投資家が信用取引を行う際は、資金や株券を「借り」て取引することになりますが、今回のテーマは、「貸す」側である証券会社からの視点で信用取引のしくみを整理したいと思います。

 投資家(顧客)から「信用取引の新規建てをしたい」と注文を受けた証券会社は、投資家に貸し出すための資金や株券を調達しますが、その主な調達ルートは3つです。

 まずは、(1)「証券会社内でのやりくり」です。証券会社では様々な顧客から信用取引の注文を取り次いでいますが、例えば、とある投資家が買い建てした銘柄Aの株券を、同じ銘柄Aを売り建てしている別の投資家に貸し出したり、逆に、銘柄Bの売り建ての売却代金を、同じ銘柄Bの買い建てに貸し出すなど、要は、証券会社内で買い建てと売り建てをお互いに融通し合うわけです。これは「店内食い合い」とか「社内対当」とか呼ばれたりするのですが、この方法では証券会社が新たに資金や株券を調達する必要はないため、厳密には調達ルートとは言えないのかもしれません。

 もちろん、いつも必ず買い建てと売り建ての数が同じになるとは限らないため、やりくり出来なかった分は、(2)「証券会社自身が保有する資金や株券を貸し出す」か、(3)「証券金融会社から借りる」ことになります。証券金融会社とは、信用取引に必要な株式や資金を証券会社に貸し付ける業務を専門としている機関です。証券会社の規模によって調達できる資金や株券には差がありますし、証券会社自身が調達できる能力にも限界があるため、証券金融会社経由で調達するのが一般的です。

 以上をまとめると、「証券会社は、店内食い合いで足りない分を証券金融会社から調達している」ことになりますが、この証券会社が証券金融会社から資金や株券を借り入れることを「貸借取引」といいます。この証券金融会社と貸借取引の存在によって、大量の信用取引のニーズにも対応でき、信用取引の仕組みをサポートする役割を担っていると言えます。

 ちなみに、証券金融会社が資金や株券を貸し出してくれるのは制度信用取引だけです。その中でも資金と株券の両方を貸し出ししてくれるもの(買い建てと売り建ての両方が可能なもの)である「貸借銘柄」と、資金のみ貸し出してくれるもの(買い建てのみで売り建てができないもの)である「信用銘柄」に分けています。

 なお、一般信用取引では貸借取引を利用することはできませんが、証券金融会社には「一般信用ファイナンス」と言って、一般信用取引でも資金のみを貸し出ししてくれる仕組みが存在していますが、貸借取引とは区別しています。

 貸借取引自体は、実際に投資家が信用取引を行う上であまり関係がないかもしれませんが、貸借取引というものがあるということだけでも知っておくと、今後説明する予定の逆日歩が発生する仕組みや、相場分析に役立つ信用需給指標(信用残など)への理解が深まりますので、ぜひ押さえてください。

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