今日は、読者から質問の多い「PTS取引」の使い方について、解説します。PTSを使えば、夜間(17時~23時59分)も取引可能です。東京証券取引所があいている時間帯には、もっとも有利な価格で約定できる場所を自動選択する機能、「SOR有効」が利用できます。少しでも高く売り、少しでも安く買う機会を逃さないようにしましょう。

 楽天証券に口座を保有すれば、どなたでも夜間取引/PTS取引・SOR取引を利用できます。

株式取引ができるのは、証券取引所だけでない。「PTS」(私設取引システム)でも可能

「PTS」という言葉を聞いたことがありますか?「PTS」は、「Proprietary Trading System」(私設取引システム)の略称です。株式の取引は、東京証券取引所や名古屋証券取引所のような取引所だけでなく、PTSでもできます。

 日本で運営されているPTSは、以下の2つだけです。

◆ジャパンネクストPTS(JNX) ジャパンネクスト証券株式会社が運営
◆チャイエックスPTS(Chi-X) チャイエックス・ジャパン株式会社が運営

 楽天証券では、上記2つのPTSどちらにも、取引を取り次ぐことができます。取引時間は、以下の通りです。

<PTSの取引時間>
◆ジャパンネクスト
 デイタイム 8時20分~16時
 夜間取引  17時~23時59分
◆チャイエックス
 デイタイム 8時20分~16時

<PTSでの信用取引>
 東京証券取引所が開いている時間帯(9時~11時30分、12時30分~15時)は、株式現物取引だけでなく、信用取引もできます。ただし、日中の東京証券取引所が開いていない時間帯、および、夜間(17時~23時59分)は、株式現物取引だけとなり、信用取引はできません。信用取引を行うには、信用取引口座を開設する必要があります。

PTS取引、2つのメリット

 PTSで日本株を売買するメリットは、以下の2つです。

【1】東証があいていない時間(朝・昼休み・大引け後・夜間)にも売買が可能。
【2】東証があいている時間帯に、東証よりも安く買い、高く売る機会が得られることがある。

 以下、詳しく説明します。

【1】 東証があいていない時間(朝・昼休み・大引け後・夜間)にも売買が可能

<東京証券取引所・ジャパンネクスト・チャイエックスの取引時間比較>

 PTSを使うと、東証が開く前(チャイエックスならば午前8時20分~8時59分)、昼休み(午前11時31分~午後12時29分)、大引け後(午後3時1分~4時)にも、取引を行うことができます。また、夜間(ジャパンネクストで17時~23時59分)にも取引できます。

東証があいていない時間に取引するメリット

  • 東証が開く前:前日の欧米株式や為替の動きを見て、東証が開く前に売買を成立させることができます。
  • 昼休み:東証があいていない11時31分~12時29分でも売買を成立させることができます。
  • 東証の大引け後:15時に決算を発表する企業が多数あります。決算内容を見て売買するのは東証だと翌日になりますが、PTSならば、決算が出た直後の15~16時に売買できることがあります。
  • 夜間取引:東証の大引け後に出たニュースを見て、夜間にも売買を成立させることができます。

【2】東証があいている時間帯に、東証よりも安く買い、高く売る機会が得られることがある

 PTSでは、東証よりも、呼び値の刻みが細かくなっている銘柄があります。そういう銘柄では、東証がオープンしている間、東証よりも有利な価格で取引できる可能性があります。

 たとえば、A社株が、東証では1円刻み、PTSでは0.1円刻みで売買されるとします。そこでA社の板(売買注文の入り方)を見ると、以下のように、売り指値・買い指値が入っていたとします。

<A社の板状況>

注:東証では、101円に2,000株の売り指値があり、100円に1,500株の買い指値があります。呼び値の刻みが1円なので、東証ではそれより細かい指値は入れることができません。PTSでは0.1円刻みの売買ができるので、100.6円まで売り指値が、100.5円まで買い指値が入っています。

 ここで、A社に100株の成行(なりゆき)買い注文(価格を指定せず、すぐに約定させる注文)を出したとします。板状況が変わらなければ、東証だけの取引では101円で買うことになりますが、PTSならば、100.6円で買えます。つまり、PTSの方が、0.4円(約0.4%)安く買うことができます。

