7-9月期GDPは52年ぶり伸び率だが、実額はコロナ禍前水準より下
11月16日、内閣府から発表された日本の7-9月期GDP(国内総生産)速報値は、実質年率で+21.4%と、1968年10-12月期以来、52年ぶりの伸び率となりました。しかし、手放しで喜べる内容ではなく、気になる点がいくつかあります。
一つは、前期4-6月期(実質年率▲28.8%)の反動によって52年ぶりの上げ幅となりましたが、GDPの実額で見ると新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を下回っているという点です。
戦後最大のマイナス成長となった4-6月期のGDPの年率換算額は483兆円と、2012年10-12月期以来、7年半ぶりに500兆円割れとなりましたが、7-9月期には508兆円に回復しました。しかし、コロナ禍前の水準である1-3月期の526兆円を下回る水準にとどまっており、まだまだ回復途上だということです。
また、下表のように欧米や英国の7-9月期GDPも4-6月期の反動によって大きな伸び率となりましたが、日本を上回る回復ペースとなっています。中国に至ってはいち早く4-6月期にプラス成長に回復し、既にコロナ前の水準を超えています。
日米欧英の実質年率GDP
4-6月期 | 7-9月期 | |
日 本 | ▲28.8 | +21.4 |
米 国 | ▲31.4 | +33.1 |
欧 州 | ▲39.5 | +61.1 |
英 国 | ▲58.7 | +78.0 |
単位:% |
日本だけ回復が遅れる企業設備投資
もう一つ気になる点は、日本のGDP全体は回復しましたが、企業の設備投資が前期比▲3.4%と、2四半期連続のマイナス成長となったことです。欧米の7-9月期の設備投資は米国が前期比+4.7%、欧州は+12.0%と伸びています。
日本の設備投資がマイナスになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済が制約を受け、先行きの不透明感から投資計画を先送りしたことが背景のようです。しかし、欧米も事情は同様のはずですが、日本の企業はより慎重に判断したようです。次世代の競争分野である、デジタル技術で事業変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)やグリーンリカバリーに積極的に投資している欧米諸国との差がますます開いていくのではないかと、非常に気になる日本の企業の行動です。
上記の気になる2点は、今すぐにマーケットで反応しているわけではありません。ドル/円は数値の発表後もほとんど動いていない状況でした。
先週のドル/円は、米ファイザー社の高い効能のワクチン開発報道によって米株が急騰し、米長期金利も0.8%台から1%に迫る急騰を見せ、103円台から105円台に上昇しました。円買いポジションが一気に巻き戻されて、ドル/円は105円台半ばまで上昇しましたが、米長期金利が0.9%割れまで低下したことから、104円台に下落しました。
そして16日、再びワクチン開発報道がマーケットをにぎわせました。
米モデルナ社が94.5%の治験効果のワクチンを開発したとの報道に加え、普通の冷蔵庫で30日間保存できるとの報道から、16日のNYダウ平均株価は3万ドルに迫る上昇となり、2月以来の最高値を更新しました。また、翌17日の日経平均は29年半ぶりに2万6,000円台を回復しました。
しかし、ドル/円はそこまでにぎわいませんでした。報道後、ドル/円は104円台前半から105円台前半まで上昇しましたが、ファイザー社の報道後の高値までは伸び切れませんでした。おそらくポジション巻き戻しが終わっていたため、買い上げる力がなかったのだと思われます。米10年債金利も0.8%台後半から上昇しましたが、報道後は0.9%前半までしか上昇していません。この金利上昇の力不足からドル/円の上昇圧力は乏しく104円台に失速しました。
トランプ米大統領のネットメディア立ち上げ計画
米大統領選挙は、バイデン氏306人vsトランプ米大統領232人で勝敗判明と米大手メディアが報道していますが、トランプ氏は「時間がくれば分かるだろう」と、いまだ敗北を認めていない状況です。前回のコラムで、敗北宣言はしないが政権は移譲し、4年後の大統領選挙にトランプ氏が臨むというシナリオを紹介しましたが、米メディアも「4年後出馬の現実味」として報道し始めています。それまでは民主党の不正を主張し続け、4年後の米大統領選でリベンジするという見方です。
ツイッター社は、米大統領選で開票の不正を訴えるトランプ氏の投稿に警告表示を連発しましたが、投稿自体は見られるようにしています。これは同社の特例措置でした。トランプ氏が退任した場合、投稿に関する特例が適用されなくなることを同社は明らかにし、投稿の非表示やアカウントの凍結といった制限措置が取られる可能性があるとのことです。
4年間、トランプ氏からの批判を聞くこともうんざりしますが、これではトランプ氏もタイミングよく世論に訴える術をなくします。そのため、トランプ氏はネットメディアの立ち上げを計画しているとの報道もあり、4年後再選に向けて着々と手を打っているのかもしれません。
米大統領選の勝敗判明後に、なぜドル/円は動かなかったのか?
今回の選挙は何となくしっくり来ない結末です。あるいは、まだ本当の結末が来ていないのかもしれません。この感触はこれまでの選挙とは違っており、少なくとも為替市場ではバイデン歓迎、もしくはバイデン失望の動きには至っていないようです。4年前のように、トランプ氏の勝利宣言後、政策への期待感が高まり、1カ月でドル/円が10円以上の円安になった動きとはかけ離れている状況となっています。
しばらくは、コロナワクチン報道前と報道後のレンジである1ドル=103円台前半と105円台後半の動きになりそうです。ただ、このまま年内が終わるとも思えません。
コロナワクチン効能のさらなる発表やバイデン氏の財政出動の具体策から米長期金利が1%を超え、ドル/円はレンジの上限をブレイクし、106円台、107円台に上昇するかもしれません。あるいは、コロナワクチン接種までまだまだ時間がかかると現実を直視して期待がしぼみ、またバイデン氏の政策効果が見極められないことから長期金利は低下し、レンジの下限をブレイクして102円台、101円台に下落するかもしれません。
ではどちらに動くのか? 2度目のワクチン開発報道後のドル/円の上昇力のなさを見ると、下方に警戒した方がよいかもしれません。
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