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日経平均は小動き、本格化する決算発表を受けて個別物色が中心に

 直近1カ月(10月15日~11月12日)の日経平均株価は1.9%の上昇となりました。2万8,500円レベルで2度下げ渋り、11月に入ってからはレンジを切り上げる動きとなっています。

 期間中の値幅は1,400円程度にとどまり、上下に大きく動いた1カ月前と比較すると、波乱の少ない1カ月であったといえます。

 期間中前半には、米長期金利の上昇、オランダ半導体メーカーの決算発表後の株価下落が重なったことで大きく下げる日があったほか、米アップルやアマゾンの決算発表後の時間外取引下落などが警戒視される場面がありました。

 ただ、10月31日投開票の衆議院選挙において、自民党が市場予想を上回る議席数を獲得したことで、その後は買い安心感が優勢となりました。

 それ以降も、FOMC(米連邦公開市場委員会)や雇用統計を受けて米長期金利が低下方向となり、株式市場の下支え役となりました。一方、日経平均3万円水準が視界に入る局面では、利食い売り圧力が強まって上値を抑える形となっています。

 この期間の個別銘柄では、7-9月期の決算発表が主な物色の焦点となりました。新光電工(6967)SCREEN(7735)東京エレク(8035)イビデン(4062)など、電子部品や半導体関連の一角で強い動きが目立ちました。

 半面、川崎重工(7012)コニカミノルタ(4902)フジクラ(5803)エプソン(6724)など、市場想定を下回る決算発表銘柄が、期間中の下落率上位となっています。

 今回の決算発表では、半導体不足の影響が自動車関連だけでなく、日立(6501)富士通(6702)などの総合電機の一角にも広がっていることが明らかになり、インパクトを強める状況にもなっています。

 ほか、主力株の中での目立った動きとして、ソフトバンクG(9984)は7-9月期の大幅赤字決算を発表しましたが、1兆円を上限とする自社株買いの実施発表がサプライズとなって買われました。

 また、年間配当金計画の増配を発表した日本郵船(9101)ですが、市場の期待ほどの増配幅とならず、失望売りが先行しました。

日本株は堅調な米国株が下支えも、固有の買い材料に乏しい状況が継続

 11月10日に発表された米CPI(消費者物価指数)は前年同月比で6.2%の上昇となり、市場予想を上回り、約31年ぶりの高い伸びとなっています。短期的にサプライズは強まりましたが、その後、米長期金利の動向などは思ったよりも落ち着いた動きとなっています。

 来年半ばまでのテーパリング終了、来年からの利上げ開始などは十分にマーケットに織り込まれたと考えられ、金融政策を警戒視する動きは沈静化しつつあります。米国株市場にとっては買い安心感につながり、日本株の下支え材料にはなってきそうです。

 ただ、日本株に関しては、3万円以上を買い上げる動きはなかなか期待しにくい状況です。19日に発表される経済対策にも期待感は乏しく、当面は日経平均のパフォーマンスは世界市場を下回るものと考えられます。

 今後の市場の注目点としては、米国のクリスマス商戦の行方などが挙げられます。16日には米小売売上高、ウォルマートやホームデポなどの小売企業の決算発表が予定され、年末商戦への期待の程度が推し量れるものとなるでしょう。

 また、中国の景気動向に対する関心も続きそうです。15日に発表された鉱工業生産などは市場予想を上回っていますが、固定資産投資は減速傾向が続いており、不動産開発大手の先行き懸念なども拭えない中では、まだ期待感は高めにくいものとみられます。

 通常、この時期は新春相場の上昇を意識した年末ラリーへの期待も高まりやすいですが、現状ではそのような楽観的な動きは想定しにくい状況です。下値は堅調な米国株動向が支えとなりそうですが、債務上限問題の再燃次第では、このシナリオも崩れる可能性があります。

 7-9月期の決算は想定以上に悪くならなかった印象があります。比較的、原材料費の上昇などを想定して、下期の業績が保守的な銘柄も多くありますが、需要が好調な分野では製品価格への転嫁も見込まれるため、上振れ余地は大きいと考えられます。

 住宅関連や自動車関連分野などでは、こうした価格転嫁が可能と考えます。逆に、非鉄金属や鉄鋼、海運など、これまで市況の上昇メリットを強く受けたところは、今後は買い材料が乏しくなってくると考えます。

 半導体関連に関しても、日米関連銘柄の決算発表が期待材料となっていただけに、18日の米アプライドマテリアルズの決算発表後は、あくまで短期的にですが、好材料出尽くし感が強まりやすいとみられます。

 東証再編の動きも引き続き中期的な注目材料となります。とりわけ、プライム基準を満たすための株式売出しの動きなどは強まる可能性があり、対象となりそうな銘柄はしばらく長期投資を避けることが無難です。