 ここで、A社に100株の成行売り注文を出すと、東証では100円で売れますが、PTSでは、100.5円で売れます。PTSの方が0.5円(0.5%)高く売ることができます。このように、売買の刻みが細かい場合は、PTSの方が有利な価格で取引できることがあります。

Kai-Xを通じて、売買することも可能

 株式の売買は、以上ご説明した通り、東京証券取引所だけでなく、PTS(私設取引システム)でもできます。

 実は、もう1つ、別の売買方法があります。Kai-Xを通じて、売買する方法です。Kai-Xとは、チャイエックス社が提供しているマッチングシステムのことで、投資家同士の売り注文と買い注文がマッチした場合、東京証券取引所立会外取引(ToSTNet)で取引を成立させます。東京証券取引所が開いている時間帯(9時~11時30分、12時30分~15時)に、利用できます。

 Kai-Xには、機関投資家が多く参加しています。取引所よりも有利な価格で取引できることが多いため、機関投資家が利用するようになりました。

 Kai-Xを利用するには、条件があります。国内株式の投資経験が1年以上、もしくは信用口座開設済みの方で、取引ルールを確認の上、同意することが、Kai-Xを利用するための条件です。

 詳しくは、以下をご参照ください。

 Kai-Xとは

東証・チャイエックス(Chi-X)・ジャパンネクスト(JNX)・Kai-X:どこで取引したら有利か?もっとも有利な取引を自動選択するには、「SOR有効」を使う

 B社の場中(東証があいている時間)の板が、以下のようになっていたとします。

 どこで、売買するのが、もっとも有利でしょう?

 表中で、CHXは、Chi-Xをさらに短縮した略称です。

<B社の板状況>

注:東証のもっとも低い売り指値は17,690円です。東証のもっとも高い買い指値は17,680円です。その間に、PTSで指値が入っています。17,689円には、CHXとJNXに合計で2,100株の売り指値があります。17,688円には、CHXだけで100株の売り指値があります。17,682円にはJNXだけで200株の買い指値があります。17,681円にはCHXとJNXの合計で1,500株の買い指値があります。

 100株買いたいならば、CHX(チャイエックスPTS)に100株の成行買いを入れて、板が変わらなければ、もっとも有利な価格(1万7,688円)で買うことができます。

 100株売りたいならば、JNX(ジャパンネクストPTS)に、100株の成行売りを入れて、板が変わらなければ、もっとも有利な価格(1万7,682円)で売ることができます。

 株式売買注文を出すとき、どこで売買するか、指定することができます。

(1)取引市場を「東証」と指定すると、東証で売買されます。
(2)取引市場を「Chi-X」と指定すると、チャイエックスPTSで売買されます。
(3)取引市場を「JNX」と指定すると、ジャパンネクストPTSで売買されます。

 ただし、めまぐるしく変わる「板」を見ながら、どこで取引したらもっとも有利か、つど判断するのは、至難の業です。こんな時に使うと便利なのが、SOR(スマート・オーダー・ルーティングの略称)です。

 取引市場を「東証」とし、「SOR有効」を選択しておけば、東証があいていて、東証で株価がついている時間帯は、東証・CHX・JNXのうち、もっとも有利な取引のできる場所をシステムが自動選択して、取引が執行されます。

 B社の場合、「SOR有効」で100株成行買いを入れれば、もっとも有利な価格で買えるCHXが自動的に選択されます。「SOR有効」で100株成行売りを入れれば、もっとも有利な価格で売れるJNXが自動的に選択されます。

 なお、Kai-Xを利用することに同意している方は、Kai-Xも含めてもっとも有利な売買方法を、システムが自動選択します。

「SOR有効」を利用しても、追加の手数料はかかりません。通常の売買手数料がかかるだけです。

「SOR有効」の注文を出せるのは東証があいている時間だけ

「SOR有効」で注文が出せるのは、東証の取引時間中で、東証で初値がついた後だけです。東証があく前、東証の昼休み、大引け後には、「SOR有効」の注文は出せません。

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