郵便による投票を追い風に、大逆転を演じたバイデン氏
以下の図は、米大統領選挙の投票が行われた11月3日(火)から、バイデン氏が勝利宣言をした7日(土)夜までの、開票状況です。州名右の数字は、その州の人口に応じて割り振られた選挙人の数、パーセント数は、その時点でのリードポイントを示しています。
図:米大統領選挙の開票の進捗 ※日時は米東部時間
一部の報道によれば、投票日となった3日(火)夜、トランプ氏は、“民主党が選挙を盗もうとしている”、“我々は最高裁に行くだろう”、“全ての投票停止を望んでいる”などとツイートしました。
この3日(火)夜時点で、トランプ氏はテキサス州、フロリダ州、オハイオ州などの大票田で勝利し、213人の選挙人を獲得していました。同時に、勝敗が決定していなかった7つの州のうち、上図で示したノースカロライナ、ジョージア、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アラスカの6つの州でバイデン氏をリードしていました。
仮に、リードしていたこれら6つの州、すべてで勝利した場合、合計80人の選挙人を獲得できたはずです。つまり、213人に80人を加えれば、293人となるため、勝利に必要な270人を大きく上回っている予想でした。3日夜の、各種メディアが困惑した、トランプ氏の一方的な“勝利宣言”の裏には、このような事情があったわけです。
一時、トランプ氏が勝利を手にしたかに見えましたが、トランプ氏の勝利が実現しなかったのは、報じられているとおり、“郵便による投票”が、圧倒的にバイデン氏寄りだったためです。史上最多といわれる郵便によって投じられた票は、バイデン氏が選挙戦を優位に進めていた時期に投函されたとみられます。そして、投票日翌日の4日(水)以降、郵便による投票が本格化し、バイデン氏の猛追が始まりました。
4日(水)、使われなくなった工場が立ち並んでいるのを意味する“ラストベルト(rust belt さびれた地帯)”に含まれる、ウィスコンシン、ミシガンの両州で、バイデン氏は逆転勝利を収め、合計26人の選挙人を獲得しました。同時に、ジョージア、ペンシルベニアの両州の、トランプ氏のリードポイントが縮小し始めました。
5日(木)、ジョージア、ペンシルベニアの両州のトランプ氏のリードがほとんどなくなり、6日(金)、ジョージア、ペンシルベニアの両州は、バイデン氏優勢に変わり、ネバダ州のバイデン氏のリードポイントが拡大しました。
そして7日(土)、バイデン氏は、激戦区であり大票田のペンシルベニア、そして優勢を維持してきたネバダ州で勝利し、合計26人の選挙人を獲得。獲得した選挙人は270人を大きく超える290人に達し、その夜、勝利宣言をしました。
この5日間を振り返れば、投票日当日こそトランプ氏が優勢だったものの、その後は日を追うごとにバイデン氏が優勢になり、優勢に傾いた流れのまま、バイデン氏が逆転勝利を収めた、と言えます。
逆転勝利のカギは、“前例のない規模の郵便による投票”だったと考えられます。トランプ氏自身、開票が進むにつれ、郵便による投票の威力が絶大であることを実感してか、“リードは魔法のように消えた”とツイートしました。
トランプ氏は逆転勝利できる!?そのために必要な3つの条件とは!?
勝利をつかみ損ねたトランプ氏は、日本時間11月9日(月)午前時点で、まだ敗北宣言をしていません。今回の選挙には不正が複数あり、その根拠があると主張しています。トランプ氏は、選挙戦の最中、郵便による投票は不正が起こる、と主張していましたが、実際にそのようなことが起こった、と言っているわけです。
各種報道によれば、トランプ陣営は、ペンシルベニア州で、開票の際、正しい監視が行われなかった、ネバダ州で、登録されていない人物から郵便投票があった、など複数の訴訟を起こしていますが(ミシガン、ウィスコンシンでの訴えは退けられた模様)、9日(月)より、法廷闘争にさらに力を入れるとしています。
法廷闘争が激化した場合、投票日の1週間前(10月27日)、保守系の判事エイミー・バレット氏が承認されたことが意味を強めます(現在、米国の最高裁判事9人のうち6人が保守系)。判決が、同氏を指名したトランプ氏寄りになる可能性があります。
トランプ氏が法廷闘争を激化させ、例えば、バイデン氏が勝利した複数の州で再投票や再集計が命じられた場合、選挙人の決定期限である12月8日(火)に、それらの州の選挙人が確定していない事態が発生し得ます。そして、一部の州で選挙人が不在のまま、12月14日(月)の選挙人による投票が行われる可能性があります。
選挙人による投票の内容の確認・承認は、来年1月6日(水)に行われる予定ですが、法廷闘争が激化した場合、バイデン氏、トランプ氏ともに、勝利に必要な270票以上を獲得できない可能性はゼロではありません。
選挙人による投票で、次期正副大統領が決まらない場合、米下院が大統領を、同上院が副大統領を選出することになります。大統領選挙と同じ日に、下院全議席と上院の3分の1の改選が行われましたが、改選後の下院と上院が、大統領、副大統領をそれぞれ、就任日である1月20日(水)までに選出します。
下院が大統領を選出する際は、議席の数ではなく、“州ごとの1票”が投じられ、獲得票数が全州の過半数に達した候補者が大統領に、上院が副大統領を選出する際は、“議員ごとの1票”が投じられ、獲得票数が全議員の過半数に達した候補者が副大統領になる、とされています。
下院における、議席の過半数を獲得した州の数は、現段階(11月9日日本時間午前)で、バイデン氏を擁立した民主党が19州、トランプ氏を擁立した共和党が26州です(同数が4州、未決が1州)。
上院は、民主党・共和党、どちらが議席の過半数を獲得したか、まだ判明していません。決選投票となったジョージア州で、来年1月5日(火)に行われる投票でどちらの党が過半数を獲得するかが、判明します。
