買付価格まで株価が遠く及ばない!
2020年11月、戸建て住宅販売のオープンハウス(3288)が、マンションの開発・販売を手掛けるプレサンスコーポレーション(3254)に対し、TOB(株式公開買い付け)を行うと発表しました。買付価格は1株1,850円でした。
ところが、TOBの発表後、プレサンスコーポレーションの株価は上昇したものの、1,850円近辺までは上昇しませんでした。おおむね1,750円近辺という、買付価格1,850円をだいぶ下回る水準をキープした状態で推移しました。
前回のコラムで、N・フィールド(6077)のTOBについてご紹介しましたが、買付価格1,200円に対し、株価は1,198円近辺まで上昇していました。
なぜ、プレサンスコーポレーションの株価は、N・フィールドのようにならなかったのでしょうか。
プレサンスコーポレーション(3254)の日足チャート
実はTOBには2種類ある
実はTOBには大きく2種類があります。どちらの種類に属するかにより、その後の株価の動きも異なってくるのです。
N・フィールドの場合は、買収会社が100%の株式取得を目指し、上場廃止も視野に入れています。
対して、プレサンスコーポレーションの場合は、すでに30%超の株式を保有していたオープンハウスがさらに約30%をTOBにて買い増し、子会社にした状態で上場は維持させるというものでした。
N・フィールドのケースは、TOBに応募した株主は、買付価格で全員買い取ってもらえるので、株価も買付価格とほぼ同じ水準まで上昇するのです。
一方、プレサンスコーポレーションのケースは、買収する会社が買い付ける株数に上限があるので、それ以上の申し込みがあった場合、買付価格で買ってもらえず、あぶれてしまう可能性があります。そのリスクが反映されるため、株価は買付価格よりかなり低い水準までしか上昇しないのです。
さらに、プレサンスコーポレーションのようなケースの場合、TOBの申し込み期間が終了し、申し込み株数が買収会社の買付上限株数より多いと、株価が下落することがよくあります。これは、TOBの申し込みに外れた投資家が、保有株を市場で売却するため、もしくはそうした思惑が生じるために起こります。実際、プレサンスコーポレーションもTOBの成立が発表された後、申し込みからあぶれた株が大量に存在することが分かると、株価は大きく下落しました。
したがって、自身が保有している株にTOBがかかったときは、企業のプレスリリースなどを読み、N・フィールドのようなケースなのか、それともプレサンスコーポレーションのようなケースなのかを把握した上で行動する必要があるのです。
TOBは「ラッキー」?それとも「不運」?
筆者はこれまでも保有株がTOBの対象となったことが何度かありますが、いずれの場合も買値からは大きく上昇した株価で売却することができています。
しかし、人によってはTOBの買付価格が、自身の買値からはるかに低い…ということもあるのではないでしょうか。
例えば、現在TOBの対象となっているケネディクス(4321)の買付価格は750円で、現在の株価もそれに近い価格になっています。2018年以降にケネディクス株を買った場合は、買値より高い株価で売却できることになります。
しかし、ケネディクス株は2005年12月には4,080円の高値を付けています。2005~2008年にケネディクス株を買って今まで保有を続けている方は、750円の買付価格では大きな損失となってしまいます。
また、先日TOBの事例としてご紹介したN・フィールド(6077)も、2014~2018年には株価が2,000円を超えることもたびたびありましたが、その時に買った人は、今回の買付価格1,200円は買値よりかなり低い株価になってしまっています。
TOBで露呈する「塩漬けリスク」
このように、TOBにおける買付価格は、直近の株価よりは数十%程度高い価格に設定されるものの、かなり以前に買った場合は、逆に買値が買付価格よりかなり低くなってしまうケースも多い点には十分な注意が必要です。
例えば先のケネディクスの例でいえば、2005年12月に4,080円という高値を付けた後株価は下落を続け、2009年2月には50円まで下落しました。
この間、高値づかみした株を損切りせずに放置した結果塩漬け株にしてしまった人も多かったはずです。
塩漬け株を作ってしまうと、「買値まで上がったら売ろう」と半ばあきらめ気味になってしまいますが、TOBにより、含み損が容赦なく実現してしまうのです。
こうした点からも、筆者はやはり塩漬け株は作るべきではないと思っています。筆者は株価が下降トレンドに転じたら速やかに保有株を売却していますから塩漬け株は一切ありません。このことが、結果的に保有株がTOBの対象となった場合にも大きな利益につながっていると思っています。
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