執筆:足立武志
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最も重要と言っても過言ではない「決算短信」
今回は、IR資料の中でも最も重要である、「決算短信」について取り上げていきます。なぜ最も重要かといえば、上場企業の株価形成に大きく影響する企業の業績や財務状況についてまとめたものだからです。
決算短信とは、企業の一定期間の決算の内容やそれに付随する情報をまとめた報告書のことです。
決算短信には、1年分(1事業年度)の決算内容をまとめた「決算短信」と、四半期(3カ月)ごとの決算内容をまとめた「四半期決算短信」があります。
決算短信についてより深く知りたい方は、東京証券取引所が発行している「決算短信・四半期決算短信作成要領等」をご覧ください。
なお、決算短信と似たものとして、決算の内容や企業の現況をまとめた「有価証券報告書」「四半期報告書」というものがあります。
こちらの方がより企業の状況を詳細に知ることができますが、発表時期は決算短信や四半期決算短信より遅くなります。
個人投資家レベルでは、有価証券報告書や四半期報告書まで目を通さなくても、大きな支障はないと思いますが、企業のことをさらに詳しく知りたいという方は読んでみるとよいでしょう。ただし、結構な分量ですので、圧倒されないでくださいね。
決算短信にはどんなことが書かれているのか
決算短信に書かれている内容としては、以下のようなものがあります。
サマリー情報
決算短信の先頭ページが、サマリー情報と呼ばれているものです。
サマリー情報には、当期および前期の比較形式にて、
・売上高や利益、1株当たり当期純利益、ROE(自己資本当期純利益率)、売上高営業利益率などの経営成績
・純資産、自己資本比率、1株当たり純資産などの財政状態
・キャッシュ・フローの状況
・配当の状況
・来期の業績予想
といったものが掲載されています。
サマリー情報:任天堂の場合
添付資料
サマリー情報の次ページ以降は、添付資料として以下のような事項が記載されています。
・経営成績等の概況
経営成績や財政状態、キャッシュ・フローの概況についての説明文のほか、来期の業績等の見通しについても記載されています。
・財務諸表及び注記
貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの財務諸表やそれに関する各種注記事項が記載されています。セグメント情報(事業ごと、地域ごとの売上や利益の内訳)などもこちらに記載があります。
なお、企業が採用している会計基準が日本基準かIFRS(国際会計基準)かにより、使用されている語句が多少異なります。
経営成績や財政状態が悪化しており、経営破綻のリスクが高いと判断される企業の場合、「継続企業の前提に関する注記」もしくは「継続企業の前提に関する重要事象等」が記載されます。
注記への記載の方が、重要事象としての記載よりもさらに経営破綻リスクが高くなります。経営破綻の可能性がある銘柄への投資を避けたいという場合は、こちらの記載の有無にも注意しておきましょう。
継続企業の前提に関する注記例:ペッパーフードサービスの場合
継続企業の前提に関する重要事象等の例:藤田観光の場合
決算短信でまず見るべきは「サマリー情報」
決算短信でまず見るべきなのは、先頭ページに記されている「サマリー情報」です。
サマリー情報を見れば、当期の売上、利益といった経営成績や純資産、自己資本比率などの財政状態、さらには配当金などが前期と比べてどのくらい変動したかが一目で分かります。
特に重要なのは経営成績であり、売上高や利益が前期と比較してどの程度増加したのか、あるいは減少したのかをみることで、企業の成長性や健全性を確認することができます。
また、配当金が株価形成に大きな影響を与えている企業の場合は、配当金の推移も重要なチェック項目になります。
そしてこれらよりも重要なのが来期の業績予想です。来期の売上高や利益を企業自らが予想した数値が記載されています。この数値いかんによって株価が大きく変動することも多く、個人投資家にとっても重要性が高いです。
例えば、当期は売上、利益とも大きく落ち込んでいたものの、来期の予想が大きく増収増益となっていれば、株価が大きく上昇する可能性が高いと言えます。
なお、来期の業績予想については、予想そのものが困難として開示をしない企業や、幅を持たせたレンジ形式で開示している企業もあります。
業績予想を開示していないケース:楽天グループの場合
業績予想がレンジ形式になっているケース:マネーフォワードの場合
決算短信と四半期短信では数値の見方が異なる
決算短信には1年(1事業年度)ごとに発表される通期の決算短信(以下単に「決算短信」)と、3カ月(四半期)ごとに発表される四半期決算短信があります。
実は、決算短信と四半期決算短信とではサマリー情報の数値の見方が異なってきますので注意が必要です。
決算短信で発表されている当期の業績は、いわば「過去の数値」です。当期にどれだけの業績だったかは確かに大事なことですが、株価は将来を見据えて動きます。
そのため、投資家の注目は来期の業績予想に向かいます。例えば、もし当期の業績がとても良好なものだったとしても、来期の業績予想が減収減益になっていたら、株価は下落してしまう可能性が高いでしょう。
一方、四半期決算短信では、四半期ごとの売上高や利益が、すでに発表されている当期の通期での業績予想に対してどのくらいの進捗(しんちょく)率になっているかに注目します。
例えば第2四半期決算短信であれば、1年間の事業年度のうち6カ月が経過しています。この6カ月の売上高や利益が、通期の業績予想値の50%を超えていれば、1年間トータルでみた業績は、予想を超えてくる可能性が高いと期待できます。逆に、通期の業績予想に比べて50%を下回っていれば、1年間トータルでみた業績も、予想を下回るのではないかと懸念されます。
実際は季節ごとの業績変動などもあるため、単純に50%を超えているかどうかだけでは判断できないケースもあります。その場合は、例えば前期と当期の第2四半期の進捗率同士を比べ、前期よりよいか悪いかで判断したりすることになります。
なお、来期の業績を予想するのが困難である、として業績予想を開示していないケースもあります。
この場合、個人投資家が来期の業績予想を決算短信で知ることはできませんので、アナリストレポートでアナリストの予想を調べたり、会社四季報の予想値を参考にする、というのが現実的な対応です。
見ないより見た方がよい情報とは?
個人投資家はなかなか株式投資に時間を充てることができないのが実情のため、ひとまずはサマリー情報をチェックしておけばなんとかなります。
ただ、余裕がある方は、サマリー情報の次に掲載されている、「経営成績等の概況」も読んでおくとよいでしょう。ここには、当期の経営成績や財政状態、キャッシュ・フローの状況や、来期の業績の見通しについての文章が書かれています。サマリー情報を見ただけでは分からない、業績などについてのより詳細な情報を得ることができます。
また、セグメント別の業績についての記載もあります。セグメントには「事業別セグメント」と「所在地別セグメント」があります。
「事業別セグメント」では、どの事業がどれだけの利益を上げているかが分かるので、その企業がどんな事業で稼いでいるのか、などを知ることができます。
「所在地別セグメント」は、地域別の売上や利益が記載されています。日本国内、米国、欧州、アジア…それぞれの国や地域ごとに、どのくらいの売上や利益があったかを知ることができます。
企業のことをより深く知ることが、IR情報活用の第一歩です。企業の最新の業績や財政状態、そして今後の見通しを知るために、決算短信を上手に活用しましょう。
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