上記より、“法廷闘争にさらに力を入れる”としているトランプ氏が、逆転勝利するために必要な、最低限の条件は、以下の3つと考えられます。ペンス氏の副大統領再選を含めれば4つです。
法廷闘争により、何らかの方法で選挙人を奪う方法もあるかもしれませんが、現時点のトランプ氏の選挙人の獲得数が213人であることを考えれば、奪って自分のものにする(自分の選挙人の数を270にする)よりも、相手の選挙人を減らし、その後、議会で選ばれる方が、難易度は低いとみられます。
(1)不正を立証する。
(2)12月8日(火)までに、法廷闘争により(一部の州での再投票や再投票などを認めさせ)、バイデン氏が獲得した選挙人の数を269人以下にする。
(3)改選後の下院において、共和党が議席の過半数を獲得した州の数を、民主党よりも多くする(現状維持)。
※トランプ大統領の再選に加え、ペンス副大統領の再選を果たすには、以下の(4)も必要。
(4)1月5日(火)に予定されている、ジョージア州での上院の決選投票で共和党議員を勝利させる。
図:次期米大統領誕生までのスケジュールと筆者が考えるトランプ氏の理想形
特に(2)の難易度は非常に高いため、全体的には、逆転は難しいとみられます。しかし、最高裁の判事が保守系で共和党寄りであること、下院で州ごとの投票となった場合、共和党が有利であること、上院でまだ議席数が確定していないこと、などの条件がある以上、“あきらめない”と明言しているトランプ氏は、しばらくは戦う姿勢を崩さない可能性があります。
トランプ氏は、不正を立証しなければ、負けを認めざるを得なくなります。このため、同氏が述べているとおり、目先、証拠探しをし、法廷闘争を本格化させるとみられます。
“バイデン氏勝利確実”の報を受け、リスクオン(リスクを取って運用をするムード。対義語はリスクオフ)に株式市場、景気動向に影響を受けやすいコモディティ(商品)市場は沸いていますが、トランプ氏の“あきらめない”姿勢が強まれば、不安が台頭する可能性があり、注意が必要です。
不安先行で上昇したドルが反落。今後、代替通貨起因で金(ゴールド)は上昇!?
以下のグラフのとおり、先週はジャンルを超えて、多くの銘柄が上昇しました。詳細な解説は今週の「ビットコイン、パラジウム、ナスダックが大幅上昇【ジャンル横断・騰落率ランキング】」をご参照ください。
図:ジャンル横断騰落率 10月30日(金)と11月6日(金)
先週は“ほぼ全面高”だったと言えます。日米中の主要株価指数、主要通貨、そして主要コモディティの合計22銘柄において、下落したのはドル/円、ドル/スイス。ドル/カナダドルの3つのみでした。コモディティにおいては、金(ゴールド)も原油も、上昇しました。
“株高・ドル安・金高”の背景は、“バイデン氏勝利確実”の報をきっかけに、複数のプラスのムードが市場に広がったことが要因とみられます。たくさんの不安要素を抱えたまま行われた今回の米大統領選挙が無事終わる見通しとなり安堵感(あんどかん)が生じ、この4年間のトランプ政権下、底流していた“漠然とした不安”から抜け出す見通しが浮上して解放感が生じ、上院と下院が異なる政党が多数派を占めることを意味する“ねじれ”により、バイデン氏が訴求してきた法人税増税がすぐには行われない、との思惑から安心感が生じたと、考えられます。
安堵感、解放感、安心感などのプラスのムードは、景気回復期待を生み、株高の要因になり、そして、リスクが高まった時に“現金化”のために買われたドル反落の要因になり、そのドル反落が、代替通貨の側面から、金上昇の要因になったと考えられます。
図:金相場を取り巻く環境(筆者イメージ)
冒頭で述べた通り、投票日当日は、トランプ氏が大きく、バイデン氏を引き離していました。郵便投票が今回よりも少なく、ほぼ投票日に勝敗が決まった4年前の感覚で言えば、確かに、トランプ氏はほとんど勝利していたのかもしれません。
しかし投票日翌日以降、みるみる劣勢に立たされ、5日目にバイデン氏に勝利宣言をされました。仮に本当に、「不正な」郵便による投票が原因で勝利を逃したのであれば、まさに“盗まれた”と言えなくもないでしょう。とはいえ、法廷闘争では、トランプ陣営に不正を立証する責任があるため、立証できなければ、負けを認めざるを得ません。
今回の選挙は、全体的には、有権者が不安を抱きやすい“コロナ禍”であることに細心の注意を払い、“郵便による投票を味方につける”ことが、勝つための条件だったと言えそうです。
米大統領選挙の投票日は過ぎましたが、しばらくは、期待先行の株高、不安心理の後退によるドル安、ドル安をきっかけとした“代替通貨”の側面からの金(ゴールド)高は、続く可能性があると、筆者は考えています。
仮に、期待先行で上昇した株価が、トランプ氏が法廷闘争を激化させたり、欧米のコロナの感染拡大によりロックダウンが目立ち始めたりし、反落に転じたとしても、これらの事態が強める“有事のムード”と、株安をきっかけとした“代替資産”の側面から、金(ゴールド)は、買われる可能性があると、考えています。
金相場は、細かい上下を伴いながらも、今後しばらく、材料を入れ替えながら、上値を切り上げ、年内あるいは年明けの早い段階で、2,000ドルを回復するのではないか、と現段階で考えています。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品
純金積立
国内ETF/ETN
1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF
GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド
外国株
ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物
金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム
海外商品先物
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