岸田首相は議席減を覚悟?
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衆議院が10月14日に解散し、19日の公示を待たずに事実上の選挙戦に突入しました。投開票は31日です。
今回の総選挙は小選挙区289、比例代表176の合計465議席をめぐって与野党が激突します。
岸田文雄首相は衆議院を解散した10月14日、勝敗ラインについて「与党で過半数」と述べました。自民党総裁選で勝利した9月29日から変わらず、自民、公明両党の合計で233議席が目標です。
解散前の与党議席数304(自民党275、公明党29)を大幅に下回り、岸田首相は一定の議席減を覚悟しているのかもしれません。
2017年選挙では、自民党が総議席数(今回と同じ465議席)の61%に当たる284議席を獲得し、公明党の29議席と合わせて与党で総議席数の67%、313議席を確保しました。野党の議席数は立憲民主党55、希望の党(2018年解散)50、日本共産党12などでした。
一方、比例代表の得票率は自民党33.3%、立憲民主党19.9%、希望の党17.4%、公明党12.5%、共産党7.9%でした。
スピード選挙に野党は候補者一本化で挑む
世論調査や比例代表選の得票から浮かび上がる政党支持率と実際の議席数の間には、大きな差があります。2017年選挙に限らず、政党支持率のわずかな優劣が獲得議席数の大きな差として反映されるのが、小選挙区で議席の62%が決まる今の選挙制度です。
このため、与野党は有権者への政策アピールに力を入れるだけでなく、選挙戦術にも知恵を絞っています。
今回の特徴は野党陣営の候補者一本化と、首相就任から10日で解散し、解散から投票まで17日という現憲法下の最短で進むスピード選挙です。
立憲民主党の枝野幸男代表は「220の選挙区で一騎打ちの構造がつくれた」と、共産党との共闘関係構築が進んだことを強調しています。ただ、立憲、共産両党は自衛隊を巡る憲法解釈など根本的な部分で違いが大きく、自民党は選挙のためだけの野合だとして批判しています。
象徴的なのは、れいわ新選組の山本太郎代表。10月8日、東京8区に立候補して自民党元幹事長の石原伸晃氏に挑むと発表しましたが、立憲民主党の強い反発にあって10月16日には比例代表東京ブロックからの出馬へ方針転換しました。
この間、山本氏には甘利明自民党幹事長が当選を重ねてきた神奈川13区での出馬観測も流れました。山本氏が選挙区の選定でつまずいたことを野党陣営の足並みの不一致と見るか、短期間での出馬撤回を野党共闘の成果と見るか、評価は開票結果が出るまでわかりません。
世論調査では、自民党が優位です。共同通信社が10月16~17日に実施した全国電話世論調査(第1回トレンド調査)では、比例代表の投票先はトップの自民党が29.6%と2位の立憲民主党の9.7%に大差を付け、支持政党でも自民党が49.1%と報じられています。
自民党が作成?マル秘調査リポートの中身
報道機関による世論調査とは別に、政党も独自にリサーチを重ねています。政官界の一部で回し読みされているのは自民党が作成したとみられる調査リポート。表紙には「衆議院議員選挙調査結果一覧」のタイトルがあり、右上にはマル秘の印があります。
最新の調査が実施されたのは10月7~10日。4月と8月に続いて今年3回目です。
内容は北海道から沖縄までの全選挙区の情勢です。有力な対抗候補者との支持率の差をA(15ポイント以上)、Aマイナス(10ポイント以上15ポイント未満)からD(マイナス15ポイント未満)まで10段階に分けて調査段階での優劣を判定しています。
詳細は省きますが、たとえば東京都では25小選挙区のうち16選挙区で、前回調査に比べて自民党支持率がランクアップしています。
ただ、前回調査が実施されたのは8月18~22日。この間、8月19日に東京都の新型コロナウイルス感染者が5,534人と過去最高を記録し、菅・前内閣のコロナ対策への風当たりが最も強かった時期でした。
新型コロナ感染者の急減を踏まえると、政権を担う自民党の支持率上昇は当然かもしれません。
新型コロナは与野党ともに影響。注目すべきコロナ対策関連銘柄は?
