日経平均は横ばい。2万9,500円あたりが最初のハードルに
「月またぎ」で6月相場入りとなった先週の日経平均株価ですが、週末4日(金)の終値は2万8,941円となり、前週末終値(2万9,149円)からは208円ほど下落しました。
国内でのワクチン接種進展をきっかけにした日本株の出遅れ修正の動きに変化はなさそうですが、日経平均2万9,000円あたりが、出遅れ修正の「買い戻し」から「買い上がり」の分かれ目として意識され、足踏みしているような印象です。
今週は週末にメジャーSQという需給イベントを控え、相場が大きく動く展開も想定しておく必要がありそうですが、まずは、いつものように、足元の状況から確認していきます。
■(図1)日経平均(日足)とMACD(2021年6月4日取引終了時点)
あらためて先週の日経平均の値動きを振り返ると、31日(月)と1日(火)は売りに押されて2万9,000円台を下回り、前週末に空けた「窓」を埋めるような動きとなりましたが、25日移動平均線がサポートとなる形で、週末にかけてはやや値を戻していき、結果的に「もみ合いながらの横ばい」という展開でした。
前回のレポートで指摘していた「75日移動平均線の上抜け」は達成できませんでしたが、下段のMACDが週末の4日(金)の取引で「0円」ラインを超えてきたことや、25日移動平均線のサポートなどもあり、引き続き75日移動平均線の上抜けが焦点になります。
無事に達成できれば、直近の高値どうしを結んだ線をトライしていくことになる点も、これまでの見方と変わりはありません。
また、前回のレポートでも紹介した25日移動平均線乖離(かいり)率のボリンジャーバンドで見た場合、先週は乖離率が+2σ(シグマ)にタッチした後、今年に入ってからの傾向通り、いったん上昇がストップし、+1σとのあいだで往来しているようにも見えます(下の図2)。
■(図2)日経平均25日移動平均乖離率のボリンジャーバンド(2021年6月4日取引終了時点)
今週も引き続き、+2σと+1σのあいだで推移できるかが注目されます。先週末4日(金)時点で計算すると、25日移動平均線は2万8,637円ですので、+2σで2万9,433円、+1σで2万8,851円、MAで2万8,273円です。
もちろん、移動平均線乖離率やボリンジャーバンドの値は今後の値動きで変化するため、あくまでも現時点でのざっくりとした目安ですが、まずは2万9,500円あたりが上値の最初のハードルとなりそうです。
中長期的な方向感が上向きになる可能性も
■(図3)日経平均75日移動平均乖離率のボリンジャーバンド(2021年6月4日取引終了時点)
また、中長期的なレンジについては、上の図3のように、75日移動平均線のボリンジャーバンドで見ていきます。
75日移動平均線乖離率は3月あたりから▲1σと▲2σを行き来しながら下落基調をたどってきましたが、足元の75日移動平均線乖離率は▲1σを超えてきたことで、方向感が下向きから上向きへ変化する可能性があります。
こちらも先週末4日(金)時点で計算すると、▲1σが2万8,633円、MAで2万9,830円、+1σが3万1,022円、+2σで3万2,217円となります。
3万円台に近いMAの乖離率が+2.1%ですので、日経平均が75日移動平均線から+2.6%ほど乖離が進むと3万円台にタッチすることになります。
今週はメジャーSQという需給要因が控えており、株価が一気に上昇することも考えられますが、ムードに左右されやすい相場地合いのため、イマイチ読み切れない部分があります。
TOPIXは強い動き。上昇に弾みがつくか?
その一方で、強い動きを見せているのが、TOPIX(東証株価指数)です。
■(図4)TOPIX(日足)とMACD(2021年6月4日取引終了時点)
週初に窓を埋めに行く動きは日経平均と同様でしたが、週末にかけての上昇はTOPIXの方が強くなりました。株価が75日移動平均線を上抜けただけでなく、5日移動平均線も75日移動平均線を上抜ける「ゴールデン・クロス」も達成しています。
さらには1,950pの節目や、「上値ライン」も超えているため、株価トレンド的には、上昇に弾みがつきそうな格好です。
であるならば、このまま上昇した場合の上値メドや値動きの範囲はどのようになるのでしょうか?
