相場シナリオを想定する際のリスクとは?
前回のコラムで2021年の重要日程をお伝えしたときに、政治イベントは、その結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、その時の経済環境も無視して経済に影響を与える場合もあるため、最重要で注目すべき項目だとお話ししました。
ただ、前回は日程が決まっている政治イベントについて言及しましたが、日程が定まっていない政治リスクも同時に捉えておく必要があります。なぜなら、現在の政治環境や経済環境に変化を与える可能性があるリスクを押さえておくことは、今後の相場シナリオを想定する際のリスクシナリオとして準備しておくことができるからです。
それでは、専門家は2021年の政治リスクをどのように見ているのでしょうか。
毎年、このコラムでは政治リスクを専門とするユーラシア・グループ(※)が年初に公表する「世界10大リスク」を紹介しています。
「世界の10大リスク」とはマーケットを動かす可能性のある世界各国・地域の政治リスクのことですが、年末年始になると、毎年いろいろなシンクタンクや金融機関が「世界の10大リスク」を発表しています。その中で、マーケットで最も注目されているのが、このユーラシア・グループによる「世界の10大リスク」です。
※ユーラシア・グループとは
1998年に米国で設立された世界最大規模の政治リスク専門コンサルティング会社。マーケットを動かす可能性のある世界各国・地域の政治リスクを分析し、機関投資家や多国籍企業にアドバイスしている。社長のイアン・ブレマー氏は国際政治学者で、2011年に既に「Gゼロ」の時代がくると指摘したことで一躍有名になった。「Gゼロ」とは、世界を動かすのはG7(先進国の7カ国グループ<日米英独仏伊加>)でもなく、G2<米中>でもなく、Gゼロ、つまり「リーダーなき世界」を意味する。世界はますますGゼロの世界になってきている。
このレポートは有料ですが、数日経つと新聞やネットで概要が公開されます。また、テレビニュースでも特集されますので、それらを参考にすることができます。
今年の「世界10大リスク」は次の通りです。参考までに昨年の「世界10大リスク」も併記しました。昨年のリスクと対比することによって、リスクが内在する地域・国の変化や比重を読み取ることができます。
ユーラシア・グループ「世界10大リスク」
今年の10大リスクの項目を見たときに、少し驚きました。というのは、「なるほど、こういう視点からリスクを考えているのか」という気付きが例年と比べて少なかったからです。つまり、既にマーケットでかなり意識されているリスクを挙げているということになります。逆に言えば、ユーラシア・グループが挙げているリスクはかなり身近に迫っているリスクということかもしれません。
米国の国内政治が最大のリスク
その中でも今年も第1位のリスクとして挙げられたのが米国の政治リスクです。
昨年は、「誰が米国を統治するか」として米国の大統領選を巡るリスクを指摘していましたが、今年は、「第46代大統領」が政治リスクとして指摘しています。
米大統領選挙で改めて浮き彫りとなった米国社会の分断が「今後も続く」と予測し、人口の半分が大統領選の結果を非合法と見なす深刻な分断によって政権運営や外交などにも影響を及ぼし続けると懸念を示しています。
イアン・ブレマー氏は、バイデン氏については「国民のほぼ半数から非合法に選ばれた大統領だと見なされ続ける。ジミー・カーター氏以降で最も弱い大統領として就任する」との見方を示しています。
2020年で失った900万人超の雇用はいまだ回復せず、また米国民の半分から支持を得られていない政治環境は、新大統領にとって前途多難の始まりかもしれません。
4年後の米大統領選をにらみ、既にトランプたたき、トランプ封じ込めが始まっていますが、2年後の中間選挙も茨(いばら)の道となることも予想されます。民主党内の左派勢力との調整に難航し、分断と対立が残る国内問題に時間を割かれ、環境サミットなどを提唱していますが、名ばかりで実のない外交になるかもしれません。
新型コロナウイルスの影響の長期化
2位の「新型コロナの影響の長期化」では、コロナワクチン接種だけでは「広範囲にわたる影響は消えない」とし、債務危機や金融危機の恐れもあると指摘しています。
前回のコラムで、新型コロナの感染拡大、ワクチンの普及、経済の回復との関連についてお話ししました。ワクチン普及には時間がかかり、感染拡大を抑制するには至らず、景気の回復は鈍くなるとの予想を述べましたが、イアン・ブレマー氏も新型コロナが経済に与えたダメージが今年顕在化するリスクを指摘しています。そして、感染の拡大により世界で経済格差が広がり、回復ペースの違いによる二極化で社会不安が増大し、ポピュリスト(大衆迎合主義者)が支持を得る状況が生まれると警告しています。
米中の対立拡大と板挟みの日本
3位の「気候変動問題」と4位の「米中の対立拡大」は、どちらも米中の覇権争いにまつわるリスクとして挙げています。
貿易や人権を巡る従来の問題に加え、気候変動やワクチンを巡る主導権争いにより、「米中対立は複雑化し、緊張が高まる」と分析し、クリーンエネルギー技術を巡る米中間の競争が激化し、「気候変動問題は産業と国家の安全保障政策の問題となる」と予測しています。米国から連携を求められる同盟国も中国との関係に「深刻な亀裂が生まれる」と分析しています。
特に日本については、大きな影響を与えると予測しています。
日本の安全保障は米国に依存していますが、経済では中国との関係が重要になっていることから、「米中の緊張が高まると日本はその間で板挟みになる」と指摘。「日本の総理は米中対立の板挟みになってはいけないと理解している」が、「私たちのリポートは日本がそれを回避することが困難だと示している」と分析しています。日本にとって多難の年になるかもしれません。
リスクシナリオの準備が肝要
以上のように今年も政治要因の比重が大きいため、経済環境とは別の大きな流れの中で為替の動きを見ていく必要があります。政治リスクは突然起こる場合は避けようがありませんが、事前にリスクの兆候が見られ、そのリスクが高まってくる場合はそのリスクに対応する準備ができます。為替の想定シナリオに、そのリスクシナリオも加えておくのとおかないのとでは大きな違いがあるため、事前に準備しておくことが肝要となります。
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