成長株選びでPERがそれほど重要ではない理由とは?

 前回のコラムでは、筆者が成長株を選ぶときにどのようなポイントを重視しているかについて書きました。

 実はその時、ある指標については全く触れていなかったことにお気づきでしょうか。その指標とは「PER(株価収益率)」です。

 筆者が成長株を選ぶとき、PERについてはあまり気にしません。今後の業績の伸びが期待できるなら、PERが100倍を超えていても買っていくこともあります。

 PERは、来期の予想利益をもとに計算されますので、3年後、5年後に業績がもっと大きく伸びると期待されている成長株にPERを当てはめると、まず割高になります。30倍、50倍はザラで、100倍超えになることも珍しくありません。

 例えば、アベノミクス相場で株価が何十倍にもなったエムスリー(2413)も、PERは50倍をほとんど割り込まず、ときには100倍超になりながら株価の上昇が続きました。

 したがって、PERで割安な銘柄を探す、という切り口からは、成長株はみな割高に映ってしまうので、「買う」という判断になかなか至りません。機関投資家よりも銘柄選定の能力が乏しい個人投資家がPERを使って成長株を選ぶことは、かなり困難といってよいでしょう。

マーケットのリスク許容度によりPERの水準が異なる

 思えば2020年4月から11月頃まで、マザーズに上場する銘柄を中心に、中小型成長株の株価が大きく上昇しました。

 PER100倍超えは当たり前、中には200倍、300倍になってもなお、株価が上昇を続けるものもありました。

 しかし今はそうしたことはほとんどなく、PERが100倍を超える銘柄もだいぶ少なくなりました。

 では、例えばPERが300倍だった銘柄が、株価下落により100倍になったとしたら、これは割安になったといえるのでしょうか。

 これに対する明確な回答はなかなか難しいのですが、おそらく「NO」に近いと思います。

 もともと、PERが300倍を超えるというのはいわばバブル状態であり、その企業の価値がかなり過大に評価されていたといえます。そして、PERが100倍という状態も、実はかなり企業価値が過大に評価されている可能性が高いです。

 売り上げも利益も、ここから毎年2倍以上に伸びる可能性が高い、というなら話は別ですが、実際にPERが100倍になっている銘柄の業績を見ると、そこまでは程遠い、というものが多いです。

少なくとも株価下落途中の買いは避けること

 特に、業績が伸びてPERが低下したのではなく、株価下落により低下した場合は注意が必要です。

 本来のPERは40倍程度が妥当なのに、バブルにより300倍になり、そこで株価が天井を付け、100倍にまで下がっているだけかもしれないからです。

 バブル状態が終われば、株価は下落して適正水準に近づきます。株価下落がどこで止まるかは分かりませんが、少なくとも株価が下落している最中は、株価が高値から2分の1とか3分の1になったとしても、安易に手を出さない方が無難だと思います。

 特に、業績の伸びがそれほどでもないのにPERがまだまだ高く、かつ株価の下落が止まらないケースは、十分に注意してください。

PERから見て割安になった成長株はキケン?

 今ご説明したことともつながるのですが、成長株の株価が下落して、PERから見ても十分に割安になることがよくあります。

 でも筆者は、こうした株に安易に投資するのは危険ではないかと思っています。

 成長株は、将来の高い成長を見込んで株価が形成されますので、PERという視点から見れば常に割高になります。ですから、成長株がPERから見て割安になるというのは、おかしなことなのです。

 仮に、PERが50倍で推移していた銘柄の株価が3分の1以下になり、PERが15倍にまで低下したとしましょう。確かにPER「だけ」見れば割安なのですが、筆者はおそらくこのような銘柄は買わないと思います。

 過去の経験則から見ても、もともと成長株として評価されていたものの、株価が下落してPERが割安な状態になった銘柄は、その後、売り上げや利益の成長がストップしてしまうことが多いようです。

 つまり、プロ投資家などが、その銘柄の売り上げ・利益の成長が止まったことを見越して、株価が先だって下落している、というのが実態なのです。

 ただし、「〇〇ショック」のように、将来の高い成長が見込まれる成長株であろうがなんであろうが、みな大きく売り込まれてしまうような状況では、PERから見て十分買える水準の銘柄も出てくる可能性が高いです。そうした面では、株価の急落は成長株を安く買うことのできるよい機会の一つといえるでしょう。