楽天証券では、10月24日(土)ライブ配信にて「株式投資アカデミー」を開催しました。

「株式投資アカデミー」について詳しく

 米国大統領選挙を間近に控えた今回は、「米国大統領選挙特集」として多くのアナリストが出演し、さまざまな投資アイデアをお届けしました。中でも当日好評だった土居雅紹(楽天証券常務執行役員・株式・デリバティブ事業本部長)の「4年に一度の大イベント!米大統領選を投資機会にする」を、トウシル版で前後編でお届けします。本編はその前編です。

「4年に一度!米大統領選を投資チャンスにする・後編」を読む

米大統領選で潮目が変わること、変わらないこと

 いよいよ米国大統領選挙が目前に迫っていますが、開票日を境に大きく変化しそうなこと、あまり変化しそうにないことがあります。まずはこの点をチェックします。

米大統領選挙後に変化が予想される6つのこと

 大統領選で潮目が変わりそうである点について、それは第1に市場参加者にとって、「不確実性」が払しょくされることが挙げられます。これは心理的な点で非常に重要です。

 次に、環境政策です。環境重視のバイデン氏、経済重視のトランプ氏、どちらが勝つかにより、その後の政策やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の流れが大きく変わります。

 そして、3つめはトランプ氏がひっくり返してしまった「オバマケア」を、民主党政権となればもう一度復活させるのか、さらに、イラン合意やパリ協定の離脱などもバイデン氏当選で復活すると言われています。

 また、4つめは最近話題になっている「GAFA」の独占禁止法問題への影響があります。民主党は「平等」「中立」「格差」などの原則に厳しく、バイデン氏が大統領となれば、GAFAへの風当たりは現在より一層強くなるでしょう。トランプ氏もGAFAには厳しかったのですが、厳しさ度合いが異なるのです。

 そして、株価への影響の点から考えると、5つめとしてトランプ氏が下げた法人税や所得税も、バイデン氏は増税すると明言しています。さらに、6つめは対中制裁関税です。バイデン氏は対中制裁関税に否定的と言われ、これが緩和されれば、香港株はリバウンドの可能性ありと言えるでしょう。

米大統領選挙後に変化が予想されること
・市場参加者にとっての不確実性が低くなる
・米国の環境政策、ESG投資の流れ
・米国内の健康保険政策
・GAFAへの風当たり
・法人税や所得税
・対中制裁関税

米大統領選後も変化しないと予想される5つのこと

米中対立やブルーチームvsレッドチームの対立

 変化が予想されることに注目する一方で、大統領選を経ても、方向性があまり変化しないと予想されることについても、注視することは大事なことです。

 たとえば、米国の中国に対する風当たりがかなり強いこと。これは、GDP(国内総生産)が自国の7割になった国をつぶす、という以前からの米国の鉄則です。これまでも旧ソ連やバブル期の日本などに対しても、同じやり方をしてきました。加えてコロナ禍で米国内の中国へのイメージはかなり悪くなっており、中国に対する強硬姿勢は、大統領選の前後で大きく変わらないものと考えられます。

 また、ブルーチーム(民主主義国家を指す。欧米や日本など)とレッドチーム(国家主義的・全体主義国家を指す。中国やロシア、北朝鮮など)の対立も、米国大統領が変わったからといって、すぐには解消しない問題です。

地球温暖化

 地球温暖化や異常気象というのも、大きく変わらないでしょう。なぜなら、最大温室効果ガス排出国である中国や今後さらに発展していくインドなどの途上国は「一人当たりの二酸化炭素排出量は欧米がはるかに大きく、途上国は同程度まで温室効果ガスを排出して発展していく権利がある」と主張し、彼らが温室効果ガスの排出をやめない限り、地球温暖化問題は継続していきます。

各国の超金融緩和、コロナワクチン待ちの経済状況

 さらに、各国の超金融緩和も、コロナワクチン待ちの経済という状況も、大統領選を境に大きく変わることはないでしょう。

アフリカを中心とした新興国の債務危機発生リスク

 そして、忘れがちですが新興国の債務危機発生リスクも大きく変わるとは思えません。現在、コロナで途上国経済も大打撃を受けており、インドの銀行でも、不良債権が問題になりつつあります。

 また、アフリカや南米も債務危機のリスクが高く、特にアフリカの国々には、返済能力を考慮せず必要以上に中国が融資しています。その融資先の各国が弱ってしまえば、中国の雲行きも怪しくなり、アジアを中心に債権が多い日本のメガバンクも状況が悪化します。

