S&P500種指数が過去最高値を更新した理由

 米国市場では、先週から今週にかけてS&P500種指数やNYダウ(ダウ工業株30種平均)が過去最高値を更新する堅調となりました。

 インフレ警戒感や債務上限問題の不安は根強い一方、景気の底堅さと決算発表の好調が確認されるなか、長期金利の上昇に一服感が示されたことでグロース株に回復傾向がみられます。

 図表1は、S&P500種指数と100日および200日移動平均線の動きを示したものです。次の節目とされる4,600ポイントが接近。S&P500種指数の年初来騰落率は+21.2%となっています(27日)。

 7-9月期の決算発表では、注目度の高いテクノロジー業界でネットフリックス、テスラ、マイクロソフト、アルファベットなどが市場予想を上回る好決算を発表しました。

 特にテスラ(TSLA)は半導体不足に対応する社内の戦略的設計などが功を奏して大幅な増収・増益を発表。大手レンタカーグループのハーツから大量のEV受注を得たことも追い風となり上場来高値を更新しました。

 テスラの株価は年初来で+47.1%となり、時価総額は自動車メーカーとして初めて1兆ドルを突破しました(詳細は後述)。

 テスラはナスダック総合指数、ナスダック100指数、S&P500種指数を構成する主要銘柄(時価総額ではフェイスブックを抜き第5位)に浮上し、「GAFAMからGAFAMT(GAFAMにテスラを加えた米国市場における6強)への変化」を印象付けています。

<図表1:S&P500種指数は過去最高値を更新した>

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年10月~2021年10月27日)

米国株高を支える良好な決算発表と業績見通し

 米国市場が「秋の株安」を経て株高基調に回帰した要因として、発表が進んでいる第3Q(7-9月期)決算の好調が挙げられます。

 資源相場の上昇や一部経済指標の停滞でやや慎重な見通しが多くなったアナリスト予想平均を上回り、総じては増収増益(前年同期よりも売上高も純利益額も伸びている状況)が確認されています。

 図表2は、S&P500種指数の構成銘柄(米国の大手500企業)のうち、211社が企業決算を発表した時点(10月27日)の業績動向を一覧にしたものです。売上高は前年同期比+14.5%の増収、純利益は36.6%の増益と伸びています。

 純利益の伸びが売上高の伸びを上回っていることに加え、アナリストの事前市場予想平均に対してサプライズ率(上方乖離率)が売上高で+1.9%、純利益で+11.3%とポジティブである点も好感されています。

 500社のうちいまだ約42%の企業が決算発表を済ませた時点ですが、エネルギー、素材、金融、テクノロジー業種の一部などが業績好調を主導している現状です。

図表2:第3Qの決算発表は市場予想を上回る好調

(出所)Bloombergによる集計より楽天証券経済研究所作成(2021年10月27日)

 こうした好決算と良好なガイダンス(企業が公表する業績見通し)を受け、米国市場全体の業績見通しも改善しています。図表3は、S&P500種指数ベースの2019年以降における12カ月先予想EPS(1株当たり利益:時価総額加重平均)を巡る市場予想平均を示したものです。

 業績見通しが急悪化した2020年春のコロナ危機を乗り越え、大規模な金融緩和と財政出動で景気見通しが改善。2020年後半に予想EPSは回復基調を続け、2021年春に予想EPSは過去最高を更新しました。

 第3Q入りした10月には業績見通しが一段と拡大し、現在の水準(213.65)は過去12カ月累計実績EPSに対し(前年同期比)+24.3の増益が見込まれています。

 いまだ金融相場の色彩も残る米国市場で、株式が新年(2022年)の企業収益拡大を視野に入れた「業績相場」にあることがわかります。

<図表3:S&P500種指数の堅調を支える「業績相場」

(出所) Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年初~2021年10月22日)

テスラの時価総額1兆ドル超で「GAFAMT」の時代が到来

 こうしたなか、投資家の関心は上場来高値を更新したEV(電気自動車)最大手であるテスラ(TSLA)に集まっています。同社が10月20日に発表した第3Q(7-9月期)決算では、売上高が前年同期比で+57%、純利益は前年同期の約4.9倍と市場予想を大きく上回る好調を示しました。

 半導体など部材調達に成功して販売量を増やし、25日には米レンタカー大手ハーツ・グローバル・ホールディングスがテスラから約10万台のEVを購入すると表明しました。

 テスラの株価は急伸しており、年初来騰落率は+47.1%とS&P500種指数(同+21.2%)やナスダック100指数(同+21.0%)をしのいでいます。

 テスラの時価総額は10月に初めて1兆ドルを突破し、米国市場でGAFAM(アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック)に分け入り「時価総額1兆ドルクラブ」の仲間入りを果たしました。

 ハーツに象徴されるレンタカー業界でのEV受注が増加すれば、法人需要の本格的拡大でEV需要に弾みがつく可能性があります。

 テスラの2021年の販売目標は75万台超とまだトヨタ自動車の10分の1にも達していませんが、世界的な排ガス規制を追い風にするEV業界を先導する存在感で、その時価総額は約118兆円とトヨタ(約32兆円)の約3.7倍まで膨らんでいます。

 図表4は、ナスダック100指数構成銘柄の時価総額上位10社を示したものです。大手6社の年初来平均騰落率は+31.7%となっており、S&P500種指数の上位構成銘柄と重複しています。

「GAFAMT」の時価総額は約1,190兆円に膨らんでおり、TOPIX全体(2,180銘柄で総計約444兆円)の約2.7倍となっています。GAFAMTの時価総額はS&P500種指数の時価総額において約26%を占めています。

 デジタル革命(DX)分野におけるイノベーションを先導する銘柄群が米国株堅調をけん引している状況を鮮明にしています。

図表4:GAFAMTはナスダック100指数の上位6社

*上記はナスダック100指数構成銘柄を時価総額の降順に示したものです。
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年10月27日)

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