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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]トヨタ4-6月期好決算!水素で走るMIRAIに期待
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第1四半期は4つの逆風を乗り越えて好決算

 トヨタ自動車(7203)は4日、今期(2022年3月期)第1四半期(4-6月期)決算を発表しました。連結営業利益は9,974億円で通期営業利益(会社予想)2兆5,000億円の約40%を第1四半期だけで稼ぎました。年後半に不透明要因があるとの理由で、会社は通期業績見通しを上方修正しませんでしたが、私は今期連結営業利益は3兆円台に乗せ、過去最高益を更新すると予想しています。利益上振れが見えれば、株価も再び最高値を更新していくと予想しています。

トヨタの連結営業利益、四半期ごとの推移:2019年4-6月~2021年4-6月

出所:同社決算資料

 第1四半期(2021年4-6月)の営業利益9,974億円は、前年同期(2020年4-6月)の139億円から大幅に増えただけでなく、コロナ前の前々年同期(2019年4-6月)の7,406億円も35%上回ります。今回、4つの逆風が吹く中で、トヨタの底力を示した決算だったと言えます。
 4つの逆風とは、以下です。

【逆風1】半導体不足

 最大の逆風は、半導体不足です。半導体不足が原因で生産が滞った影響で、4-6月は世界中の自動車メーカーがダメージを受けましたが、トヨタはその影響を最小限に留めました。

 米国でトヨタは2000年央以降、深刻な在庫不足に陥っています。コロナ禍で生産が一時止まり、在庫が少なくなっていたところで販売が急回復したためです。秋以降、フル生産で在庫確保を進めることで、当初の予定では、今年の春までに適正在庫に戻す予定でした。ところが、半導体不足や寒波の影響が加わって思うように供給が増やせず、在庫水準はさらに低下しています。増える需要に在庫が追い付かず、かなりの売り逃しが起こる懸念が続いています。

 ただし、同社説明によると、4-6月は「工場出荷前や輸送中の車両に関する正確な到着情報を各店舗で共有」「近隣の他店舗にある在庫を店舗間で融通」することで、店頭に在庫がない状態でも顧客との商談を進められるようにした効果で、米国で高水準の販売につなげられました。所在地別営業利益が、北米では2020年10-12月の2,129億円が、2021年1-3月には696億円に低下していましたが、在庫不足の中でのきめ細かな販売努力のおかげで、4-6月は2,488億円に回復しています。

【逆風2】中国の自動車販売減速

 中国自動車工業協会が発表した自動車販売台数は、5月が前年比3.1%減の212万8,000台、6月が12.4%減の202万台でした。半導体不足の影響などで2カ月連続のマイナスとなりました。1-6月の合算では、前年同期比25.6%増の1,289万台と大きく増えていますが、足元、減速感が出ています。トヨタは、米国と中国での販売拡大が利益を牽引してきたので、その影響がどう出るか注目されていました。

 同社開示資料によると、中国事業の営業利益(中国連結子会社の営業利益+中国持分法適用会社の持分法投資損益)は1,327億円で、前年同期の970億円を大きく上回っています。

【逆風3】資材価格上昇・諸経費の増加

 トヨタのお家芸として、苦境の中でも常に原価低減・コスト削減の努力を積み上げて、増益要因としてきた歴史があります。ところが、今期は鉄鋼など資材価格高騰があるため、トヨタは原価は通期で1,350億円の増加(減益要因)になると予想しています。第1四半期では、原価は50億円の増加(営業減益要因)となりました。

 また、今期は、カーボンニュートラルやデジタル化に向けて先行投資がふくらむため、通期で諸経費等が3,500億円の増加(営業減益要因)となる見通しを発表しています。第1四半期では、諸経費は250億円の増加(営業減益要因)でした。

【逆風4】新興国、とりわけ日本の自動車生産に影響の大きい東南アジアでコロナ感染が拡大している影響

 半導体不足とともに、自動車産業の収益の足を引っ張る可能性があります。

トヨタ自動車の燃料電池車、新型「MIRAI」に期待

 トヨタはガソリン車で世界トップの競争力をもっていますが、それだけでは株式市場で高い評価を得られなくなっています。世界各国が脱炭素を進める中、将来、電気で動く自動車【注】がガソリン車を代替する時代が来ると思われているからです。

【注】電気で動く自動車はなぜ環境車か?
現在、人類が使用する電気はほとんど化石燃料を燃やして作っています。したがって、現時点で電気自動車は環境車とは言えません。ただし、将来、太陽光・風力・地熱など再生可能エネルギーですべての発電をまかなえるようになれば、電動車は完全な環境車となります。将来、電源が100%再生可能エネルギーになる時代を見据えて、今から自動車を電動に転換することが、持続可能な環境対策として必要と考えられています。

 未来のエコカーとして、今、最も有望と考えられているのが、EV(電気自動車)です。水素を使って発電しながら走る燃料電池車も、その候補に入っていますが、現時点ではEVほど有望視されていません。まだ製造コストが高すぎることや、水素流通インフラが整っていないことが理由です。

