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事実上の首相が決まる自民党総裁選

 自民党総裁選が9月17日告示、29日投開票の日程で実施され、日本の次の首相が事実上決まります。早ければ10月中に衆議院解散・総選挙に突入し、株式市場は政治の季節を迎えます。未来を織り込もうとする株価は9月初頭から上昇を開始。日本株が今後も上昇を続けるのか、足元の株高が戻り高値で終わるのかは、自民党総裁選を制した次期首相の手腕に大きく影響されるでしょう。

 立候補を表明しているのは岸田文雄・前政調会長、河野太郎・行政改革担当相、高市早苗・前総務相。この3人がそれぞれの出身派閥の後押しを受けながら、選挙戦を展開していくことになります。この間、政界では官庁や財界、マスコミを巻き込みながら水面下で虚々実々の情報戦が繰り広げられます。

 一例ですが、菅義偉首相の退陣観測が強まる8月のある日曜、森喜朗元首相の健康不安説が永田町を駆け巡りました。東京五輪の閉会式を終え、五輪・パラリンピック大会組織委員会の前委員長として肩の荷が半分下りたタイミングです。

 結果的にうわさはうわさでしかなかったのですが、永田町関係者や在京マスコミが事実確認に追われました。発端は岸田氏が総裁選出馬の挨拶をしようしたところ、たまたま森氏サイドと連絡が取れなかっただけのようです。伝言ゲームのように話が伝わる中で尾ひれがついて拡散したのが真相でした。

 一方、菅義偉首相が次期総裁選への出馬見送りを表明したのは9月3日。しかし、自民党周辺では2日夕方には再選断念説が駆け巡りました。2日は次期自民党役員の引き受け手がいないとのうわさもあり、菅氏が二階氏に出馬断念を相談したという内容でした。2日の菅首相は成長戦略会議を終えて官邸を出ると自民党本部で二階俊博幹事長と15分ほど面会し、同日夜のニュースはうわさとは真逆に菅氏の総裁選出馬を一斉に報じており、真相判明は翌日になりました。

 実際に菅氏は身を引くことになりましたが、うわさが真実かどうかは当事者を除けば誰にもわかりません。ただ、これからも総裁選、組閣、解散・総選挙とスケジュールをこなすうちに出所不明の情報が乱れ飛び、ともすると株式や為替市場の動揺を誘う場面があるかもしれません。

見どころ多い総裁選!YouTube、ネットも活用

 今後の日程ですが、新型コロナ流行下とあって「密」を生みかねない全国各地の街頭演説は2020年9月の前回総裁選に続いて2回連続の中止。しかし、複数候補による乱戦模様の総裁選ということで、事前予想通りの菅氏圧勝に終わった前回とは打って変わって見どころが盛りだくさんです。

 まず14日夕方、総裁選立候補が締め切られます。20日午後2時から党青年局・女性局主催で公開討論会を実施し、YouTubeの自民党公式チャンネルでも生中継します。自民党の青年局や女性局のメンバーが各候補者の政策を生活者目線で掘り下げるという触れ込みで、各候補者が自ら政策を披露していきます。2020年9月の総裁選でも青年局・女性局主催の討論会があり、今回もここで論戦が本格化することになります。

 総裁選が佳境に入るのは23~26日の4日連続で開く政策討論会。インターネットを通じたリモート形式の「タウンミーティング」です。総裁選公示日の17日から自民党特設サイトで党員以外の国民からも質問を受け付けます。総裁選後の解散・総選挙を見据えて、「開かれた自民党」をアピールする狙いがあるようです。

 政策討論会は日替わりでテーマが決まっています。

表1:政策討論会のテーマ

日程 政策討論会のテーマ
9月23日(木) コロナ対策、経済財政、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、社会保障
24日(金) 外交、安全保障、環境、エネルギー
25日(土) 防災・減災、国土強じん化、観光振興、農林水産
26日(日) 憲法改正、少子化・人口減少対策、地方創生、スポーツ文化振興、教育・人への投資

 国民の不満や不安の大きいコロナ対策や増税など国民の負担増加につながる財政問題や社会保障を早めに終わらせ、地方創生や少子対策など前向きな施策の出やすいテーマを最終日に設定しているのがわかります。

 そして28日には党員・党友票を締め切り、29日の国会議員による投票と合算して新総裁の誕生です。菅氏が党総裁としての任期満了を迎える1日前です。

表2:新総裁誕生までのスケジュール

日程 予定
9月14日(火) 総裁選立候補締め切り
9月17日(金) 告示
立会演説会
20日(月) 公開討論会
23日(木)~26日(日) 政策討論会(※詳細は表1)
28日(火) 党員・党友票締め切り
29日(水) 投開票

候補者はいったいどんな人?マーケットが期待するのは?

候補者1:岸田文雄氏

 岸田氏は前回総裁選で敗退した直後からリベンジを宣言しています。「小泉内閣以来の新自由主義的な政策の転換」を唱えています。競争一辺倒から中間以下の所得層の底上げ型への配慮を強くにじませる政策は出身派閥の「宏池会」の伝統でもあります。宏池会は池田勇人、宮澤喜一らの首相を輩出した自民党最古の派閥です。

候補者2:河野太郎氏

 河野氏は「政界の異端児」を自認していますが、世論調査での支持率が高く、行政改革にも前向きに取り組んで将来の宰相として地歩を固めてきました。河野氏は「デジタルとグリーン」を成長戦略の柱に据えており、最近の株式市場のトレンドとも一致します。10日の記者会見では「企業から個人へ」を強調し、大企業の体力回復を果たした「アベノミクス」と距離を置く姿勢も示しました。

候補者3:高市早苗氏

 高市氏は安倍晋三前首相の応援を得て、存在感を急速に増しています。総裁選出馬当初は「ニュー・アベノミクス」を掲げていましたが、「サナエノミクス」に改称しました。中身は大規模な金融緩和の継続と財政出動など、金融政策と財政政策の各方向から刺激で景気浮揚を目指す「リフレ派」的な性格が色濃いものです。安全保障分野に強い論客としても知られ、中国や北朝鮮の脅威と向き合う政治家です。

 新総裁の任期は10月1日から。菅内閣の名前で臨時国会が召集され、同日中に総理大臣を決める首班指名を終わらせ、組閣まで突き進みます。大臣ポストをめぐる派閥間の駆け引きがあるのもこの局面です。

 その後の衆議院議員総選挙ですが、現時点で予想される最速シナリオは10月11日に新首相による所信表明演説、衆参両院による代表質問をこなして13日解散となれば、衆議院の任期満了2日前の19日に総選挙が公示され、31日に投開票です。

 ただ、10月30~31日にG20(主要20カ国・地域)首脳会議が予定されており、この間の新型コロナ感染の状況も予断を許しません。国会の閉会が10月28日まで延びて、11月28日投開票というのが理論上の最も遅いスケジュールとなります。

 選挙後には憲法の規定に従って特別国会が開かれ、再び首班指名です。与党である自民党・公明党が過半数を維持すれば、選挙後の首班指名は儀式のような形式的なものに終わるのが最も現実的な展開です。

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