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日経平均は菅首相の出馬見送りで一段高、3万円台を回復
直近1カ月(8月17日~9月10日)の日経平均株価は10.4%の上昇となりました。8月末から株価が急騰し、9月10日まで9営業日での上昇幅は2,592円となっています。
8月20日には今年に入って初めての2万7,000円割れとなりましたが、その後は一転して急反発する形となり、9月7日には4月9日以来の3万円台回復を果たしています。
米国の金融緩和策早期縮小懸念の強まりに加えて、トヨタの大幅な減産が発表されたことで8月20日に安値を付けました。
しかしその後は米国株高を支援に下げ渋り、ジャクソンホール会合を波乱なく通過したこと、月末が安いというアノマリーも払拭(ふっしょく)されたことで、徐々に買い安心感が強まっていきました。
さらに、9月3日には菅首相が次期総裁選への出馬を見送ると伝わり、その後の株価上昇ピッチは一段と強まることになりました。自民党支持率の回復や政策論議の高まりなどが期待される形となったようです。
また、国内での新型コロナウイルス感染者数がピークアウト感を強めてきたことも相場の支援になりました。
この期間に上昇が目立ったものとしては、レーザーテック(6920)を中心とした半導体関連株、前回に引き続き大手海運株などが挙げられます。また、「ポスト菅」を巡る政策論議の高まりを映して、レノバ(9519)などの再生エネルギー関連株、DX(デジタルトランスフォーメーション)関連株なども総じて強い動きが目立ちました。
逆に、公募増資の実施を発表したJR西日本(9021)が大幅下落となり、他の電鉄株などにも警戒感が波及する場面が見られました。
ネクソン(3659)などゲーム関連株の一角には、中国での政策リスクが警戒視される状況ともなりました。トヨタ自動車(7203)の減産ショックが尾を引いて、自動車株も総じて上値の重い動きでした。
「配当」に関するトピックスとしては、明和産業(8103)が大幅な増配を発表(年間配当金は前期比100円増配の115円)、前日終値をベースとすると配当利回りは24.6%もの水準となり、その後株価は急騰しました。
短期的には過熱感も。海外投資家の日本株シフトを見込んで押し目買いに注目
当面の国内イベントとしては29日投開票の自民党総裁選が最も注目されるでしょう。現段階では3氏が名乗りを上げ、これから政策論議が一段と活発化するものとみられます。こうした状況は株式市場にとって追い風になるとみられ、相場の下支え材料となりそうです。
とりわけ、脱炭素、DXの推進は各者共通とも捉えられるので、関連銘柄の物色機会は増えそうです。
現状、河野氏、岸田氏の争いとみられていますが、財政規律に目配りの岸田氏よりも、規制緩和の進展が期待される河野氏のほうが株式市場にとっては、ポジティブな流れとなりそうです。
また、アベノミクス継承の高市氏もプラスとなりそうです。ただ、3者ともに金融所得課税の見直しには前向きな印象もあるため、リスク要因として考えておくべきでしょう。
米国では21~22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)が注目イベントとなります。
もともと、9月は米国株のパフォーマンスが低い月として知られており、テーパリングのアナウンスがあれば(スタートは来年とみられますが)、短期的な調整色が強まる可能性があるでしょう。
さらに、26日にはドイツの総選挙が行われます。選挙後の連立政権の行方、新政権の政策など不透明感は強く、株式市場の手控え要因につながる可能性もあるでしょう。
そのほか、懸念要因としては中国の景気減速が挙げられます。15日にもいくつか指標の発表がありますが、それ以外に7月に大きく落ち込んだ中国向けの工作機械受注の動向なども注目すべきでしょう。
9月10日にかけて日経平均は大きく上昇していますが、その間の米国株は連日の下落基調となっています。
相対的に出遅れていた日本株の見直しが、総裁選の実施をきっかけに強まってきているとも考えられますが、米国株が一段と調整する状況となれば、日本株の独歩高にも限度があるでしょう。
短期的には過熱感を冷やす動きが強まると予想されます。海外投資家による日本株への資金シフトの加速化を見込むにしても、3万円割れ水準での押し目買いが妙味と判断したいです。
物色としては、新型コロナウイルス感染者数のピークアウトを映して、アフターコロナ銘柄などが注目されます。その中では、短期的に財務体質が傷んだ銘柄も多く、ファイナンスへの警戒感は残るため、関連の好財務銘柄に期待です。
海外投資家の日本株シフトの動きで期待される銘柄群
大手海運株や鉄鋼株など、いわゆるオールドエコノミーの大型株が足元で活況となっているように、その買い材料の主因となっている配当利回りへの関心は高まっているとみられます。
加えて、欧米では量的緩和策の縮小が視野に入っており、長期金利は上昇方向に向かう可能性は高く、その面でも高利回り銘柄への関心は高まっていくものと考えられます。
