開校以来、生徒から1円の授業料も取らず、毎年多くの生徒を東大へ送り込む私立中高一貫校。そのからくりは、選ばれた生徒が投資を行い、学校運営の資金を生み出していた……。こんな驚きの設定で人気を博したマンガ『インベスターZ』。投資や運用などの仕組みがわかりやすく描かれていると、証券業界でも評判を呼びました。本作は、2017年6月に4年にわたる連載を終え、単行本の最終巻21巻が同年10月23日に発売されました。

 さらにテレビ東京で、7月13日(金)深夜0時57分からドラマ25「インベスターZ」として放映開始! ホリエモンこと堀江貴文氏がナレーションを担当し、メルカリの小泉文明氏、ユーグレナの出雲充氏、メタップスの佐藤航陽氏ほか、実在するベンチャー企業の社長が登場することも話題です。

 そこでトウシル編集チームは、作者の三田紀房さんに『インベスターZ』誕生の背景から、制作のヒミツまで独占インタビューしました。

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投資マンガの名作は苦境の教育現場から生まれた!

◆『インベスターZ』を企画した意図は?

 実は最初から投資マンガを描こうと思っていたわけではないんです。

 当時、高校野球のマンガを描いていて、その取材のためにある私立高校へ行きました。すると学校関係者から「三田さん、私立の学校経営は経済的にとても厳しいんですよ」と、思いもよらない話を聞きました。これが私に強い印象を残し、私立の学校経営を安定的に成り立たせる手段はないのかと、ぼんやりと考え始めたんです。

 そこで思いついたのが「運用」という手段でした。それも外部に頼るのではなく、学校創立者の資金を原資として運用し、その運用益で学校経営を成り立たせる、この経営モデルが浮かんだんです。

 じゃあ、その運用は誰がするのか。大人が運用するのは当たり前過ぎておもしろくもなんともない。では誰にするか。運用なんてしたこともない学校の生徒たちがお金を動かせばおもしろいかもしれないと気づきました。しかも、ヒミツの部活という形で、選ばれた生徒たちが株を売ったり買ったり。これを出版社に話したら「おもしろい。連載にしましょう」とスタートしました。 

◆運用という手段があったから、理想の学校を作れたと言えますね。

©三田紀房

 そうですね。運用益によって、在学中の学費はタダ、食事も教材もタダ。指折りの超進学校でありながら、入学すれば1円もかからないという理想の学校を作りました。

 そして、主人公を入学したての中学1年生にしたのは、投資をする人間が若ければ若いほどそこにギャップが生まれて、おもしろくなると踏んだからです。これは見事に当たりました。 

「投資マンガ」と聞けば、投資のプロが出てきて「切った張ったの世界」が展開されると、一般には想像するかもしれません。しかし、投資未経験者には他人事になってしまう。でも、投資どころか経済という言葉さえ縁遠かった中学生の主人公が、「株って何?」「経済って何?」というレベルからスタートすれば、読者と一緒に成長して、読み進めることができますよね。

 投資は実のところ、年齢制限はありませんし、中学生でも誰でもできる。若くても正しく運用すれば、平等に利益を生み出すことができるところに魅力があるわけです。

 

ゲーム感覚で投資を捉えることもあり

©三田紀房

◆主人公の財前君のように、実際、子供にも投資はできるでしょうか。そのために子供への投資教育は必要でしょうか。

 投資をすることは、実践を通じて経済を触れることになるので、大事だと考えます。

 そして、子供の最大の能力は熱中すること。子供はゲーム性のあることに、とてつもない集中力を発揮しますよね。本作でも「投資はゲームだ」と描きましたが、実際に運用させてみることが経済教育としても近道なのかもしれません。

 今いろんな金融機関が、子供たちを対象にお金教育のイベントを行っていますよね。しかし、各社やり方もルールも、てんでバラバラ。これでは継続的に投資教育なんてできません。将来の投資家を各社協力して育てるという気概を持って、共通の教育モデルを設計して、いつどこで受けても同じ効果が得られるトレーニングプログラムを作るべきだと、私は思います。

 

◆いま「貯蓄が趣味」という若者が増えていると言われています。

 貯蓄をするだけではリスクになることを、きちんと説明すべきなんでしょう。

 しかし、政府も日本の投資家人口を増やそうといろんな施策をやっているようですが、いきなり日本人の価値観が大転換することはないと思います。「投資は危ない」と考えている人にいきなり投資を勧めても動きません。変なたとえかもしれませんが、メシアが降りてきて、世界観が変わるくらいのインパクトがなければ米国並みに投資家が増えることは無理。

 だから、「貯蓄から投資へ」と極端なことを大声で言うのではなくて、寄り添うように「貯蓄も大事ですよね。だけど、ちょっとだけ投資もやってみませんか。たとえばそのうち3割くらい」とそっとアピールすべきなんだと思います。声をかけたうちの1割でも動いてくれれば、くらいの控えめな姿勢がちょうどいいと思います。

 

10万円分の株を買っただけでも、人生が見える

◆日本人の中には「投資=金儲け」というイメージが根強いようです。

「投資=資産を増やす行為」だけにフォーカスしてしまうと、単にお金を儲けるための行為、浅ましいという印象で投資が捉えられてしまうかもしれません。非常にもったいないことですね。

「投資」の本質は、「自分とはどういう人間なのか」、真に向き合うことができることにあると思います。

 たとえばドカンと損したときに、落ち込んで3日くらい飯が食えない人間なのか、それとも「しょうがない」と気持ちを切り替えて、飯もモリモリ食べて、次の日も変わらず会社へ行ける人間なのか、はっきりとわかってしまうんです。

 自分を客観的に見る機会はそうありませんよね。哲学的なアプローチをする人もいますが、「オレってどういう人間なのか」という問いには、投資が一番わかりやすい答えを出してくれると思います。

 主人公の財前君なんて、初めての取引で損を出しながらも、いさぎよく「売っちゃった」と損切りをした。

©三田紀房

 ある投資家から聞いたのですが、投資家として成功できる人は、躊躇せず損切りをできる人だということでした。値下がりした株は損を出してもいいから売る。そして新たな株に移る行動ができる。

 これは人生にもつながることで、たった10万円分の株を買っただけでも見えてくる。その人の人生の処し方そのものが現れてしまうんです。 

 彼女に振られてご飯もノドを通らないという人間より、「しょうがない。縁がなかった」と考えて、次の日には別の女の子に声をかけるような人間のほうが、成功していく気がします。自分という人間を客観視する、自分の置かれた状況を冷静に判断できる。そういう視点を養うトレーニングになるのが投資。

 もっと言うと、投資は自己改革の機会を与えてくれる最高の手段。メンタルトレーニングのツールにもなるんです。

『インベスターZ』インタビュー後編へ続く

『インベスターZ』(講談社刊)©三田紀房 

今回の取材先:
三田紀房(みた・のりふさ)さん

 1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。

 代表作に投資をテーマにした『インベスターZ』のほか、『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』などがある。『ドラゴン桜』で2005年(第29回)講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。

インベスターZ』(1~21巻)は好評発売中です。

■『インベスターZ』はテレビ東京で、7月13日(金)深夜0時57分からドラマ25「インベスターZ」として放映開始予定です。早見あかりなど、人気俳優が出演するほか、ホリエモンこと堀江貴文氏がナレーションを担当します。また、メルカリの小泉文明氏、ユーグレナの出雲充氏、メタップスの佐藤航陽氏など、実在するベンチャー企業の社長が顔を出すことも話題になっています。