■(図5)TOPIX(週足)の線形回帰トレンド(2020年3月19日週を基準)
上の図5はTOPIX(週足)のチャートに、コロナショック時の安値である2020年3月19日週を基準とした線形回帰トレンドを重ねたものです。
TOPIXは、4月23日週に中心線を下抜けて▲2σ(シグマ)まで下落し、ここ2週間は▲1σの上抜けを狙っているような状況となっています。
日本株の出遅れ修正が続けば、少なくとも線形回帰トレンドの中心線あたりまでの上昇は想定できそうです。4日(金)時点での今週の中心線の値は2,017pと、節目の2,000pを超えています。今週は▲1σをはさんでTOPIXがどう動くかがカギとなります。
日本株の今後、2つのポイント
では、今週の日本株が順調に値を伸ばしていけるのかについても考えていきたいと思いますが、いくつかのポイントがあります。
最初のポイントは、「日経平均とTOPIXの温度感の違い」です。
ここ最近のチャートを見ると、日経平均よりもTOPIXの方が強くなっている印象ですが、先週末4日(金)時点の予想PER(株価収益率)は、日経平均で14.24倍、TOPIXで16.37倍となっており、実は上値が重たい日経平均のPERの方が割安であるように見えます。
普通に考えれば、「日経平均の上値余地がまだまだあるのでは?」となるのですが、実は、日経平均の指数寄与度の高いソフトバンクグループの利益が反映されている面があり、PERが低く見えていることに注意する必要があります。
今の日経平均が割安かどうかはPERで見た限りでは微妙で、TOPIXのPERの方を参考にした方が良いかもしれません。
次のポイントは、先週末に発表された「米5月雇用統計の反応」です。
その結果を受けた米株市場は上昇しているため、初期反応は良好と言えます。株価指数はそれぞれ、NYダウ平均株価が0.52%高、S&P500が0.88%高、NASDAQが1.47%高となっていて、NASDAQが大きく上昇しています。
具体的な米5月雇用統計の結果を見ていくと、非農業部門雇用者数が55.9万人増と前回改定値(27.8万人増)からかなり改善したものの、市場予想(65万人増)を下回ったほか、失業率は5.8%と、前回(6.1%)から改善しました。
つまり、「全体的な雇用情勢は良くなっているが、予想ほど強くはないため、米金融緩和の縮小懸念が後退した」と受け止められ、米長期金利も低下していきました。
米国経済の強さによってもたらされる長期金利の上昇は、PERの面で割高となるIT・ハイテク関連銘柄が売られやすくなる一方で、景気敏感株や金融株が買われやすくなり、株価指数では「NASDAQが売られ、NYダウやS&P500は比較的堅調」という構図になる場面が増えていましたが、今回の雇用統計の結果を受けて、IT・ハイテク株を中心とした高PERの銘柄も買い戻されてNASDAQの上昇が大きくなったと思われます。
最近の日本株市場では、日経平均がNASDAQに近い動き、TOPIXがNYダウやS&P500に近い動きをすることが多かったため、今週のあたまはTOPIXよりも日経平均の方が強い動きを見せる可能性があります。
続いてのポイントは、「1カ月前の記憶の再来」です。
今週の10日(木)に、米国で5月CPI(消費者物価指数)の公表が予定されているのですが、ちょうど1カ月前に公表された前回(4月)分の米CPIが予想以上に強い結果となったことで米長期金利が上昇し、米金融緩和の縮小が懸念されて、日米の株式市場が急落する場面がありました。
つまり、先ほどの米5月雇用統計後の反応と逆の動きに戻ってしまい、「今回のCPIの結果次第では同様の展開にならないか?」という思惑が働きやすくなりそうです。
前回のレポートでも指摘した通り、現在の米国株市場は高値圏で推移していて、相場自体は崩れてはいませんが、物価上昇による米長期金利上昇と経済への悪影響、リスクマネーの行き先となっているビットコインなどの仮想通貨市場の乱高下、「Meme(ミーム)」株と呼ばれる一部銘柄の投機的な動きなど、不安定さは徐々に増していて、思わぬ株価の調整局面の到来には備えておく必要があります。
日本株は出遅れ修正で株価上昇への期待が高まりそうな地合いですが、こうした米国市場のムードに左右されやすくなっている点には注意が必要です。ちなみに、今週の国内市場はメジャーSQのほか、4-6月期の法人企業景気予測調査なども予定されています。
こうしたイベントを通じて相場に対する従来の見方に変化が生じるかが注目される週となりそうです。
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