自民が苦戦?

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 衆院選の投開票日を10月31日に控え、選挙戦は混迷を深めています。自民党の単独過半数割れを予想する報道機関もあり、自民党の大幅な議席減少が現実味を増しています。

「急告 情勢緊迫」。自民党は10月21日、甘利明幹事長と遠藤利明選挙対策委員長の連名で、こんな書き出しの書状を全国各地の候補者に送りました。報道各社による選挙戦序盤の議席予想が総じて自民党にとって厳しい内容だったためです。

 自民党筋によると、最も衝撃的だったのは読売新聞が10月19~20日に実施した選挙情勢調査。自民党について「単独で衆院定数の過半数(233)を維持できるかどうかの攻防となっている」と報じました。

 全国紙の政治記者は「明示していないだけで、この記事は単独過半数割れもあり得ると読むものだ」と解説します。

 自民党に厳しめの数字が出るといわれるJNN(TBS系テレビ局のネットワーク)・毎日新聞の共同調査でも、自民党が単独過半数を「うかがう勢い」としており、こちらも単独過半数割れに含みを持たせています。

 これらの調査通りなら、自民党は公示(10月19日)前の276議席からの大幅な議席減は必至です。

自民党マル秘、当落予想の中身

 一方、自民党は公示直前の15日から17日にかけて今年4回目の独自調査を実施した模様です。有力な対抗候補者との支持率の差を、A(15ポイント以上)からD(マイナス15ポイント未満)までの10段階に分けて優劣を判定しています。

 詳細を紹介するのは控えますが、一部で出回った同党作成とされる資料では、東京都の25小選挙区のうち前回(10月7~10日調査)と比較可能なのは22選挙区あり、このうち評価「アップ」と「ダウン」がともに8選挙区で、「変わらず」が6選挙区でした。

 あちらが立てばこちらが立たず、の状況です。冒頭で紹介した甘利幹事長らによる「急告」で、「多くの候補者が当落を争う極めて緊迫した状況」とした通りです。

 岸田文雄首相は10月16日早朝の新幹線で岩手県へ向かい、同県と宮城、福島県を回って翌17日夕方に東京へ戻っています。19日にも岸田氏は再び福島市を訪れ、公示後の第一声となる街頭演説に臨みました。

 大票田の都市部や接戦区のテコ入れではなく、東日本大震災の被災地を巡り、住民と向き合う姿勢に、野党陣営も感心したそうです。

岸田首相は「長老支配」脱却を意識?

 その一方、岸田氏がほぼ連日、日によっては1日に複数回、顔を合わせている人物がいます。自民党選挙対策委員長の遠藤利明氏です。

 遠藤氏は自民党総裁選で岸田陣営の選挙対策本部長を務め、岸田氏を首相の座へ導いた軍師です。選挙対策本部長は選挙の際は幹事長の手足となって、公認・推薦の調整や選挙情勢の分析などを取り仕切る要職です。

 ちなみに衆院解散(10月14日)以降、岸田氏と会ったのは麻生太郎副総裁と甘利明幹事長がともに10月15日と18日の2回ずつ。菅義偉元首相、二階俊博前幹事長、安倍晋三元首相はいずれもゼロ回です。「長老支配」が支持率上昇の足を引っ張っているとの報道が多い岸田氏ですが、世代交代を意識してか、党内実力者と少しずつ距離を置いている様子が浮かび上がります。

野党共闘も公明党の議席は増える見通し

 一方、野党は立憲民主党の枝野幸男代表がフル稼働中ですが、自民党に比べるとメディアに登場する政治家は少なく、役者がいない感もあります。立憲民主党は共産党、国民民主党、れいわ新撰組、社民党との野党共闘で非自民票を結集し、政権交代を訴えています。小選挙区の7割ほどで候補者を一本化し、50前後の小選挙区で自民党と野党共闘候補が伯仲しているとみられます。

 気勢の上がる野党陣営ですが、選挙巧者の公明党が2017年選挙で獲得した21議席を上回る見通しで、自民党と公明党の与党合計の過半数は揺るぎそうにありません。

 2017年の総選挙では、投票率は53.68%と過去最低だった2014年選挙に次ぐ低率にとどまりました。2017年は7月に野党の選挙協力が進まなかった上、超大型の台風21号が接近して都市部の「支持政党なし」層が大量に棄権したことが自民党圧勝の要因とされます。

 今回も最終的には、浮動票の獲得状況が与野党の勝敗に大きく影響しそうです。

岸田内閣関連株、キーワードは「経産省」

 総選挙後には、岸田首相の掲げる「成長と分配の好循環」という枠組みに自民・公明両党が肉付けを進めていくことになりそうです。岸田氏周辺は事実上の後見人役で元経産相の甘利明幹事長や萩生田光一経産相ら経産省人脈で固められています。

 そこで、岸田内閣関連株も経産省という共通ワードでくくってみました。

 経産・商工族トップの甘利氏が熱心なのは経済安全保障。岸田氏と自民党総裁の椅子を争った高市早苗政調会長が力を入れる分野でもあります。

 ひと口に経済安全保障といっても、テロ対策や戦争といった軍事的な色合いの濃いものから、先端技術の流出防止、原材料や部品調達ルートの確保など切り口は多様です。つかみどころのない分野だけに、今後の進展の余地は大きいでしょう。

 AI(人工知能)を駆使した言語解析技術を持つFRONTEO(2158)は、東大先端化学技術研究センターと経済安全保障上のリスクが企業に与える影響について共同研究を始めています。

 経済安保分野では、政府が1,000億円の基金を創設し、先端技術の開発を加速する方針です。これに関して、大容量超高速通信を可能にする量子ドットレーザー技術で先端を行くQDレーザ(6613)が注目されます。

 内政分野では、新型コロナ対策が引き続き大きな課題です。新型コロナ対策の主軸は厚生労働省ですが、中小企業対策は経産省の仕事。コロナワクチン普及後も新型コロナ自体は根絶できず、今後も流行期の経済活動停滞は避けられないようです。

 一定の条件下での持続化給付金の素早い審査と支給は内閣支持率にも影響する重要課題です。中小企業の助成金診断システムを提供するライトアップ(6580)など新興IT企業の活躍の場が広がりそうです。

 また、学校教育現場のICT(情報通信技術)化も大きな課題です。人材育成面での立ち遅れを指摘する声が産業界から強く、産業界の意見を吸い上げる経産相人脈の後押しが、岸田政権による教育のICT化を促進することになりそうです。

 学校向けICTのチエル(3933)は英語の4技能(読む、書く、聞く、話す)教材が経産省の補助金を得るなど政府の路線とぴったり息が合っているようです。

 KADOKAWA(9468)はニコニコ動画が自民党寄りとされています。ネットを活用した通信制のN高校で培ったノウハウはコロナ禍のリモート授業で一躍脚光を浴びました。電子書籍にも力を入れており、紙からタブレットへ、対面からリモートへという時代の流れを先取りしています。

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