先週は、暗号資産、穀物、そして銀の上昇が目立った

 まずは、主要株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産といった、4つのジャンルを横断した、合計25の主要銘柄の騰落率を確認し、先週1週間の“全体的な”動向を振り返ります。

“材料を点で見てはいけない”ことは、以前の「有事ムードで、金(ゴールド)に注目が集まる!」 などで述べてきましたが、材料だけでなく、銘柄ごとの値動きも、全体像をとらえることが重要です。ふだんから注目している銘柄の相対的な位置を把握するためです。

 以下のグラフのとおり、先週は、ふだんから変動率が比較的高い暗号資産、前々回の「脱炭素は上昇気流!穀物3銘柄の価格が上昇する7つの理由」 で述べた穀物(トウモロコシ、大豆、小麦)、そして銀の上昇が目立ちました。

図:ジャンル横断騰落率ランキング(2021年1月22日~29日)

出所:マーケットスピードⅡ、楽天ウォレットのデータより筆者作成

 全体的には、主要株価指数の下落が目立ったため“リスクオフ(リスクを避けて投資活動を手控えるムード)”だったと言えますが、そのようなムードの中でも、材料を伴ったいくつかの銘柄は上昇しました。今回のレポートでは、上昇が目立った“銀(シルバー)”に注目します。

ゲームストップ株や銀関連銘柄が、米国の個人投資家の共闘によって上昇した模様

 米国の一部の個人投資家や交流サイトの動向が注視されています。米国の個人投資家の「共闘」がきっかけで、ゲームストップなどの一部の企業の株価だけでなく、銀関連銘柄までもが、上昇したと報じられています。

 米国の掲示板型ウェブサイト「レディット(Reddit)」内の、多数の個人投資家が集まるフォーラム「ウォール・ストリート・ベッツ(Wall street bets)」で、“物価調整後の銀価格は1,000ドルであるべき”、“ゲームストップを手掛けた後は、ファースト・マジェスティックとiシェアーズ・シルバー・トラストETFが買われるだろう”などという投稿がなされたようです。

 例えば、これまでにも、多数の個人が市場に影響した例があります。代表的なものとして、“ミセス・ワタナベ”が挙げられます。

 日本時間の午後、主婦やサラリーマンが昼休みの時間を利用して行った取引が、ドル/円などの為替相場を大きく動かしたことをきっかけに、英国のメディアが日本人の名字に比較的多い“ワタナベ”を冠し、日本人の特に為替の取引をする個人投資家たちを “ミセス・ワタナベ”と名付けた、と言われています。

 また、筆者はこの“ミセス・ワタナベ”に倣い、「安値を拾うプラチナ版「ミセスワタナベ」動く」 というタイトルでレポートを書いたことがあります。プラチナの需給データを収集・分析をする世界的な機関であるWPIC(ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル)が、日本の投資家はプラチナ価格の動向に非常に敏感であると、レポート内で述べている点を紹介しました。

“ミセス・ワタナベ”および“プラチナ版ミセス・ワタナベ”と、ゲームストップ株や銀価格を動かしたとされる投資家は、多数の個人が主体という意味では同じかもしれませんが、大きく異なる点があります。「共闘」の色の濃さです。

 今回、ゲームストップ株や銀価格を動かしたとされる投資家らは、報道によれば、“ヘッジファンドを打ち負かした”“(値下がりで利益を狙う)空売りを仕掛けるヘッジファンドを締め上げろ”などと、投資家が集まるフォーラムで結託し、「共闘」していた可能性があるとされています。そして「共闘」の背景には、富裕層への不満、があるとされています。

 この点より、今回の各種市場の混乱は、富裕層に不満を抱く個人投資家による憂さ晴らし、という側面を持っているのかもしれません。一連の「共闘」による各種市場の混乱は、市場とは何か? というそもそもの問いを、市場に関わる全ての人に突き付けたように感じます。

 市場とは何なのでしょうか? 長い時間をかけて人類が育んできた価格を決定する機能、多数の投資家の思惑が交錯する場所、資本主義経済を支える重要インフラ、人間社会を映し出す鏡、企業の資金調達の場など、この問いについては、さまざまな答えがあると思いますが、決して、特定の投資家の憂さ晴らしの場にはなり得ません。市場は“公共の場”だからです。

“資金の持続力”という点で考えれば、共闘する個人投資家たちが、ファンドに長期的に“勝ち続ける”ことはできないと筆者は思います。また、今回の出来事を機に米証券取引委員会(SEC)、米商品先物取引委員会(CFTC)などの当局が規制を強化する可能性があることを考えても、今回上昇したさまざまな銘柄が長期的に上昇し続けることは考えにくいと思います。

 ファンドに対する持続的な勝利なのか、散発的な勝利なのか、共闘する投資家たちの目的がどこにあるのかは不明ですが、現実的には、勝ち続けることではなく、勝てそうな銘柄を物色した上で、しばしば勝つことを目指すのではないかと筆者は思います。この意味では、彼らの“富裕層への不満”が解消されるまで、第2、第3の“ゲームストップ株”が生まれる可能性はゼロではないと言えるでしょう。

