今、注目を集めている「FIRE」
最近よく語られるワードの一つに「FIRE」があります。FIREは、「Financial Independence、Retire Early」の略であり、経済的自由を得て早期に会社を退職し、会社に縛られない生き方をすることを言います。
書店に行っても、FIREについて書かれた本を数多く目にしますが、意外と税金面での注意点について語られているものは少ないと感じます。
そこで今回から複数回にわたり、FIREに関する税金面にスポットを当ててみたいと思います。
退職時に受け取る退職金の額は「手取り」で計算
FIRE生活をするには、元手が必要です。その元手の一部として、退職時の退職金を充てようと考えている方も多いのではないでしょうか。
そのこと自体は特段問題ないのですが、気を付けなければいけないのが、退職金に課税がされて、実際受け取れる退職金の金額が小さくなってしまう可能性もある、ということです。
当然ながら退職金は「退職所得」として所得税・住民税の課税対象となります。退職所得の計算式は次のように求められます。
退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額:勤続年数20年以下の場合は勤続年数×40万円(最低80万円)
勤続年数20年超の場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)
退職所得控除があり、かつ退職所得控除後の金額の2分の1のみが課税対象となるため、給与所得など他の所得よりかなり税制面で優遇はされています。
それでも、退職金の額によっては、結構な額の税金がかかることもあります。したがって、ご自身が受け取れる退職金の額を試算する際は、単に退職金そのものの額を確認するのではなく、税金が差し引かれた後の手取りの金額を試算し、それがFIRE生活時に使えるお金であることを理解しておいてください。
退職の翌年は「住民税」に要注意
スポーツ選手が引退の翌年、多額の住民税負担に苦しんだ、といったニュースを聞いたことはありませんか。
所得税と異なり、住民税は今年の分が翌年に課税されます。そのため、今年は現役で収入があるけれど、翌年は引退していて収入がないにもかかわらず、住民税の負担は翌年にかかってきます。その分のお金を使わずに確保しておかないと、住民税が払えない…ということになりかねないのです。
FIREの場合も同様で、退職した翌年に、退職した年の分の住民税が課税されます。もし、ここまで貯めてきたお金をもとにFIRE生活を送ろうとしていた場合、退職した翌年に支払う住民税のことが頭に入っていないと、想定外の支出となってしまい、いきなりFIRE生活がつまずくことになりかねません。
FIRE生活をスタートさせる前に、翌年払う必要がある住民税の金額を把握し、その支出が発生することをあらかじめ知っておきましょう。
退職後は国民年金保険料や国民健康保険料がかかる
もう一つ、国民年金保険料や国民健康保険料の負担についても理解しておく必要があります。
これらは厳密には税金ではありませんが、自治体によっては国民健康保険「税」と呼ばれているところもあり、税金に近い性質を持つものです。少なくとも、税金と同様「コスト」としてとらえれば重要性は同じといえます。
会社に勤めているときは、厚生年金保険料や健康保険料を、給料から天引きされる形で支払います。
これが、FIREにより会社を退職して、新たに会社に属さない形になった場合は、厚生年金保険料ではなく国民年金保険料を、健康保険料ではなく国民健康保険料を支払うことになります。
例えば令和3年度の国民年金保険料は月当たり1万6,610円です。年間だと19万9,320円の負担となります。国民健康保険料は所得により異なりますが、所得が多ければ数十万円以上の納付が必要となることもあります。
国民年金保険料は扶養している配偶者の分も支払う必要
さらに、扶養している配偶者がいる場合、国民年金保険料は配偶者にもかかってくる点に注意が必要です。
会社勤めの場合、自身が第2号被保険者、扶養している配偶者は第3号被保険者となり、厚生年金保険料は不要でした。
ところが、会社を退職すると自身が第1号被保険者になります。第1号被保険者が扶養している配偶者は、第3号被保険者になることができず、同じ第1号被保険者となります。
したがって、国民年金保険料は自身の分と配偶者の分の2人分、約40万円の負担となります。
少しでも支出額を減らすために、例えば1年間や2年間をまとめて前払い(前納)することにより割引となる制度を使うことも検討するとよいでしょう。
今回は、FIRE生活のスタート時や翌年の注意点でしたが、次回はFIRE生活を続けている間の税金面での注意点についてお話していきたいと思います。
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