 なお、流通株式時価総額100億円未満の銘柄は、2022年10月からTOPIX(東証株価指数)が段階的にウエートを低減させていく予定にもなっています。

決算発表一巡で見直したい、好業績・高配当利回りの銘柄群

 7-9月期の決算発表が11月12日でほぼ一巡しています。こうした決算発表一巡のタイミングでは、アナリストの業績見直しなども通して、あらためて好決算銘柄が物色し直される展開にもなりやすいです。

 また、企業の株主還元策強化などで配当利回りへの関心がこれまでより高まってきているなか、上半期決算での増配発表なども考慮した高配当利回りランキングなども作成されてくるでしょう。好業績で高配当な銘柄に注目したい局面といえます。

 下表は、配当利回りが3%以上の高配当利回り銘柄の中で、前期実績、今期中間期実績、今期通期見通しともに2ケタ以上の増益銘柄をスクリーニングしたものです。

 好決算銘柄があらためて見直されるタイミングで、注目されやすいと考えられます。業績拡大が続く銘柄には、一段の増配期待なども高まりやすいでしょう。

連続大幅増益予想の高配当利回り銘柄

銘柄名 配当
利回り
株価 時価総額 2021年
3月期
増益率
上半期
増益率
2022年
3月期
増益率
日本郵船 10.31 7,760.0 13,196 84.9 606.6 207.5
HUグループHD 4.63 2,697.0 1,549 155.5 230.9 39.8
コスモエネルギーHD 4.24 2,357.0 1,998 629.1 974.5 53.0
アイシン 4.14 4,110.0 12,111 158.9 黒字転換 51.4
近鉄エクスプレス 3.35 2,988.0 2,151 73.4 89.9 46.3
注:配当利回り、増益率の単位は%、時価総額の単位は億円。株価は2021年11月12日終値、単位は円。
注:増益率は営業利益、2022年3月期は予想。

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.0%以上(11月12日終値ベース)
  2. 3月期本決算
  3. 2021年3月期通期実績、2022年3月期上半期実績、2022年3月期通期見通しとも営業30%以上の増益
  4. 時価総額が1,000億円以上

日本郵船(9101・東証1部)

▼どんな銘柄?

 海運業界で国内トップとなっています。コンテナ船などの定期船、航空運送、物流といった一般貨物輸送事業、自動車やエネルギー輸送などの不定期専用船事業を手掛けています。

 ターミナル拠点は世界で19港、物流事業拠点は世界47カ国、保有船舶は818隻(2021年9月末)で展開しています。

 日本貨物航空、郵船ロジスティクス、共栄タンカーなどを傘下に持ちます。2017年7月に、商船三井、川崎汽船と定期コンテナ船事業を統合しています。

▼業績見通し

 2022年3月期上半期経常利益は3,972億円で前年同期比8.4倍と急拡大しています。また、通期予想は従来の5,000億円から7,100億円、前期比3.3倍に増額、今期3度目の上方修正となる形です。

 上半期経常利益は前年同期比で3,498億円の増益ですが、うち3,026億円は持分法適用会社ONE社を含んだ海運市況の変動要因となっています。年間配当金計画も従来の700円から800円に、再度の引き上げを発表しています。

▼ここがポイント

 会社側では自己株取得も含めた還元性向25%、またはそれを超過することを予定としています。現在の配当計画では配当性向は19%程度なので、自社株買いを実施しない場合、1,050円程度までの増配が今後想定されます。

 ただ、来年度は価格急騰の反動による業績悪化で減配の可能性が高く、結果的に減配幅が小さくなる自社株買いの実施規模が大きくなるほうがポジティブといえます。決算末にかけては自社株買い期待の高まりが株価材料とされる可能性があるでしょう。

HUグループHD(4544・東証1部)

▼どんな銘柄?

 臨床検査薬大手の富士レビオと受託臨床検査大手のSRLが統合して2005年に設立、2020年7月にみらかホールディングスから現社名に変更しています。

 受託臨床検査、臨床検査薬、減菌関連、日本食品エコロジー研究所やセルフメディケーション・健保事業など新規分野の4つの事業セグメントとなっています。新型コロナウイルスに関して、約2.5万件/日以上の検査受託キャパシティを整備しています。

▼業績見通し

 2022年3月期上半期営業利益は270億円で前年同期比3.3倍となり、従来予想の215億円を上振れる着地になりました。つれて、通期予想は従来の300億円から355億円、前期比39.8%増に上方修正しています。

 7-9月期における感染者数の急増に伴い、新型コロナウイルスPCR検査の受託数および検査試薬・キットの需要が想定を上回って推移したもようです。なお、下半期は新セントラルラボ稼働によるコスト増が見込まれています。

▼ここがポイント

 コロナ禍一巡後の業績鈍化懸念が強い状況ですが、海外からの日本入国者数増加に伴う空港での検査需要拡大、無症状者への公費負担によるPCR検査実施の広がりなどは期待され、過度な反動減には至らない可能性があります。

 また、2021年度からの配当政策として連結自己資本配当率を6%とすると掲げています。従来の配当性向50%としていた状況から比べて、2023年3月期の減配懸念は後退している状況です。

コスモエネルギーHD(5021・東証1部)

▼どんな銘柄?