 そのため、2020年は、世界の株式市場でEV(電気自動車)関連株が軒並み大幅に上昇しました。その中心はEV生産で最先端を走る米テスラです。EVが次世代エコカーの本命と見なされるようになったからです。世界中の年金・投資信託などで、ESGを重視して投資するマネーが急速に膨らみ、EV関連株に投資資金が集中しました。

 ただし、EVが、次世代エコカーとして最初から本命視されていたわけではありません。初期のEVには問題が多く、2014年くらいまでは、ガソリン車の代替は無理と思われていました。ガソリン車と比較して、EVには4つの問題があります。

次世代エコカーの性能比較・ガソリン車と比較

出所:〇△×の評価は筆者判断

 第1の問題は、充電に時間がかかることです。急速充電を使っても、フル充電まで20~30分かかるのが普通です。第2の問題は、1回の充電で走行できる距離(航続距離)が、初期のEVでは100キロメートルくらいしかなかったことです。満タンで500キロ以上走るガソリン車より大幅に短かったので、使い物にならないと思われた時期もありました。

 ただし、近年、車載電池の性能が大幅に向上したおかげで、今は200~300キロ走る車種もたくさん作られるようになりました。ガソリン車並みの航続距離500キロを超えるEVも開発されています。ただし、航続距離の長いEVは、まだ価格が高すぎます。実際には航続距離100キロもあれば日常用途には支障ないので、価格が高すぎない普及型で、毎日自宅で夜間に充電して使う方式が定着しつつあります。

 EVの第3の問題は、インフラ(充電ステーション)整備です。ガソリンステーションと比べると、まだ数が足りません。将来、EVに乗る人が増えるにしたがって、自然に増加していくと考えられるので心配はしていません。

 第4の問題は、ガソリン車と比べてまだ価格が高いことです。電池が高額です。ただ、量産が進むにつれて価格は低下してきています。将来はガソリン車並みの価格に下がると考えられます。

EV対燃料電池車、どちらが有望か?

 このままEVが世界を支配する時代が到来するのでしょうか? それに待ったをかける可能性があるのが、水素エネルギーで走る「燃料電池車」です。トヨタ自動車が2020年12月9日に発売した新型「MIRAI」に期待が集まります。

 燃料電池車にも、いろいろな作り方がありますが、今もっとも有望視されているのは「水素タンクに圧縮水素を充填、水素と酸素の化学反応で得られる電気を使ってモーターを回す自動車」です。水素を燃やすときに「水」が発生するだけで、排出ガスはゼロです。EVとともに、燃料電池車も世界各国で次世代エコカーとして認められています。

 燃料電池車の良いところは、ガソリン車と同様、短時間(2~3分)で燃料(水素)を充填できることです。また、ガソリン車並みに航続距離を長くできることです。新型MIRAIでは、航続距離850キロを実現しました。もし、将来、EVと燃料電池車が、両方ともコストダウンによって大衆車になるとした場合、どちらがより魅力的な車となるでしょうか? 私は、EVよりも圧倒的に燃料電池車が有利だと思います。

 それには2つの理由があります。

【1】EVは充電時間が長い。燃料電池車は燃料充填時間が短い。
【2】EVは重いものを運ぶのが苦手。燃料電池車は重いものを運ぶのもOK

 トラックやバスなどの大型の自動車は、EVよりも燃料電池車になっていくと私は予想しています。また、現時点で、技術開発のメドがあるわけではないですが、将来、大型の飛行機を電気で飛ばす時代が来るとした場合、燃料は水素を使うことになると思います。水素ならば飛行機を飛ばすのに十分なエネルギーを蓄えられるからです。蓄電池では、十分なエネルギーを蓄えられないと考えられます。

燃料電池車のコストをどこまで下げられるか、トヨタのお家芸に期待

 水素を使った燃料電池車の開発で先行していることが、トヨタの未来への期待となっています。

 ただ、当然ながら、問題もあります。インフラ(水素ステーション)が整っていないこと、価格がきわめて高いことです。将来、燃料電池車の価格が下がって普及が進めば、インフラは自然に整ってくると思います。既存のガソリンステーションに設備投資して、水素も扱えるようにする案が有力です。

 問題は、価格です。燃料電池システムを製造するのに高度な技術が必要で、現時点で高いコストがかかります。トヨタが発表した新型MIRAIは、2014年12月に発売した初代と比べて大幅なコストダウンを実現しています。それでも価格は、710万円からとまだ高すぎます。今後、トヨタがどれだけコストダウンを実現できるかに、水素自動車の未来がかかっています。製造業として世界のトップにたつトヨタならば、近い将来、大幅なコストダウンを実現していくのではないかと、予想しています。

 トヨタが最初にハイブリッド車を試作したとき、「低燃費のコンセプトは良いが、製造コストが高すぎて一般に普及させるのはむずかしい」と言われました。ところが、トヨタはお家芸のコストダウン努力を続け、ハイブリッド車を大衆車として普及させることに成功しました。

 今は「燃料電池車」は、次世代自動車の本命と考えられていませんが、トヨタが大幅なコストカットを実現すれば、EVを凌駕する可能性もあります。自然エネルギーを使った発電から、グリーン水素を作り、自動車を水素で動かす世の中が来る可能性もあると考えています。

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