※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]水素関連株とのつきあい方:参考銘柄と投資戦略
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水素エネルギーへの注目高まる、「脱炭素」切り札に

 人類はいよいよ真剣に、脱炭素(脱「化石燃料」)の構造改革を進める覚悟を決めたようです。欧州に次いで、米国・日本でも、脱炭素の構造改革が進む見通しとなりました。深刻な大気汚染に苦しむ中国やインドなど新興国も脱炭素の目標を示すようになりました。

 これには2つの理由があります。

  1. 化石燃料を燃やし続けることが、大気汚染や地球温暖化などの環境破壊につながっている事実を無視できなくなった。
  2. 太陽光や風力を活用した発電技術が格段に進歩。自然エネルギーによる低コスト発電が可能となってきた。

 近年の技術革新で注目すべきは、自然エネルギーによる発電コストの低下です。かつて自然エネルギーによる発電で、発電コストが低いのは「水力発電」と「地熱発電」だけでした。それ以外はコストが高く、政府などによる補助金がないと育成できないと考えられていました。それは、今では昔話です。

 近年は、発電コストの低下で、商業ベースで流通させられる自然エネルギーが増えてきました。たとえば、太陽光発電は、政府による補助金が無くても、商業ベースで流通させられる「グリッド・パリティ」を達成しつつあります。洋上風力なども、コスト競争力が高まっています。

 ただし、自然エネルギーには1つ、重大な問題があります。自然まかせなので、発電量の調整がしにくいことです。また、需要地から遠く離れた場所で発電するものが多く、需要地(都市部)まで運ぶ送電線を確保するのが困難という問題もあります。

 電気エネルギーの最大の弱点は、「保存」「運搬」が簡単にできないことです。特に、「保存」ができないことが重大問題です。そのため、自然エネルギーによって、大量の電気を得ても、それを有効に使う術がありません。

 アフリカの砂漠に太陽光パネルを敷き詰めて一斉に発電すれば、大量の電気を得ることができます。ところが、それを都市まで持ってきて使う術がありません。仮に送電線を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで運んできても、発電のタイミングと電力消費のタイミングがずれるため、有効に消費できません。

 この問題を解決する切り札の1つと考えられているのが、水素です。自然エネルギーによって発電した電気を水素に変え、水素を保存・流通させることで、エネルギー循環社会を作ろうとする試みです。

 以下の図をご覧ください。

水素を使ったエネルギー循環社会(イメージ図)

出所:筆者作成

 自然エネルギーから得た電気で、水を電気分解すると、水素が得られます。その水素をエネルギー源とする、エネルギー循環社会を作ろうという考えです。水素の運搬・保存も簡単ではありませんが、電気を運んだり貯蔵したりするのに比べれば、容易です。

 今、水素流通インフラの整備のために、さまざまな企業が先行投資しています。将来は、低コストの水素流通インフラが実現すると予想しています。

 水素エネルギーを使う際、酸素と化学反応させます。そこで得られる電気を使います。それが、燃料電池といわれる発電システムです。そこで排ガスはいっさい出ず、水だけが排出されます。

 技術的に越えなければならないハードルはまだたくさんあり、実現まで紆余曲折があると思いますが、2040~2050年をめどに、その技術革新・構造改革をやっていく方針を決める国が急速に増えており、今後、急速に技術革新が進むと考えられます。株式市場でも、水素関連株が折に触れて、注目されるようになると思います。

水素エネルギーは大きな成長テーマだが、今は利益が出ない

 2021年は、水素エネルギーが、第四次産業革命(ITによる技術革新)とともに、株式市場で注目される重要テーマになると思います。そのテーマに乗る株を買ったらもうかりそうに思うかもしれませんが、それがそう簡単ではありません。