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。アブダビ政府系会社が筆頭株主になっています。

▼業績見通し

 2022年3月期上半期経常損益は950億円で、前年同期比14.5倍の水準となっています。原油価格の上昇、石油製品の販売数量増などが大幅増益の背景です。実力値となる在庫影響を除く経常利益も611億円で同3.2倍に拡大しています。

 在庫影響を除く通期の経常利益計画は従来の800億円から1,130億円、前期比5割近い増益に上方修正しています。年間配当金計画も従来計画比20円増配の100円に引き上げています。

▼ここがポイント

 財務体質の改善が進んでいることが評価されます。2021年度末には自己資本、ネットD/Eレシオ(※)ともに、過去最高を記録した2007年度の水準に近づく見通しとなっています。

 また、目先の注目材料は由利本荘市沖プロジェクトの落札となります。落札の有力企業体と捉えられており、落札後は風力発電事業の拡大に拍車が掛かってくるものとみられます。

※ネットD/Eレシオ……有利子負債から現金同等物を差し引いた純有利子負債を、自己資本で割った値。企業財務の健全性(安全性)を見る指標の1つ。

アイシン(7259・東証1部)

▼どんな銘柄?

 トヨタ自動車系列の自動車部品大手企業です。トランスミッションやエンジン周り部品などのパワートレイン領域、ブレーキやステアリングなどの走行安全領域、ドアやシートなど車体領域、カーナビやセンサーなど情報・電子に至るまで幅広く扱っています。

 2019年には、電動化の普及に向けた駆動モジュール開発・販売へ向けデンソーと合弁会社を設立しています。2021年4月にアイシン精機とアイシン・エイ・ダブリュが合併しています。

▼業績見通し

 2022年3月期上半期営業利益は852億円で前年同期比1,236億円の損益改善となりましたが、従来予想の1,300億円は下振れました。半導体不足などの影響に伴う、自動車減産の影響が直撃した格好です。

 通期営業利益は2,200億円で前期比51.4%増を据え置いています。トヨタの下期の挽回生産などを織り込んでいるようです。なお、年間配当金計画も、前期比50円増配の170円を据え置いています。

▼ここがポイント

 自動車関連業界に関しては全般的に、上半期決算発表で当面の悪材料は出尽くしと判断されます。自動車需要自体は良好なため、挽回生産が強まる可能性は高く、また、原材料費上昇分も製品価格への転嫁で相当程度はカバーされるとみられます。

 同社の場合は、EVシフトによるマイナス影響も強く織り込まれており、e-Axleや回生協調ブレーキなどといった電動車関連製品の新規拡販が進むことによる見直し余地も大きいとみられます。

近鉄エクスプレス(9375・東証1部)

▼どんな銘柄?

 航空輸送や海上輸送など、国際貨物運送事業の大手企業となります。グローバルに46カ国、301都市、697拠点のネットワークを保有(2021年9月末)しています。

 また、物流を一括で管理するロジスティクス事業も310を超える物流施設で展開しています。同事業では、2015年5月にAPLロジスティクス社を買収しています。

 国内競合企業との比較では外資系の荷物に強みを持ち、エレクトロニクス業界のウエートが高いともみられています。

▼業績見通し

 2022年3月期上半期営業利益は247億円で前年同期比89.9%の増益となり、通期予想は従来の317億円から500億円、前期比46.3%増と、一転して大幅増益見通しに上方修正しています。

 航空・海上貨物輸送スペースの供給不足を背景に、販売価格の上昇が続いていることが収益拡大の背景となっています。業績の上振れを背景として、年間配当金も前期実績・並びに従来予想である50円から100円に引き上げています。

▼ここがポイント

 2023年3月期は輸送運賃の低下なども想定されるため、業績の悪化は避けられないとみられています。ただ、コロナ禍や半導体不足の影響が一巡することで、グローバルな貿易量自体は拡大方向に向かうと考えられます。

 やや悲観的な見方に傾き過ぎている印象もあります。また、過去には競合の郵船ロジスティクスを日本郵船が完全子会社化しているため、同社にも折に触れて再編期待が波及する可能性もあるでしょう。