に評価額が120万円(2024年からの新NISAでは122万円)を上回っていた場合、新たなNISA枠では120万円(同122万円)を超える非課税枠が使える(結果的に非課税枠を広げる効果がある)

※120万円(2024年からの新NISAは122万円)を超えて上限なしにロールオーバーできるのは非課税期間満了時のみ。制度上は非課税期間5年が経過する前でも、任意の時点でNISA口座にロールオーバーすることは可能だが、その場合は120万円(同122万円)の範囲内

留意点

・制度がいつまで続くかわからない

・ロールオーバーの手続きをする手間がかかる

ロールオーバーするか否か

 一般NISAのロールオーバーに関する記事が増えていますが、よく目にするのが新たなNISA口座にロールオーバーするか否かの判断基準です。

・2022年以降に上がると思えばロールオーバー

・2022年以降に下がると思えば、早めに手放すか課税口座への払い出し

 というアドバイスが多いのですが、非課税期間が終わる5年後にプラスになっているかどうかは誰にも分かりません(これが分かれば苦労はしません…)。

 先ごろ、ある個人投資家さんから「(利益が出ていたので保有する株式は)ロールオーバーを待たずに全て利益確定しました。先の政策などどう変わるかも分からないからです」というコメントをいただきました。そう考える気持ちも理解できます。

 2024年からスタートする新NISA制度も恒久化などが決まっていない中、運用方針を決めるのは正直難しいのですが、「制度が続く限りロールオーバーして非課税で運用しよう」とか、「利益が出ているときに確定しよう(*)」など、自分なりの方針を決めて利用しましょう。

*長期の資産形成を応援する制度という趣旨からすると、後者の使い方には必ずしも賛成できませんが、現状の制度設計だと致し方ない面もあります。

自分の運用スタイルを見直すチャンスに

 一般NISAはつみたてNISAに比べ、仕組みが複雑です。年間投資額が40万円以内で、つみたてNISAの対象となっている投資信託を積み立てるなら、素直に「つみたてNISA」を選択・活用することをおすすめします(すでに一般NISAを利用している人がつみたてNISAに切り替える場合には注意点もあります。こちらの記事をご参照ください)。

 最後に、一般NISAはあくまでも制度(手段)であって目的ではありません。この機会に、金融資産全体でどう運用するのか、ポートフォリオをどう構築するのか、そして、自分の運用スタイルはどうあるべきか――まずはこれらを考えることが大切です。

 一般NISAを選ぶか、つみたてNISAを活用するのか、あるいはどちらも使わないのか(損益通算をしたいのであえてNISA口座は使わないという選択肢もあるでしょう)をしっかり考えてみてください。

 そして、制度がよりシンプルで、使いやすいものになるように、私たち個人投資家も積極的に意見を言っていくことも大切ではないでしょうか。