「水素エネルギー」は、つき合うのがとても難しいテーマです。なぜならば、今はまだ先行投資期だからです。将来のために、たくさんの企業が赤字でも歯をくいしばって、水素事業に投資しているところなのです。利益を稼ぐビジネスになるのに、まだ5年、10年とかかるかもしれません。あるいはもっと長くかかるかもしれません。

 もし、水素事業しかやっていない上場企業があれば恐らく赤字です。人類にとって重要な成長テーマにかかわる企業だからといって、赤字企業に投資するのは、勇気がいります。

 以下、参考までに、私が作った成長企業の株価変動イメージ図をご覧ください。

小型成長企業の株価変動パターン(イメージ図)

出所:筆者作成

上のグラフでは、ベンチャー成長株の株価変動イメージを、3つの時期に分けて描きました。

  1. 黎明期:成長期待があるが、利益が出ない(赤字)時期
  2. 急成長期:利益が大きく成長する時期
  3. 成熟期:最高益更新が続くものの、増益率が大幅に鈍化する時期

 このグラフは、成長株の成功事例をイメージして描きました。黎明期から成熟期まで長く持っていれば、高いリターンが得られます。ただし、それでも、投資タイミングが悪いと、短期的に大きな損失をこうむることがあります。それが、グラフで赤い矢印をつけたところです。短期的に株が急騰した直後に買って運が悪いと、黎明期の赤印をつけたところで買ってすぐに急落の憂き目にあいます。

 水素事業は今、黎明期です。たびたび株価が熱狂的に買い上げられますが、熱気が冷めると、赤字事業なので株価は暴落します。それを何回も繰り返します。

 このパターンは、バイオやIT関連株でもよく見られます。赤字のまま上場している東証マザーズの成長株によく見られるパターンです。「大きな夢があって熱狂的に買われる、熱気が冷めて暴落する」を繰り返す可能性があります。

 ここでは、黎明期(赤字)を5年としていますが、水素ビジネスはもっと長いかもしれません。たとえば、トヨタ自動車(7203)が開発した、水素エネルギーで走る燃料電池車「MIRAI」。EV(電気自動車)とともに、将来、世界中のガソリン車を代替するかもしれない、重要な戦略車です。それでも、トヨタ自動車にとってMIRAIが黒字化するのには、まだ10年以上かかるかもしれません。

水素関連株との付き合い方

 利益が出るのは遠い将来だが、大きな夢がある「水素関連株」とどうつきあったら良いのでしょうか?以下、2つの方法が良いと思います。

【1】短期ディーリング

 水素エネルギーで株式市場が熱狂する瞬間、短期ディーリングで買い、株価が勢いよく上昇している間は保有しますが、上昇の勢いが落ちてきたら、すぐ売り抜けます。

 赤字企業、あるいは利益がほとんど出ていない企業だと、あまり長く持っていると、熱気が冷めた時に暴落してしまうかもしれません。もし、運悪く、買ったとたんに暴落したら、問答無用で損切りします。

 これは、私がファンドマネージャー時代に、上昇中のテーマ株に飛び乗る時にとっていた投資方法です。

【2】水素以外の事業でしっかり利益が出ている株に長期投資

 水素事業では利益が出ていなくても、水素以外の事業でしっかり利益を出していれば、理想的です。「夢はあるが利益がない」水素事業と、「夢はないが利益が出る」事業がうまく組み合わさった会社が理想的です。

 たとえばトヨタ自動車。ガソリン車で大きな利益を稼いでいます。燃料電池車MIRAIで利益が出なくても、気になりません。ただし、ガソリン車事業の利益変動が激しいので、ガソリン車事業の利益変動には気をつける必要があります。

 過去3年、世界の自動車販売が低迷してきましたが、今年は世界の自動車販売の急回復が見込まれますので、トヨタ自動車に投資するタイミングとして悪くないと判断しています。

