外国人が日本株を買い戻し
日経平均株価3万円回復の原動力は、外国人投資家による「日本株買い戻し」と考えられます。
本コラムで繰り返しお伝えしている通り、日本株を動かしているのは過去30年、外国人投資家です。外国人は買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売るので、
【1】外国人が買い越す月は日経平均が上昇し、外国人が売り越す月は日経平均が下落する傾向が鮮明です。
【2】日経平均が新高値を取るのは外国人の買い、新安値を取るのは外国人の売りによる傾向が鮮明です。
日経平均はまだ新高値を付けていませんが、TOPIX(東証株価指数)は既に新高値を更新しています。日本株はスピード調整を終え、米国株と同様、バブル後の戻り高値を更新していく展開に入っていると言えます。
外国人の見方が変わったことが、日本株の動きを変えたと考えられます。
日経平均とTOPIXの動き比較:2020年末~2021年9月8日
日本株の動きを予想する時、「外国人から日本がどう見えているか」を常に考える必要があります。私はファンドマネージャー時代、欧米の年金基金や中東・アジアのソブリンウェルスファンドとしばしば日本株の見方について議論してきました。
その経験からわかっていることを言いますと、まず外国人投資家は日本の政治を良く見ています。
資本主義の構造改革・成長戦略を推進する自民党が選挙で勝って、支持率が高まり強いリーダーシップを発揮する時に、日本株を積極的に買ってきます。自民党の支持率が低下する時には、日本株を売ってきます。
今年に入り菅政権の支持率が低下し、衆院選で自民党が大敗して政権が弱体化する懸念が高まったことから、外国人は日本株を売っていました(他にもいろいろ要因はありますが、今日は政治要因にしぼって話をします)。
ところが、菅首相が突然退陣表明したことで、「これから選ぶ新総裁の下で自民党への支持率を高めて衆院選を乗り切り、コロナ対策の大型財政出動を実施する」シナリオが見えてきたことから、外国人は日本株の買い戻しに動いたと考えられます。
もともと「ワクチン効果で来年には日本でもアメリカのような消費爆発があるかもしれない」というシナリオが気になる中で、政権弱体化への不安が低下したことを受け、日本株を買ってみようという考えに変わったのだと思います。
以上、外国人投資家の気持ちを咀嚼しつつ解説しました。
外国人投資家は小泉内閣と第2次安倍内閣を高く評価
ここで、2001年4月以降の日経平均の動きと、日本の政権推移を振り返ります。
小泉政権発足以降の歴代首相と日経平均の動き:2001年4月~2021年9月(8日)
上のグラフで、外国人投資家の大量の買いによって、日経平均がNYダウ平均株価を大幅に上回る上昇率になった年が2回あります。赤丸をつけている、2005年と2013年です。
2005年はNYダウが前年比0.6%下落する中で、日経平均が40.2%上昇しました。2013年はNYダウが26.5%上昇する中で、日経平均は56.7%も上昇しました。
この2つの年の共通点は、「解散総選挙で自民が大勝、小泉首相・安倍首相が強いリーダーシップを発揮」したことです。
資本主義の構造改革・成長戦略が進む期待から、外国人が日本株を積極的に買ってきました。米国株以上に、日本株が魅力的になったと外国人が考えた年です。
2012~13年に日本株ファンドマネージャーだった私は、欧米・中東・中国・韓国の機関投資家とよく話しました。国が違っても、日本株を見ている外国人投資家の考えには共通点がありました。
アベノミクスがスタートした2013年によく聞かれたのは以下の言葉です(多数の外国人の言葉を筆者が要約)。「社会主義的な政策を進める政党から資本主義政党に政権が戻ったので、日本株のポジションを増やす」。
外国人がいかに日本の政治の変化をよく見ているかご理解いただくために、小泉政権以降の、解散総選挙前後の日経平均をお見せします。解散総選挙後の大きな動きは、外国人投資家が引き起こしています。
衆院解散総選挙前後の日経平均の動きを比較:総選挙の28営業日前から、58営業日後までの動き
2005年の第3次小泉政権による郵政解散選挙と、2012年12月の第2次安倍内閣がスタートした選挙の直後に、外国人投資家は、日本株を大量に買ってきました。
総裁選・衆院選どうなる?
2つのシナリオが考えられます。株式市場にとってプラスになる展開とマイナスになる展開です。まず、株式市場にとってプラスになる展開、つまり外国人がさらに日本株を買い増ししたくなるシナリオは以下です。
◆株式市場にとってのバラ色シナリオ
- 自民党総裁選で足の引っ張り合いでなく、前向きな政策論議が尽くされる。
- 派閥主導でなく、派閥のしばりのない自由投票が行われる。
- 選出された新総裁のもとで、自民党が結束する。
- 自民党の支持率が上昇する。
- ワクチン効果で日本のコロナ感染がピークアウトし始める。
- 衆院選で自民党が勝利。
- 新内閣が大型の財政出動を打ち出す。
上記は、株式市場にとってのバラ色シナリオです。そうなるかもしれないと思う外国人が増えれば、外国人の買いによって日経平均は年末3万2,000円を目指して上昇することになると思います。
一方、株式市場にとっての悲観シナリオは以下の通りです。
◆株式市場にとっての悲観シナリオ
- 自民党総裁選は足の引っ張り合いになる。
- 派閥の力が大きく影響する選挙になる。
- 新総裁の元に自民党が結束できない。
- 自民党の支持率の低迷が続く。
- コロナ感染は高水準のまま。
- 衆院選で自民党が大敗。
- 弱体化した政権下で、思い切った政策を打ち出せない。
上記の悲観シナリオに近い展開になると思う外国人が増えれば、外国人は日本株を売り、日経平均は再び大きく下がることになるでしょう。
現実には、バラ色シナリオと悲観シナリオの中間のどこかになっていくことでしょう。今後の政治イベントから、目が離せない展開が続くと思います。
最後に注釈です。本レポートは外国人投資家の見方を中心に、日本株の先行きを予想するために書いているもので、特定の政党や政治家を支持する意図はまったくありません。
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