下表は、配当利回りが3%以上の銘柄の中で、海外投資家の保有比率が高い大型株をスクリーニングしたものです。新首相の誕生による海外投資家の日本株シフトを期待するのであれば、現在海外投資家の保有比率の高い大型株が真っ先に買われるものとみられます。
日本株一段高の際は先導役になる銘柄といえるでしょう。海外投資家が重視すると言われるROE(自己資本利益率)水準の高さも魅力になるとみられます。
外国人投資家の保有比率が高い高配当利回りの大型株
コード | 銘柄名 | 会社予想配当利回り | 株価 | 時価総額 | 外国法人持株比率 | 前期ROE | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9101 | 日本郵船 | 7.09 | 9,880.0 | 16,801 | 34.79 | 25.6 | |||||
8795 | T&Dホールディングス | 3.86 | 1,452.0 | 9,191 | 34.29 | 12.2 | |||||
8002 | 丸紅 | 3.63 | 935.7 | 16,267 | 30.35 | 15.6 | |||||
1878 | 大東建託 | 3.56 | 13,270.0 | 9,146 | 47.83 | 20.9 | |||||
1802 | 大林組 | 3.41 | 939.0 | 6,775 | 35.12 | 11.3 | |||||
配当利回り平均(%) | 4.31 | ||||||||||
注:会社予想配当利回り、外国法人持株比率、前期ROEの単位は%、時価総額の単位は億円。株価は2021年9月10日終値、単位は円。 |
銘柄選定の要件
- 予想配当利回りが3.0%以上(9月10日終値ベース)
- 時価総額が5,000億円以上
- 外国法人持株比率が30%以上
- 前期実績ROEが10%以上
銘柄コメント
日本郵船(9101・東証1部)
▼どんな銘柄?
海運業界で国内トップとなっています。コンテナ船などの定期船、航空運送、物流といった一般貨物輸送事業、自動車やエネルギー輸送などの不定期専用船事業を手掛けています。
ターミナル拠点は世界で19港、物流事業拠点は世界47カ国、保有船舶は826隻(2021年3月末)で展開しています。日本貨物航空、郵船ロジスティクス、共栄タンカーなどを傘下に持ちます。
2017年7月に、商船三井、川崎汽船と定期コンテナ船事業を統合しています。
▼業績見通し
2021年3月期第1四半期経常利益は1,536億円で前年同期比9.3倍と急拡大しています。
つれて、通期予想は従来の3,700億円から5,000億円、前期比2.3倍の水準に上方修正、7月1日にも1,400億円から3,700億円に上方修正しており、再度の大幅上方修正となる形です。
定期船事業における持分法適用会社ONE社の収益拡大が好業績の主因となっています。年間配当金計画も従来の200円から700円にまで引き上げました。
▼ここがポイント
大幅増配による高配当利回りを背景に、8月以降株価は急伸しています。それでも配当利回りは7.1%(2021年9月13日時点)と極めて高水準の状態にあります。
第1四半期の業績進捗率が高い水準にあり、足元でも海運市況が好調推移であることから、一段の業績上振れ期待は高いとみられます。会社方針である配当性向25%を考慮にすると、さらなる増配、配当利回りの上昇余地は大きいと考えられます。
また、ONE社の持分価値だけで、現在の時価総額を上回っているとの指摘もあります。
T&Dホールディングス(8795・東証1部)
▼どんな銘柄?
大同生命、太陽生命、T&Dフィナンシャル生命の生保3社を中核とする生命保険グループです。
ペット&ファミリー損保なども抱えるほか、T&Dアセットマネジメントで資産運用関連事業も手掛けています。保有契約高の市場シェアは7.1%で業界第6位となっています。
太陽生命は家庭市場をターゲットに大都市圏・地方中核都市に集中展開し、大同生命は中小企業市場に特化して強力な代理店網を築いています。
▼業績見通し
2022年3月期第1四半期純損益は325億円の赤字で、前年同期比1,010億円の損益悪化となりました。
関連会社化したフォーティテュード社の会計処理基準を起因とした一時的な評価性損失の発生が背景となっており、経営実態を表す指標であるグループ修正利益は241億円で同64.7%増益となっています。
国内生命保険事業が堅調に推移したことで大幅増益となっています。2022年3月期通期のグループ修正利益は730億円で前期比6.4%減益見通しとしています。
▼ここがポイント
生命保険株は金利の上昇局面で銀行株と同様に関心が高まりやすくなります。米国の量的緩和策縮小局面が接近する状況下、国内長期金利も今後上昇傾向を強める可能性が高いとみられます。
第1四半期決算時には見送られましたが、自己株式の取得を実施する可能性は高く、四半期決算発表に向けて期待感も高まりやすくなります。
配当金は段階的に修正DOE(株主資本配当率:配当金総額÷株主資本)4%を目指していく方針です。2022年3月期の修正DOEは3.5%程度の水準です。
丸紅(8002・東証1部)
▼どんな銘柄?
