大手海運株の2022年3月期決算予想の数値がすごかった

 先日、大手海運3社、日本郵船(9101)商船三井(9104)川崎汽船(9107)の2022年3月期第1四半期決算が発表され、合わせて各社の2022年3月期通期の業績予想の大幅な上方修正が発表されました。

 具体的な数値は下記のとおりです。

表1:大手海運3社の2022年3月期第1四半期決算

  日本郵船(9101) 商船三井(9104) 川崎汽船(9107)
売上高(百万円) 1,850,000 1,100,000  630,000
経常利益(百万円) 500,000 350,000 275,000
当期純利益(百万円) 500,000 335,000 265,000
1株当たり当期純利益 2,960円37銭 2,797円15銭 2,841円10銭
出所:各社2022年3月期第1四半期決算短信

 決算発表前の株価水準で計算したPER(株価収益率)は各社2倍前後という異常なほどの低さとなり、決算発表を受け株価も大きく上昇しました。

 また、NSユナイテッド海運(9110)共栄タンカー(9130)といった他の海運株の株価も上昇しています。

ポイント1:PER2倍を額面のまま、捉えてはいけない

 株式投資の教科書を見ると、PERの適正水準は15~20倍程度と書かれているものが多いようです。では、海運各社の株価も、その水準に達するまで株価が上昇する、と期待してよいのでしょうか? 答えはNOです。

 PERは、当期に予想される利益と同じ水準の利益が将来にわたって続いた場合、1株当たり予想当期純利益の何倍の水準まで、株価が買われているかを示すものです。

 確かに海運各社が来期以降もずっと、当期予想と同じ水準の利益を上げることができるのであれば、PERも15倍程度まで上昇してもおかしくありません。

 しかし、各社の決算説明資料に記載のとおり、足元の好調な業績はコンテナ船の運賃が高騰しているためであり、この状況が今後もずっと続くとは考えにくいのです。

 現に、決算発表後、株価は大きく上昇したとはいえ、PERはせいぜい3倍くらいにとどまっています。

 では、PER何倍の水準まで株価が上昇するのかといえば、正直申し上げて見当がつきません。なぜなら、株価は来期以降に各社があげることができるであろう利益を、マーケット参加者が予測した結果に基づき、形成されるからです。

 したがって、「さすがにPER15倍は難しいが10倍くらいには上昇するだろう」というように安易に考えない方がいいでしょう。

 なお、各社の経常利益と当期純利益を見ると、両者にほとんど差はありません。これは過去に大赤字を出した年があるため、税金を計算する際にその赤字を黒字と相殺することができるため、税金の負担が小さくなるからです。

 でも、本来であれば経常利益の35%程度は税金がかかりますから、あるべき当期純利益の額は経常利益×65%前後になります。例えば、日本郵船であれば1株当たり当期純利益は1,924円になります。

 この点を加味すると、各社の実質的なPERは表面上のものより上昇する点には注意が必要です。

ポイント2:配当金の有無で株価が大きく異なることに注意

 2022年3月期通期の業績予想の発表とともに、配当金の予定金額も発表されています。それによると、各社それぞれ1株当たりの配当金は次のようになっています。

表2:大手海運3社の1株当たりの配当金

銘柄  1株当たりの配当金
日本郵船 700円
商船三井 550円
川崎汽船 未定

 前出の表1のとおり、3社とも1株当たり当期純利益の予想値は2,800~3,000円程度であり、ほとんど変わりません。

 しかし決算発表後の株価(2021年8月6日時点での最高値)は、日本郵船が8,150円、商船三井が7,070円、川崎汽船が4,430円と、川崎汽船の株価が他の2社に大きく水を開けられる形となっています。となると考えられるのは、配当金の金額が、株価形成に影響を与えているという点です。

 さすがに、日本郵船や商船三井がここまで配当金を増額してくるとは予想していませんでしたが、川崎汽船の配当金は他の2社より低いであろうということは、実は事前に推測することができたのです。

 それが先日のコラムで取り上げた「個別決算での欠損金の存在」です。

『会社四季報』に掲載されている各社の利益剰余金は、あくまで連結ベースです。川崎汽船も連結ベースでは利益剰余金が1,300億円あります。しかし、川崎汽船の2021年3月期の有価証券報告書を見ると、個別決算にて欠損金が350億円あり、これが解消しなければ配当金を出すことはできないのです。

 また、最新号の『会社四季報』を見ると、日本郵船は200円、商船三井は150円の配当予想である一方、川崎汽船は0~50円となっていて、川崎汽船の配当予想は他の2社より少なく、無配の可能性もあることが読み取れます。

 決算発表以前から、川崎汽船の株価が3社の中で最も低かったのは、配当金が低いであろうことを織り込んでいたといえるのです。

 業績が好調で1株当たり当期純利益が同水準でも、配当金いかんで株価が大きく異なってくる可能性があるという事実は、ぜひ知っておくべきでしょう。

 ただし、配当利回りで考えて株価がどこまで上昇するかを推測するのは、PERと同様に困難です。今期予想と同水準の配当金が今後も維持されるのは難しいからです。

 したがって、例えば「配当利回りが8%だから、まだまだ買える水準だ」と考えるのは早計です。

ポイント3:個人投資家が取り得る投資戦術とは?

 このように、PERから見た株価の適正水準も、配当利回りからみた株価の適正水準も、個人投資家レベルでは把握できないのが正直なところです。

 もっと言えば、個人投資家だけでなく、外国人投資家や機関投資家といったプロ投資家でさえも、現時点で海運各社の株価としてどのくらいが適正かを把握することはできないと思います。

 であるならば、客観的な売買のルールを設定してそれを守ることで、思わぬ損失を被らないようにしつつ、利益をできるだけ伸ばすことを考えるのが現実的な対応です。

 筆者であれば、「買った後株価が上昇したら、一部は満足のいく株価水準に達したら売り、残りは25日移動平均線や5日移動平均線を割り込んだら売る」というようにします。

 もし買った後、株価が下落したら、25日移動平均線や5日移動平均線、もしくは直近安値を割り込んだら売却します。

 海運株のように、毎年業績が大きく変動する、いわゆる景気敏感株は、株価も上下に大きく動くため、成長株のようにずっと保有を続けるという戦術がうまくいかないことが多いのです。

 ですから、利益を伸ばすことを意識しつつも、思わぬ損失を被らないようにしっかりと売買ルールを決め、それを守るようにしてください。

※本コラムは情報提供の目的で執筆しております。コラム中に登場する各銘柄への投資につき、推奨するものではありません。