株式投資に関する税金のうち確定申告しなくてもよいものは?

 4月15日、令和2年分の所得税確定申告の申告期日を迎えました。昨年に引き続き今回も、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、申告期日が1カ月延長となりました。

 なお、新型コロナウイルスに絡んで個々の特殊事情がある場合は、4月15日を過ぎても期限内申告として認められることになっていますので、お住まいの地域の税務署へご確認ください。

 ところで、個人投資家の皆さんは、株式投資の配当金や譲渡所得(売却益)について確定申告したりしなかったり、さまざまだと思います。

 このうち、「確定申告しなくてもよい」ものとして挙げられるのが、投資信託を含む株式の配当金と、源泉徴収ありの特定口座で生じた売却益、そして給与所得者などで投資の売却益を含めた他の所得が20万円以内(※)、といったケースです。

(※)いわゆる「20万円問題」については下記のコラムをご覧ください。
「確定申告」会社員の20万円問題(その1):副業・配当で申告が必要な人
「確定申告」会社員の20万円問題(その2):確定申告をしたら損をする人・得する人

 ただし、トータルで売却損が生じている場合も確定申告は不要ですが、確定申告しないと3年間の損失繰り越しができなくなってしまいますので、確定申告しておくことをお勧めします。

確定申告しなくてもよいものを確定申告したら、住民税はどうなる?

 例えば、配当金の税金は、所得税では次の三つの方法を選択できます。

(1)確定申告しない(申告不要を選択)
(2)総合課税により確定申告
(3)申告分離課税により確定申告

 これらのうち、ご自身にとって最も得になる方法を選択すればよいのです。

 ところで、所得税の確定申告をすると、その情報はお住まいの市区町村へ送られ、住民税の課税計算の根拠となります。つまり、配当金の確定申告をすることにより、自動的に住民税についても、所得税と同様の内容で確定申告したとみなされます。

 原則として配当金については、配当金以外の所得を含めた課税総所得金額等が900万円以下であれば、所得税では申告不要を選択するより、総合課税で確定申告をした方が有利です。

 では、住民税も同じように総合課税による確定申告をした方がよいのでしょうか?

所得税では有利でも、住民税や公的保険料計算上では不利になる場合も

 実は、株式の配当金や売却益について、所得税と住民税とで同じ内容で確定申告をすると、「所得税では有利だが住民税や公的保険料計算上では不利になる」というケースが生じます。

 配当金であれば、所得税では総合課税で確定申告した方が有利だが、住民税では総合課税だと逆に税額が増えてしまう、ということが1点。

 もう1点が、配当金を確定申告することで住民税計算上の所得が増え、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の負担が増してしまうことです。

所得税で確定申告した配当金、住民税ではどうすればよい?

総合課税により確定申告した場合

 実は住民税では、総合課税の税率が10%、配当控除が2.8%差し引かれて、実質税率は7.2%となります。

 さらに、配当金の所得が加算されることにより、給与所得者ではない方であれば、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の負担が増してしまいます。

確定申告しない場合

 一方、確定申告しない(申告不要を選択)場合は、すでに源泉徴収されている5%の税率で済みます。そして配当金の所得が加算されないので、公的保険料の負担増も避けられます。

住民税は確定申告しない方が有利

 したがって、一般的には住民税については総合課税で確定申告するよりも、申告不要を選択した方が有利なのです。

売却益についてはシミュレーションが必要

源泉徴収ありの特定口座で生じた売却益は?

 もう一つ考えられるのが、「源泉徴収ありの特定口座」で生じた売却益(譲渡所得)です。

 例えば、売却益が生じている口座と売却損の生じている口座がある場合、両者を相殺するためには、所得税の確定申告が必要です。

 もしくは、過去から繰り越した売却損(譲渡損失)と、源泉徴収ありの特定口座で生じた利益を損益通算するためにも所得税の確定申告が必要となります。

 会社勤めの方など、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の支払いが必要ない場合は、住民税においても確定申告した方が有利ですから、所得税の確定申告書を提出すればそれでOKです。

シミュレーションが必要なケースとは?

 しかし、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の支払いが必要となる方の場合は、利益が生じている口座の利益と損失が生じている口座の損失の金額がどれくらいかにより、住民税で確定申告する、しない、どちらが有利になるか異なります。

 同様に、繰り越した譲渡損失と当年の利益の損益通算をする場合も、両者の金額がどれくらいかにより有利・不利が異なってきます。

 例えば、繰り越し譲渡損失が50万円、令和2年の売却益が500万円というケースであれば、繰り越し譲渡損失の相殺で還付される税額より、公的保険料の負担増の方が大きくなると思われますので、所得税では申告するほうが、住民税では申告しないほうが有利になります。

 これ以外にも、譲渡所得の場合はさまざまなケースが想定され、それぞれ結果が異なるため、かなり複雑で難解です。しっかりとシミュレーションして、有利な方を選択するようにしましょう。

 なお、「源泉徴収なしの特定口座」、もしくは「一般口座」で生じた売却益については、所得税においても住民税においても確定申告が必要です。上記のような所得税と住民税で異なる扱いを受けることはできない点に注意してください。

住民税で申告不要を選択するには手続きが必要

 所得税で配当金や譲渡所得を確定申告し、住民税では申告不要を選択するには別途手続きが必要となります。もし何も手続きをしなければ、所得税と同じ方法を住民税でも選択したとみなされてしまうからです。

 住民税では申告不要を選択するために別途申告するという、ややこしい話になってしまいますが、手続きは忘れないようにしてください。

 この手続きの期日は、住民税の納税通知書が送達される時までとなっています。納税通知書の送達は、住民税が普通徴収の方であれば6月上旬、特別徴収(給料から天引き)の方であれば会社に対して5月下旬ごろに行われます。

 4月中なら大丈夫だと思いますが、はっきりといつまで大丈夫とはいえませんので、自治体に確認の上、余裕をもってできるだけ早く提出するようにしましょう。

 この手続き方法は、実は自治体によって異なります。

 例えば東京・練馬区では下記のウェブサイトのとおり、独自の様式を提出することになっていますが、「住民税の申告書を提出してください」としている自治体も多いようです。お住まいの自治体のウェブサイトで確認したり、直接問い合わせることをお勧めします。

練馬区・株式等の譲渡益や配当に対する税金について

(注)一人ひとりの諸状況、諸条件の違いにより、上記とは異なる取り扱いになる場合があります。本記事を参考に行動した結果につき、筆者は一切の責任を負いません。あらかじめ税務署、自治体、税理士などへご相談の上、実行されることをお勧めいたします。