懐疑の中で相場が育つ局面

 強気相場は悲観の中に生まれ懐疑の中で育ち楽観の中で成熟し幸福感の中で消えていく…。これは古くから伝わる相場格言です。昨年3月、一時世界中の株が暴落したところが、今振り返れば悲観の極でした。そこから比べると投資環境はかなり改善しました。世界を見渡すと、まだ不安をかきたてる話がいろいろ残っていますが、日本株は悪材料をこなして上昇していくと予想しています。今は「懐疑の中で相場が育つ」段階と考えています。日経平均でいうと、今年は世界景気の回復を織り込みつつ、年内に3万円をつける局面があると予想しています。

世界景気にようやく回復の兆し

 2020年、世界景気は一時戦後最悪の落ち込みとなり、「人類がこれまでに経験したことのない恐慌が起こる」とまで言われました。その時と比べると景気に対する悲観は急速に解消しつつあります。

 中国の景気が予想以上に好調です。早くにコロナ感染を抑え込んだ効果で、内需が急回復しています。米中対立が激化し、輸出を伸ばせる環境にありませんが、それでも中国は巨大な内需を成長させることで高成長を維持できそうです。中国共産党が、積極的に公共投資を拡大している効果も出ています。コロナに打ち勝った証として、中国が世界景気をけん引する姿を演出しようとしています。

 米国は、コロナ感染が拡大している問題をかかえていますが、それでも景気は回復してきています。今後、バイデン政権が巨額の財政出動を行う中で、ワクチン効果によってコロナが収束に向かえば、年後半にかけて米景気がやや過熱する可能性もあると思っています。GDP(国内総生産)世界トップの米国と、第2位の中国景気の回復が続けば、日本の景気も回復色が強まると予想しています。

日本の製造業の競争力は健在

 日本は、製造業王国です。IT企業が躍進する時代になったとは言え、日本の産業構造を見ると、今でも自動車産業を中心とした製造業の比率が高いのは事実です。それがわかっているから、外国人投資家の多くはこれまで日本株をアンダーウエイト(通常決められた投資比率よりも低くすること)してきました。

 ところが、昨年11月以降、外国人が日本株を買い越しに転じつつあります。世界景気回復の初期には、製造業の利益回復モメンタムが強くなることを、外国人投資家は知っているからです。
中国・韓国の製造業が躍進する中で、日本企業の競争力低下が目立つようになりました。「日本の製造業はもうだめだ」と悲観的な気持ちになる人もいるようです。私はそこまで悲観的になる必要はないと思います。

 民生エレクトロニクスや半導体業界で、日本企業の競争力の低下は著しいものの、産業用エレクトロニクス、自動車、ロボット・機械産業では、今でも日本企業の強さが光ります。

 自動車産業では、これからEV(電気自動車)が世界を支配する時代になると言われて、ガソリン車主体の日本企業に悲観的な見方が広がっていますが、やや早計と見ています。人類はまだまだガソリン車無しでは生きていけません。小型トラック、二輪車、自動車部品を始め、日本は自動車に関連する産業で高い技術力を持っています。これから世界の自動車販売の回復が強まるにしたがって、日本の自動車関連株の利益モメンタムは急速に回復すると予想しています。

増加するTOB、買収価値の高い企業に注目

 最近、日本の上場企業に対するTOB(株式公開買い付け)が増えています。大幅なプレミアムをつけて経営権を取得する例も出てきました。日本株には、財務内容が良好で、利益も配当もしっかり出しているのに、株価が解散価値と言われるPBR(株価純資産倍率)1倍を割り込んでいる銘柄が多いので、当然かと思います。

 昨年、島忠に、DCM HDがTOBをかけ、島忠経営陣が同意を表明したのに、後からニトリがさらに高い価格で島忠にTOBをかけて話題になりました。島忠経営陣はニトリのTOBに同意したので、結局、島忠はニトリの傘下に入ることになりました。

 島忠の株価が、買収価値から見てきわめて割安な水準に放置されていたから、このようなことが起こったのだと思いました。島忠は、財務内容が良好で、収益基盤もしっかりしていましたが、TOBがかかる前の株価はPBR1倍を大きく割れていました。ニトリは、買値を大幅に上げて島忠の経営権を取得しましたが、決して割高な価格で買収したわけではありません。元の価格がきわめて割安だったからです。

 現在、日本の小型株には、財務内容・収益力からみて、きわめて割安と判断される銘柄がたくさんあります。そんな割安株に対しては、30~50%高い株価でも、全株を取得できるならば、買い手にとって十分なメリットがあります。これからも、日本の割安株へのTOBは増加すると考えています。

ゼロ金利が長期化するなか、予想配当利回り4%超の大型バリュー株の価値は高い

 世界景気の回復を映して、米国の長期金利は上昇して1%を回復しました。それでも、4~5年前の金利水準から見ると、大幅に低くなっています。金利のジャパナイゼーション(日本化)が世界で進みました。その日本ですが、長期金利はゼロに張り付いたままで、当分上がることはないと思います。

 これだけ金利が低下してしまうと、債券投資で高い利回りを得るのは、困難になりつつあります。そんな環境下、注目されるのは、日本の大型優良株の予想配当利回りの高さです。4%を超えるものが多数あります。

 財務内容が良好で、収益基盤がそこそこ堅いと考えられる、以下のような高配当バリュー株に積極投資していって良いと判断しています。

投資の参考銘柄:大型バリュー株5選

コード 銘柄名 配当利回り 1株当たり配当金 株価1月27日
8306 三菱UFJ FG  5.2% 25.0 477.7
2914 日本たばこ産業 7.3% 154.0 2,107.0
8058 三菱商事 4.9% 134.0 2,745.5
4502 武田薬品工業 4.8% 180.0 3,767.0
8766 東京海上HD 4.4% 235.0 5,358.0
出所:配当利回りは、1株当たり年間配当金(会社予想)を1月27日株価で割って算出。日本たばこ産業は2020年12月期、他は2021年3月期
 

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