米大統領選後も変化しないと予想されること
・米中対立やブルーチームvsレッドチームの対立
・地球温暖化
・各国の超金融緩和
・コロナワクチン待ちの経済状況
・アフリカを中心とした新興国の債務危機発生リスク

近年の米大統領選相場を振り返る

 ここで、過去の米大統領選の簡単な振り返りをしておきたいと思います。

2008年・オバマ氏vsマケイン氏:リーマン・ショックの最中で選挙どころではない状況
2012年・オバマ氏vsロムニー氏:波乱もなく、あまり印象がない選挙
2016年・トランプ氏vsクリントン氏:マスコミの報道があまりアテにならないというのが分かる選挙

 2016年のトランプ氏とクリントン氏の大統領選ですが、マスコミは当時、圧倒的にクリントン氏が勝利するという報道をしていました。それなのにトランプ氏が勝利したため、マスコミの報道があまりアテにならないというのがよく分かる選挙だったと考えています。

 そして、10月23日の米大統領選のテレビ討論会を見たとき、トランプ氏が圧勝という感じがしました。さらに、ここでバイデン氏は致命的な失言をしています。「石油に対する補助金をなくす」という内容です。

 実は、米国は世界最大の産油国であり、原油があるから中東への関与をやめることができ、米国の立場が強くなったという経緯があります。テキサス、ペンシルベニア、オハイオなど、原油で生計を立てている人が多い州で、バイデン氏が支持されなくなる可能性が高まったのです。

「バイデン氏の圧勝」と言われていた状況が、23日の討論会でひっくり返る可能性が高まってきたのではないかと思います。

投資アイデア1:どちらが大統領になっても上がりそうな銘柄を選ぶ

 米国も日本もマスコミの報道はあまりアテにならず、またメディアは表立ってトランプ氏優勢と言えない事情もあり、どちらが勝つか、まだ不透明です。双方が拮抗(きっこう)する米大統領選を前に、どんな投資戦略を立てるべきでしょうか。

 投資アイデアの一つとして、「どちらが大統領になっても上がりそうな銘柄を選んで中長期で投資する」という方法があります。このような状況では「どっちが勝ってもいいような銘柄に投資するべき」とも言えます。

失業対策に注目

 たとえば、「withコロナ」時代にある今、失業対策が必要になるでしょう。

 格差が大きい米国で多くの人に仕事を与えるには、道路や橋を直したり、通信設備を作るなど、巨額の予算を投じることができるインフラ整備事業が必要です。そうなれば重機が必要になり、キャタピラー(CAT)、重機などのレンタル業務をしているユナイテッド・レンタルズ(URI)、土木作業のマテリアルや資材を売っているマーチン・マリエッタ・マテリアルズ(MLM)などは好調が見込めるでしょう。

選挙に関係なく強い生活必需品

 さらに、P&G(PG)ユニリーバ(UL)ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、大統領選の結果がどうなっても、人々が生活する上での必需品を売っています。そして、コロナワクチンが待望されているため、ワクチン開発を支援しているバイオ医薬品会社のエマージェント・バイオソリューションズ(EBS)も注目していいでしょう。

 また、社会構造の変化が目まぐるしく、貧富の差が激しい米国においては、ホームデポ(HD)ロウズ・カンパニーズ(LOW)、100円ショップを経営しているダラーゼネラル(DG)なども注目でしょう。マスコ・コーポレーション(MAS)は水道の蛇口やお風呂場の用品などのアイテムを売っている会社です。

テーマ型ETFを利用するメリットは大きくなる

 また、米国がファーウェイを締め上げることに加えて、リモートワークが増えている社会構造変化の影響を考えると、タイワン・セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)ASMLホールディング(ASML)レーザーテック(6920)などの半導体関連も強いでしょう。社会全般でインターネットの利用が増加すると、その分、知識が少ないユーザーも増えるため、ネット犯罪が増加することが予想されます。今後ますますサイバーセキュリティーの必要性は高まっていくため、ETFMG・プライム・サイバー・セキュリティー・ETF(HACK)、ネットインフラのキャパシティーのことを考えると、グローバルX クラウド・コンピューティング ETF(CLOU)も今後需要が高まってくるでしょう。これらの企業には高成長であるものの赤字が多いこと、どの企業が勝ち残るか分かりにくいため、テーマ型ETF(上場投資信託)を利用するメリットが大きくなります。

GAFAは今後も市場をけん引できるか?