総合商社の一角で、取扱量トップを誇る穀物事業、電力事業などに強みを持っています。独立系発電事業者としては業界トップクラスの持分発電容量となっているほか、チリで鉱山開発を展開しており、銅の持分権益量も日本企業ではトップクラスです。
また、日本企業ではいち早く中国での住宅供給を行ってきたほか、植林可能地14万haも日本企業トップクラスの広さです。各国で展開している水事業などでも優位性があります。
▼業績見通し
2022年3月期第1四半期純利益は1,121億円で前年同期比92.9%増益となりました。資源価格の上昇によって金属事業が増益となったほか、非資源でも、アグリ、機械、金融・リース、航空・船舶など幅広い分野が好調でした。
増益幅は資源、非資源と同水準になっています。
2022年3月期通期純利益は2,300億円で前期比2.1%増益の予想で、年間配当金は前期比1円増配の34円を計画しています。
▼ここがポイント
第1四半期純利益の通期計画に対する進捗率は49%に達しており、上半期決算時に上方修正が行われる可能性は高いとみられます。市場コンセンサスは会社計画を800億円程度上振れる状況にもあります。
年間配当金も配当性向25%に沿った大幅な増配が期待できるでしょう。資源価格の反動安などといったリスク要因もありますが、財務体質の改善も進み、2023年3月期以降は自社株買いも含めた株主還元強化も期待できます。
大東建託(1878・東証1部)
▼どんな銘柄?
賃貸建物の設計・施工を行う建設事業、建設した賃貸建物の管理・運営代行などを行う不動産事業を展開しています。賃貸住宅入居者数は約207万人、賃貸建物管理戸数は113.0万戸(ともに2020年3月末時点)となっています。
住宅供給戸数、賃貸仲介件数、賃貸住宅管理戸数ともに市場シェアトップの位置づけとなっています。貸家着工戸数のシェアは15%前後の水準にあります。
配当性向は50%に設定しています。
▼業績見通し
2021年3月期第1四半期営業利益は270億円で前年同期比14.3%増益となりました。一括借上事業、不動産仲介事業、家賃保証事業などの利益が増加、不動産事業が2ケタ増益をけん引しました。
また、建設事業は売上総利益率の上昇が下支えになっています。人件費の増加を吸収する形になっています。2022年3月期通期では940億円、前期比8.4%増を予想しています。
配当性向50%に沿って、年間配当金は前期比17円増の472円を計画しています。
▼ここがポイント
第1四半期の建設事業の受注高は前年同期比5.6倍と急回復していますが、一昨年同期比では依然として水面下にあります。
新型コロナ感染拡大の影響が依然として残っているもようであり、今後、感染者数ピークアウトで同受注高の回復が進むようであれば、株価のポジティブインパクトにつながっていくとみられます。
木材価格高騰の一服、顧客である地主に対する地方銀行の融資姿勢改善傾向なども支援材料でしょう。
大林組(1802・東証1部)
▼どんな銘柄?
大手ゼネコンの一角です。相対的に、関西圏で強み、公共工事のウエートが高いとされています。六本木ヒルズや東京スカイツリーなどを手がけました。
ほか、PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)事業では国内トップクラスの実績があり、新領域事業では水素発電、地熱発電、風力発電など幅広く再生可能エネルギー事業に注力しています。
1964年にタイ事務所をいち早く開設するなど、海外展開も積極的に推進しています。
▼業績見通し
2022年3月期第1四半期営業利益は145億円で前年同期比26.6%減益となりました。売上高は増加しましたが、国内土木事業における一部大型工事の採算性が低下したこと、海外建設子会社における前期の好採算物件の一巡などが影響して、利益率が悪化した格好です。
第1四半期受注高は前年同期比55.1%増と大幅回復、一昨年同期との比較でも大幅に水準が高まっています。2022年3月期通期営業利益は950億円、前期比22.9%減を見込んでいます。
▼ここがポイント
上半期決算発表時には、コーポレートガバナンスの改善を含む新中期計画の概要が発表されるとみられています。株主還元強化策への期待が当面の株価押し上げ材料となりそうです。
また、次期政権発足に伴い、災害対策を目的とした補正予算への期待感、注力する再生可能エネルギーの市場拡大期待などが高まる可能性も妙味となります。PBR(株価純資産倍率)水準もゼネコン大手では最も割安です。
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