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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]日経平均年末高につながった3つの要因。米財政出動が引き金で先物踏み上げ
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 あけましておめでとうございます。本年も、当コラムをよろしくお願いいたします。

年末の日経平均大幅高につながった3つの要因

 12月最終週の日経平均は、1週間(12月27~30日)で787円上昇して、2万7,444円となりました。29日には2万7,568円まで上昇、1990年8月以来、30年ぶり高値を更新しました。大納会(30日)の日経平均は反落しましたが、ほぼ「掉尾の一振(とうびのいっしん)」【注】と言っていい展開でした。

【注】掉尾の一振:年末にかけて日経平均が急騰すること。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):2020年1月6日~12月30日(外国人売買は12月18日まで)

出所:東京証券取引所データより楽天証券経済研究所が作成。外国人の売買動向は、株式現物と日経平均先物の合計

 ご覧いただくとわかる通り、日経平均の動きを決めているのは、いつも外国人投資家です。11月は、外国人の大量買いで日経平均が急騰しました。ところが、12月に入ってから25日まで、外国人の買いが減少すると、日経平均は小動きとなっていました。

 ところが、12月最終週、日経平均は大幅高となりました。まだ売買データは発表されていませんが、外国人投資家が日経平均先物を大幅に買い戻したことが、年末の大幅高につながったと推定しています。

 簡単に、昨年11月以降の日経平均の動きを振り返ります。

11月はバイデン・ワクチン期待で日経平均が急騰

 昨年11月は、外国人投資家が、株式現物と日経平均先物を合わせて2兆3,802億円も日本株を買い越し、日経平均を15%も急騰させました。欧米で新型コロナ・ワクチンの開発成功、米大統領選に勝利したバイデン氏への期待で世界的に株高となった流れを受け、日本株にも外国人の買いが増えました。

12月は25日まで、日経平均は小動き

 11月の急騰でやや過熱感が出たことから、12月に入ってから日経平均は上値が重くなりました。

 欧米および日本でコロナの感染が急ピッチで拡大していることが不安材料となりました。ワクチンの大量供給が実現する前に感染爆発で世界経済が二番底に向かう不安につながりました。また、英国で感染力の強い新型コロナ変異種が見つかり、世界に広まっていることも不安材料となっています。

 ワクチンへの期待と感染拡大・変異種への不安が綱引きとなり、12月25日までの日経平均は、小動きなりました。

12月最終週に日経平均は再び、大幅上昇

 12月の日経平均は小動きのまま終わるかと思われていたところ、最終週に大幅高となり、30年ぶり高値を更新しました。

 最終週の日経平均を大きく上昇させた要因が3つあると思っています。

【1】テクニカル要因・過熱感が低下

 11月の急騰で日経平均に過熱感が出ましたが、12月は25日まで小動きとなったため、過熱感がやや低下しました。

【2】ファンダメンタルズ要因・米財政出動

 米国で12月27日に9,000億ドル(約93兆円)の財政出動が決まったことが好感されました。12月24日に英国とEUが自由貿易協定の締結で合意したこともプラス材料となっています。

【3】 需給要因・先物踏み上げ

 投機筋(主に外国人)が日経平均先物の買い戻しを迫られたと推定されます。

日経平均の過熱感は、やや低下

 11月に15%の急騰を演じた日経平均は、11月27日に13週移動平均線からのかい離率が+11.7%まで拡大し、過熱感が出ました(13週移動平均線からの上方かい離率が10%を超えると、短期的に過熱が警戒されます)。

 ただし、12月25日まで、日経平均は小動きだったため13週移動平均線からのかい離率は+6.5%まで縮小し、過熱感は低下しました。年末には、13週移動平均線からのかい離率は+8.2%となりました。過熱が意識される10%は下回っています。

日経平均と、13週移動平均線:2020年1月6日~12月30日

注:楽天証券経済研究所が作成

 2020年の日経平均は大荒れでした。3月19日には、下方かい離率が▲25.6%と、テクニカルに売られ過ぎと判断されました。日経平均が急反発した直後、6月5日には、上方かい離率が16.6%まで拡大し、過熱感が出ました。乱高下を繰り返した1年となりました。

 ご参考まで、以下のグラフをご覧ください。2012年から2020年までの、日経平均と13週移動平均線からのかい離率の推移を表しています。上方かい離率が10%を超えると短期的な過熱感が意識され、下方かい離率が10%を超えると、短期的に売られ過ぎとみなされることが理解できると思います。

日経平均と、13週移動平均線:2012年1月4日~2020年12月30日

注:楽天証券経済研究所が作成

昨年11~12月の日経平均上昇局面で、先物「踏み上げ」が起こっている

 昨年11~12月の日経平均上昇局面で、私は特殊な需給要因が働いていると考えています。先物の「踏み上げ」【注】が起こっていると、推定しています。

【注】踏み上げ
日経平均が下落すると予想して日経平均先物の売り建てを積み上げていた投機筋(主に外国人)が、日経平均がどんどん上昇していく中で、損失拡大を防ぐために日経平均先物の買い戻しを迫られること。

 それが、東京証券取引所が発表している「裁定売り残」の推移から読み取れます。詳しく説明すると難解になるので、説明は割愛して結論だけ述べます。東京証券取引所が発表している「裁定売り残」の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「売り建て」の変化が表れます。売り建てが増えると裁定売り残が増え、売り建てが減ると裁定売り残が減ります。以下をご覧ください。

日経平均と裁定売り残の推移:2018年1月4日~2020年12月30日(裁定売り残は2020年12月25日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 外国人投資家は、過去3年間、日本株を大量に売り越してきました。株式現物だけでなく、日経平均先物の売り建ても増やしてきたことが、裁定売り残高の増加からわかります。

 ところが、外国人の先物売り建ては、成功していません。2019年10~12月には、日経平均が上昇する中で、先物の踏み上げが起こっています。2020年に入り、コロナショックの急落過程で、先物の売り建てを大幅に増やしましたが、その後の急反発局面で、踏み上げが2回起こっています。まず2020年5~7月の急反発局面で、先物の踏み上げが起こりました。日経平均が上昇する中で、外国人投機筋は、日経平均先物の買い戻しを余儀なくされました。次が、2020年11~12月の日経平均急騰局面です。ここでも、先物の踏み上げが起こっています。

 11~12月の踏み上げで、裁定売り残高は、1.3兆円まで減ってきました。今しばらく踏み上げによる先物買戻しが続く可能性がありますが、いずれ裁定売り残が1兆円を割れるあたりから、買戻し圧力は減少していく可能性もあります。

日本株の投資方針

 私は、メインシナリオとして、今年、ワクチンの供給によって世界経済が正常化に向かい、世界景気の回復が続くことを想定しています。その場合、外国人の買いが続き、9月ごろまでに日経平均が3万円をつけると予想しています。

 ただし、足元の上昇ピッチが速かったので、1~3月には一時スピード調整がある可能性もあります。先物の踏み上げが一巡するあたりから日経平均は売られやすくなるので、裁定売り残が1兆円を割れてくる時には、短期的な警戒が必要と考えています。

 いずれにしろ、日本株は割安で、長期的に買い場との見方は継続します。時間分散しつつ、配当利回り4%超えている、割安な大型高配当利回り株に投資していくことが長期的な資産形成に寄与すると思います。

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