与野党ともに気がかりなのはコロナ禍です。新規感染者が激減する一方、緊急事態宣言解除後の人出の回復は著しく、流行再燃の危険と隣り合わせです。
選挙期間に感染者が増えれば自民党にとって大きな逆風になりますが、さらに候補者が選挙戦の最中に感染して自宅療養や入院となれば、大きなダメージを受ける点では与党も野党も同じです。
各種世論調査でも、投票の際に重視する項目としてコロナ対策が上位に顔を出しています。
第6波の備えで注目される銘柄は?
岸田首相は衆院解散を午後に控えた14日朝にも新型コロナ対策分科会の尾身茂会長と面談しています。尾身会長は、岸田首相が説明した政府の対策には、医療の供給体制強化や気楽に検査を受けられるシステムづくりなどが盛り込まれていたことを明かしています。
このため、今冬にも予想される流行第6波に備えて、検査体制の強化や人工呼吸器の確保が急がれます。
人工呼吸器メーカーではECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)を手掛けるテルモ(4543)を筆頭に旭化成(3407)や日本光電(6849)、星医療酸器(7634)が注目されます。医師や看護師の確保には、医療人材紹介のエス・エム・エス(2175)、メドレー(4480)、MRT(6034)の出番です。
「Go To トラベル」再開で中小型銘柄にも注目
一方、岸田首相は観光支援策「Go To トラベル」の早期再開に意欲を見せています。売り上げが「蒸発」してしまったホテル・旅館業、鉄道や航空会社だけでなく観光地全体の地域振興につながるためです。
菅義偉・前首相もGo To に熱心でしたが、大手ホテルの週末利用に需要が集中した反省があり、人流の活発化が感染再拡大の一因になったとの疑念もあります。そこで岸田氏はワクチン接種証明や陰性証明を組み合わせ、「平日」「中小零細施設」の利用を手厚くバックアップする意向を明らかにしています。
旅行関連では、JAL(9201)やJR東日本(9020)といった主力銘柄だけでなく、航空券などのネット販売のエアトリ(6191)、旅工房(6548)などは中小型銘柄特有の軽い値動きを期待したいところです。
ワクチン接種関連で注目の3銘柄
政府・厚生労働省は12月の第3回接種開始を目標に、各都道府県へのワクチン配布計画をまとめています。ダイレクトメール首位のディーエムエス(9782)など小型銘柄の値動きに注目です。接種済みを証明するワクチンパスポートの30カ国語対応サービスを提供する勤次郎(4013)、ワクチンパスポートに必要なマイナンバーカードなどで実績のあるITbookホールディングス(1447)も投資家の関心を呼ぶでしょう。
与党大敗なら耐久消費財関連銘柄に注目も
選挙結果次第で今後の展開が大きく変わりそうなのが給付金です。
自民党は非正規雇用者などに限定した経済支援を掲げていますが、公明党は18歳以下の子どもに一律10万円相当の給付を主張し、与党内でも意見が分かれています。立憲民主党、共産党、日本維新の会、国民民主党もそれぞれ6万~20万円の給付を唱えています。
共同通信社の10月16~17日調査では、安倍、菅両政権の路線について「転換するべきだ」が68.9%と、「継承するべきだ」の26.7%を圧倒し、国民の「競争疲れ」と格差問題への強い関心がうかがえます。
来年7月28日には参院議員の半数が6年の任期を満了して選挙が実施されるため、今回の衆院選で与党が大敗すれば、自民党も大型給付へ方向転換を強いられるでしょう。
昨年4月に安倍晋三元首相が取りまとめた一律10万円の特別定額給付金は7割が貯蓄に回り、残りは冷蔵庫や洗濯機など大型家電など耐久消費財の購入に充てられたようです。
世論調査の結果を見る限り自民党の野党転落の可能性はかなり低そうですが、辛勝に終われば、次期参院選を意識した大型給付の思惑から、ビックカメラ(3048)、ヤマダホールディングス(9831)など家電量販店の売り上げ増加の連想を呼ぶ可能性があります。
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