 仮に今後、米国市場で、(今回と同じ銘柄でも異なる銘柄でも)同様のことが起きた場合、日本にいる私たちは、冷静に、事態が鎮静化するのを待つことが求められると思います。

 次より、今回くしくも注目があつまった銀が、個人投資家の「共闘」などがなくても、投資対象として有望と考えられる理由について、書きます。

共闘などなくても、長期的視点で、銀は有望銘柄と考える

 世界的な銀の調査機関であるThe Silver Instituteの統計によれば、銀の需給バランスは、近年、均衡しつつあります。以下のグラフのとおり、供給から消費を差し引いた需給バランスは、2017年をピークに供給過剰の度合いが低下しています。

図:銀の需給バランス 単位:トン
※2020年はThe Silver Instituteの見通し

出所:The Silver Instituteのデータをもとに筆者作成

 需給バランスを決定する要素は、供給量と消費量の2つです。銀においては、近年、消費はほぼ横ばいで、供給が減少傾向にあります。新型コロナの感染拡大が起きた2020年、消費が減少する懸念があったものの、現段階の見通しでは、大きな減少にはならず、ほぼ横ばいとみられています。

 以下のグラフは、銀の消費量の推移を示しています。消費量が、近年、ほぼ横ばいなのは、電子部品などの産業用(太陽光発電装置向けを除く)が減少する中、投資用と宝飾用、太陽光発電装置向け(太陽光パネル表面の電極部分に用いられる)の消費が増加しているためです。

図:世界の銀の消費量 単位:トン

出所:The Silver Instituteのデータをもとに筆者作成

 以下のグラフは、太陽光発電装置向けとインドの宝飾消費の推移を示したものです。近年、特にこの2つの分野の消費量の増加が目立っています。太陽光発電装置向けは、世界的に環境に配慮するムードが高まっていること、インドの宝飾需要は、金(ゴールド)よりも同じ金額で購入できる量が多い点に関心が集まっていることなどが、増加の要因とみられます。

図:太陽光発電装置向けとインドの宝飾消費量 単位:トン

出所:The Silver Instituteのデータをもとに筆者作成

 上記2つの分野による消費量について、太陽光発電装置向けは産業用消費の24%、全消費の10%、インドの宝飾消費は宝飾消費全体の34%、全消費の7%です(2019年時点)。全消費の17%を占めるこれら2つの分野は、目下、成長中の消費分野であり、今後も増加が期待されます。

 太陽光発電装置向けは、長期的な世界全体のテーマである“脱炭素”を推進するための重要なカギになると考えられます。このため、同消費は特に、長期的に増加する可能性があります。

 以下より、生産(鉱山生産)面に注目します。以下のグラフは、銀の主要地区別の鉱山生産量の推移です。中南米の鉱山生産量の減少が目立っています。

図:世界の銀の鉱山生産量 単位:トン

出所:The Silver Instituteのデータをもとに筆者作成

 以下のグラフは、中南米の主要鉱山生産国である、ペルー、チリ、ボリビアの生産量です。世界全体で見た生産シェアは、ペルーが16%、チリが5%、ボリビアが4%で、3カ国で世界のおよそ4分の1を生産しています。(2019年時点)

図:太陽光発電装置向けとインドの宝飾消費量 単位:トン

出所:The Silver Instituteのデータをもとに筆者作成

 ペルーは2017年から、チリとボリビアは2014年ごろから、鉱山生産量は減少傾向にあります。これらの国でも、足元、新型コロナの感染拡大が起きています。感染拡大の観点から、生産量がすぐさま回復することは、考えにくいと筆者は感じています。

 世界的なブームである“脱炭素”やインドの宝飾消費の増加が、全消費を一定程度に保っていること、かつ、もともと鈍化傾向にあり、新型コロナの感染拡大も相成り、目先すぐに鉱山生産が回復しない可能性があることは、銀価格を今後、長期的に押し上げる要因になると、筆者は考えています。

 米国の個人投資家の「共闘」などなくても、銀相場は長期的視点で価格上昇が望める、面白い銘柄だと思います。短期的な価格上昇は耳目を集めるきっかけになりますが、銀は実は長期的視点で見守る銘柄なのではないでしょうか。

図:NY銀先物価格の推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 以下に記す、先週から今週にかけてメディアなどで名前が挙がった銘柄であったとしても、長期的視点で価格推移を見守るのがよいと考えます。

[参考]先週、メディアなどで名前があがった銀関連の銘柄

銘柄名 ティッカー 概要
ファースト・マジェスティック・シルバー AG カナダの銀などの生産会社
メキシコなどの鉱山の採掘権を持つ
エンデバー・シルバー EXK
フォルトゥナ・シルバー・マインズ FSM
パン・アメリカン・シルバー PAAS
ガトス・シルバー GATO 米国の銀などの生産会社
iシェアーズ・シルバー・トラスト SLV 銀価格に連動する設計の
ETF(上場投資信託)
純銀上場信託(現物国内保管型) 1542
WisdomTree 銀上場投資信託 1673
銀積立価格   銀の現物価格
銀先物価格(国内)   OSEで売買される銀先物の価格
銀先物価格(海外)   CMEで売買される銀先物の価格
出所:楽天証券のウェブサイトをもとに筆者作成