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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]急落の日本株は買い?米国株最高値でも日経平均が売られる理由
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米金利低下を好感して米国株最高値。日本株は売られる

 先週(7月5~9日)の日経平均株価は1週間で842円下がり、2万7,940円となりました。しばらく2万9,000円近辺で膠着していましたが、ついに2万8,000円割れまで下がりました。

 一方、米国株は好調です。7月9日には米国株の主要3指数(NYダウ、S&P500株価指数、ナスダック総合指数)がそろって史上最高値を更新しました。

 普通は連動する日米株式が、なぜまったく異なる動きとなったのでしょう?

ナスダック・S&P500と日経平均の動き比較:2019年末~2021年7月9日

出所:2019年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ナスダック総合指数は、2021年3月に一時急落。米長期(10年)金利が一時1.7%を超えるまで上昇したことが嫌気されました。

 ただし、その後、米雇用の回復は遅れており、すぐにFRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和を終了することないとの見方が広がり、米10年金利も1.3%台まで低下。米長期金利の低下を好感して、ナスダック、S&P500、NYダウは、そろって最高値を更新しました。

米長期(10年)金利推移:2020年1月2日~2021年7月9日

出所:QUICKより作成

 米景気が過熱し、金利がどんどん上昇して、株高が終わることが心配されましたが、すぐに金融が引き締められる状況ではないとの見方が広がったことで、米国株は最高値を再び更新しました。

日本株が売られる理由

 米国株と日本株が逆方向に進むようになった最大の理由は、日本の景気回復の遅れ。米国の製造業と非製造業の景況感が、コロナ前で好調だった2018年の水準を少し超えているのに対し、日本は製造業・非製造業ともコロナ前に届かない水準です。特に、非製造業の回復が遅れています。

米ISM製造業・非製造業景況指数:2018年1月~2021年6月

出所:米ISM供給管理公社

日銀短観:大企業製造業・非製造業DI:2018年3月~2021年6月

出所:日本銀行

 東京に4度目の緊急事態宣言を発令、東京五輪を無観客とする決定を政府が発表したことも、外国人投資家に嫌気されました。

 ただでさえ遅れている日本の景気回復がさらに遅れる懸念を生じました。製造業は米景気回復の恩恵を受けて回復が続いていますが、自動車の回復に、足元ブレーキがかかりました。半導体不足の影響が深刻で、生産に影響が出ています。

 日本だけでなくアジア全般に、欧米と比べてワクチン接種の遅れとコロナからの回復の遅れが目立ちます。バンコク(タイ)とホーチミン(ベトナム)では、コロナ感染拡大を受けて、事実上の都市封鎖が発令されました。東京と同様、ワクチン接種の遅れが経済の足かせとなっています。

 欧米でコロナ感染拡大が深刻だった昨年、アジアは相対的に感染を抑えていて「欧米に比べてコロナ対策の優等生」と見られた時期がありました。ところが、今その評価が逆転しました。欧米は、ワクチン接種が進み経済再開が急ピッチで進みます。

 一方、アジアはワクチン接種が遅れ、今まだ感染拡大を抑えるための対策が必要になっています。こうした状況を受け、外国人投資家は「アジア売り・欧米買い」に動いており、その一環で日本株も売っていると思われます。

日銀のETF買いなし

 日銀は6月21日に701億円、日本株ETF(上場投資信託)を買った後、ETFを買っていません。7月の急落局面でもまったく買っていないのです。

 日銀は3月の金融政策変更で、年間6兆円をメドとするETFの買い入れ目標を撤廃。必要な時に、年12兆円を限度として買い入れる方針は残していますが、もっと日本株が大きく下げない限り、大量に買ってくることはないと考えらえます。

 急落した日に日銀の買いが出なくなったことで、投機筋が日経平均先物の空売りを出しやすくなっています。

日本銀行による日本株ETF買い付け額:2015年1月~2021年7月(9日まで)

出所:日本銀行HPより作成

日本株は買い場と考える理由

 日本株は、短期的に売られ過ぎと判断します。確かに、足元の景気回復は遅れていますが、いずれワクチン普及が進めば米国と同じようにリベンジ消費の盛り上がりが期待できるからです。米景気より回復が遅れているだけで、いずれ米国と同じように回復すると考えています。

 高配当利回り株に投資する好機と判断しています。6月16日に日経BP社から発売された私の著書「NISAで利回り5%を稼ぐ、高配当投資術」で高配当株投資について解説しています。参考にしてください。

 ただ、米景気が過熱してその反動で失速が視野に入ってくる時は、株の保有を減らす必要が生じます。まだその時期ではないと考えています。米景気過熱のリスクが高まったと判断する時には、本コラムで報告します。

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