水素関連株にもいろいろある

 一口に水素関連株と言っても、実はいろいろあります。私が長期的に注目しているのは、未来のエネルギー循環社会を作るのに貢献する「水素エネルギー関連株」です。

 ただ、困ったことに水素エネルギー事業はまだ利益が出ない上に、それ以外の事業でも苦戦している企業が多いのが実態です。たとえば、川崎重工業(7012)。水素を作る・運ぶ・貯める・使う、あらゆる面で重要な貢献をしています。

 水素エネルギー関連株というならば、川崎重工業は本命の1社です。圧縮水素を流通させる技術を持ち、水素運搬船・水素運搬車・水素貯蔵タンクを手掛けています。オーストラリアに豊富に存在する褐炭(低品質の石炭)から取り出した水素を、日本に持ち込む事業にも関与しています。水素発電の技術開発も行っています。

 しかし、私は川崎重工業に今、長期投資したいとは思いません。本業の収益が構造的に不振だからです。ただし、鉄道車両・航空機・船舶・二輪・ガスタービン・油圧機器・産業用ロボットなど、重要な技術を幅広く持ち、人類にとってとても大切な仕事をしている会社です。短期投資ならばやってみる価値はあると思います。今年、景気回復がさらに進めば、利益回復が見込まれるからです。

 水素エネルギー関連株以外にも、水素を使ってビジネスをやっている会社はあります。たとえば、水素化技術で高い技術と実績を持つ新日本理化(4406)。これは立派な「水素関連株」ですが、水素エネルギーに関連する事業はあまりやっていません。

 ところが、面白いことに株式市場で水素エネルギーがテーマになると新日本理化にも物色が及びます。流動性が低く、値動きが軽い上に、比較的株価バリュエーションが低いので、こういう銘柄を短期投資で狙う投資家もいます。

 実際、2020年12月に水素エネルギーがテーマになって上昇する局面で、新日本理化は急騰しています。今、株価は落ち着いていますが、この銘柄は今年、水素が話題になるたびに繰り返し物色される可能性もあります。景気回復で、化学株の業績は改善が見込まれますが、そこに水素というテーマがつけば、短期的に急騰することもあると思います。

 ただし、これはあくまでも短期投資のアイディアです。思惑通りに動かない可能性もあります。投資については自己責任でお願いいたします。

2021年は、水素関連株にスポットライトが当たると予想

 2021年は、水素エネルギーが、第四次産業革命(ITによる技術革新)とともに、株式市場で注目されるテーマになると思います。いきなりグリーン水素を活用するのは、むずかしいので、当初は、化石燃料由来の水素を活用した、水素エネルギーの循環システムを作ることから、始めることになると思います。

 以下に、関連銘柄を挙げます。

参考:水素関連企業

コード 銘柄名 水素関連事業
7203 トヨタ自動車 燃料電池車 MIRAI
4406 新日本理化 水素化技術
6331 三菱化工機 水素製造装置
6369 トーヨーカネツ 水素タンク
5020 ENEOS HD 水素ステーション
8088 岩谷産業 水素供給網
出所:筆者作成

 前段で説明した通り、水素関連銘柄への投資には、注意が必要です。水素ビジネスには、将来大きな夢がありますが、現時点で利益を生むビジネスではないからです。水素エネルギーがテーマとして注目される局面で株価が上昇する可能性がありますが、テーマへの熱気がさめると株価が再び下がる可能性もあります。

 もし、短期投資ではなく、長期投資を考えるならば、当面は水素ビジネスに注目しつつも、水素以外のビジネスでしっかり利益をあげていく銘柄を選ぶべきです。上記に挙げた銘柄でいうと、トヨタ自動車、ENEOS HDが投資対象として有望と判断しています。

 2021年に世界自動車販売の回復を予想していますので、トヨタは、投資していくと面白いと判断しています。

 ENEOSは銅鉱山の経営をやっているので、銅価格上昇でも恩恵を受けます。総合エネルギー企業としてENEOSに長期投資していくのも良いと考えています。

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