 GAFAはバイデン氏が大統領選に勝った場合、独禁法で叩かれる可能性があります。競合の小さな会社を次々買っては、自分の会社に取り込む方法を取り、格差社会で独り勝ちしている状況は叩かれやすく、憎まれる対象になっています。トランプ氏も風当たりは強いのですが、バイデン氏ならもっと激しい風当たりとなることが予想され、今の段階では買い進みにくいところです。

金投資は安心感がある

 一方、超金融緩和でお金の価値が下がることに加えて、米・中露対立で中国政府やロシア政府が外貨準備として米国債を買いたくないという流れがあります。そのため、数年タームで純金を積み立てていくのは、引き続き安心感がある投資と考えています。短期投資に用いる場合に投資コストを下げるなら、米国上場の金ETFであるSPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)がいいでしょう。

どちらかの勝利を予測しての投資は難しい

 バイデン・ハリス必勝と思っている方なら、クリーンエネルギー関連銘柄、ハリス氏が規制緩和に前向きとされる大麻関連のキャノピー・グロース(CGC)や、中国への関税を緩めた場合、香港株が吹き上がるという予想もあります。

 ただ、米国のマスコミが言うように、本当にバイデン氏が勝利するかは不透明であり、オススメはできないでしょう。クリーンエネルギー関連や大麻関連は赤字の会社が多いので、特に気をつけて探す必要があります。赤字の「バイデン・ハリス銘柄」よりは、先ほどのインフラ関連や本業が強く競争力がある銘柄を選ぶ方が良いと思います。黒字で増収増益で、株価がいま上昇傾向にあって、PER(株価収益率)20~40倍くらいで、買われ過ぎていない銘柄がいいでしょう。

「コレは買わないほうがいい」という銘柄はコロナで傷んでいるインドの銀行、歴史的に見ても敵だと思ったら徹底的にやる中国関連はオススメしません。そして、債務危機の可能性が高まっている国(ブラジル、アフリカ、トルコ、カンボジア、バングラデシュ)を投資対象にしている投資信託もオススメできません。さらに、新興国への融資から、欧米の銀行は手を引いたのですが、代わりに日本のメガバンクが貸し込んでいるため、あまりいい状況だとは思えません。

前編で紹介した銘柄

銘柄コードティッカー 銘柄名 事業内容
CAT キャタピラー 建設機械、ディーゼル・エンジン、ディーゼル電気機関車のメーカー
URI ユナイテッド・レンタルズ 一般建設と産業機器のレンタル
MLM マーチン・マリエッタ・マテリアルズ インフラ、居住プロジェクト建設などに使用される骨材製品サプライヤー
PG P&G(プロクター・アンド・ギャンブル) 美容、医療、ホームケア及びベビー・女性・ファミリーケア製品の販売
UL ユニリーバ スキンケア製品及びヘアケア製品などの日用消費財販売
JNJ ジョンソン・エンド・ジョンソン 医療分野、スキンケア、ベビーケアなどにおいて各種製品の研究・開発・製造・販売
EBS エマージェント・バイオソリューションズ ワクチンや抗感染薬、抗体療法等の製造
HD ホームデポ 建材、ホームセンター製品、装飾製品などの販売
DG ダラー・ゼネラル 消耗品、家庭用品、衣料品などの販売
LOW ロウズ・カンパニーズ 住宅メンテナンス、修理、改装、装飾製品などの販売
MAS マスコ・コーポレーション 住宅修繕関連用品、建築用品の設計・製造・販売
TSM タイワン・セミコンダクター・マニュファクチャリング 集積回路、半導体製品の製造・販売
ASML ASMLホールディング チップ製造装置の製造、半導体装置システムの開発・製造
HACK ETFMG・プライム・サイバー・セキュリティー・ETF サイバー・セキュリティー指数の価格・利回りに連動する投資成果を上げることを目指す
CLOU グローバルX クラウド・コンピューティング ETF INDXXグローバル・クラウド・コンピューティング指数のパフォーマンスに連動する投資成果を目指す
GLDM SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト 金地金の価格のパフォーマンスに連動することを目指す
CGC キャノピー・グロース 医療市場の法的マリファナの製造・販売
6920 レーザーテック 半導体関連装置などの設計、製造、販売
出所:楽天証券

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