11月の株式市場はすさまじい上昇。でも熱狂感なし

 11月はすさまじい活況の月でした。それは為替市場ではなく株式市場で起こりました。

 NYダウ平均株価の11月の上昇率は11.8%と、月間では1987年以来、約34年ぶりの上昇率となりました。11月の値幅は3,137ドル上昇し、11月24日には史上初めて3万ドルの大台に乗せました。

 記録的な上昇は米国だけではありません。日本の株も大幅上昇となりました。日経平均株価は歴代3番目の3,456円の上昇。バブル崩壊後に反発した1990年10月の4,210円以来とのことです。このときはバブル熱狂後の崩壊の中での反発であったため、まだ熱狂感が残っていたことを覚えています。しかし、今回の上昇にはあまり熱狂感は感じられません。

 記録的な上昇は日米だけでなく英国やドイツでも相次いでいます。その結果、11月の世界株価指数は過去最大の上昇率(13%)となりました。

 株式市場に対して11月の為替市場は陽線が目立つ通貨が多かったですが、9月、10月のレンジをなぞっただけで方向感を見出すまでには至りませんでした。ドル/円に至っては、月間で約2円50銭の値動きがありましたが、11月の始値と月末の終値を比べると、陰線(円高)となり、値幅も約30銭しかありませんでした。要するに1ドル=104円台前半を挟んで上下に動きましたが、月が終わってみるとほとんど動いていなかったということになります。

 株が記録的な上昇となったのは、治験効果の高いコロナワクチン開発報道や、バイデン氏への米政権移行許可報道によって政権移行への不透明感が払拭(ふっしょく)されたこと、また新米財務長官にイエレン氏内定の報道によって大規模な経済対策やFRB(米連邦準備制度理事会)との連携への期待が高まったことなどが背景として挙げられますが、これらの材料は為替市場の好材料にはならなかったようです。

 11月の為替市場を見ると、12月はクリスマスシーズンを控えていることから、12月も方向感を見出せない地合いになるかもしれないと思ってしまいます。ただ、12月に入ると、ユーロが、1.20を上抜け、しっかりと乗せてきたことから方向が出てきました。前回、クリスマス休暇まで静かなマーケットが続いても、年末年始に急変動する場合もあるので注意する必要があるとの話をしましたが、ユーロのように新たな動きや他の材料も加わったことから、12月の注目材料をもう一度確認したいと思います。

1:コロナワクチン接種開始

 コロナワクチン接種が12月11日から開始との報道ですが、要因としては既に織り込み済みであるため、接種が始まっても為替市場での影響は限定的と思われます。

 注目するとすれば、巣ごもり需要で上昇していたナスダック総合指数銘柄が、ワクチン接種が現実に始まることによって新型コロナウイルス感染者抑制への期待が高まり、売り材料になるかどうか注目したいと思います。

 また、1日の議会証言でFRBのパウエル議長も指摘しているように、「(ワクチンの)生産や流通、有効性で不確実性が残る」ため、ワクチン接種開始後、マイナス材料が出た場合のシナリオにも留意しておく必要がありそうです。

2:トランプ米大統領の再出馬

 トランプ大統領は、選挙人投票でバイデン氏勝利となれば、ホワイトハウスを去るのかとの記者団の質問に対して、「きっとそうする」と述べ、政権に居座る可能性を明確に否定しました。

 しかし、バイデン陣営の選挙不正を主張し続け、敗北宣言は行わない模様です。

 トランプ大統領の得票数は、バイデン氏の8,000万票には及ばなかったものの過去の大統領選で最多だったオバマ前大統領の6,949万票を上回り、7,400万票近くとなっています。今後も保守層への影響力を維持するのは確実であり、4年後の大統領選出馬への布石を打っているのかもしれません。

 いずれにしろ、2021年1月20日の米大統領就任式までは、12月8日の選挙人確定日、14日の選挙人投票、1月6日の連邦議会での開票の動向を注視する必要がありそうです。選挙人は各党が指名し、投票結果に従うよう求められますが、前回の2016年は史上最多の7人が造反しています。

3:中央銀行の追加金融緩和

 12月は、日米欧とも金融政策委員会が開催されます。ラガルドECB(欧州中央銀行)総裁は12月10日のECB理事会での追加緩和を示唆していますが、量的緩和の規模や延長時期など市場の期待に応えるのかどうか注目です。期待以上であれば、1.20台に乗せたユーロ/ドルは追加緩和で売られるよりも一段高になる可能性もあるため、注意が必要です。

 15~16日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、前回の議事録で資産購入に関するフォワードガイダンス(金融政策の指針)が12月にも変更される可能性が示唆されたため期待が高まっています。しかし、NYダウが3万ドルを超えた中で変更するのかどうかに注目です。変更されれば、ドル安に反応する可能性がありそうです。

4:ドル建て資産の配分比率調整

 NYダウは3万ドルを超え、ナスダックは市場最高値を更新しました。米株を中心としたドル建て資産の価値が高くなっているため、ドル建て資産の配分比率の見直しが起こる可能性があります。年末、四半期末である12月末に向けてそのような資産配分の見直しによって米株が影響を受けるのかどうか注目です。やや中長期的な見方ですが、留意しておく必要はありそうです。

5:中東の地政学リスク

 10月の終わりにイランの核開発の中心人物であった科学者が暗殺されました。イランはイスラエルが背後にいると反発しています。この暗殺事件は中東の地政学リスクを高める可能性があり、今後の動向を注視する必要があります。イランを突発的行動に引きずり出す思惑があるのか、過去、年末年始には中東情勢の事変も多く要警戒です。今年1月早々には、米国によってイラン司令官が殺害されました。また、2016年1月早々には、サウジアラビアがシーア派の有力宗教指導者を処刑したことによってイランが反発し、テヘランのサウジ大使館襲撃へとつながっています。両事件とも大事件には至りませんでしたが、マーケットには緊張をもたらしました。

 以上のように12月は閑散相場となることも多いですが、今年は材料も豊富なので、警戒モードを解除することはできないようです。