外国人は依然として日本株に弱気

 10月21日の日経平均は、前日比▲104円の下落で、2万3,567円となりました。米国株が下がっている割には、下げ幅が小さかったと言えます。

 外国人投資家は10月9日までで、日本株を4,261億円買い越しています(株式現物と日経平均先物の買い合計)。ただし、日本株に強気に転じたとは考えられません。9月に1兆3,451億円も売り越しているので、少し買い戻しただけでしょう。

 外国人は、以下の通り、今年はほぼ一貫して日本株を売り続けています。株式現物だけでなく、日経平均先物も売り続けてきました。

外国人投資家の日本株、日経平均先物の売買動向:2020年1月~10月(9日まで)

出所:東京証券取引所データより楽天証券経済研究所が作成

 8月に一時、買い越したのですが、9月になり、また1.3兆円も売り越しています。今年は、通算すると、株式現物を5兆3,858億円、日経平均先物を9,099億円も売り越しています。

裁定買い残は低水準、投機筋の先物買い建てはほとんど整理された状況

 今日は、上級者向けの話を少しします。日経平均先物でトレーディングする際、裁定買い残高と、裁定売り残高の変化を見ておく必要があります。そこに投機筋の先物ポジションの変化が表れているからです。

 詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「買い建て」の変化が表れています。買い建てが増えると裁定買い残が増え、買い建てが減ると裁定買い残が減ります。

日経平均と裁定買い残の推移:2018年1月4日~2020年10月20日(裁定買い残は2020年10月9日まで)

 出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフを見ていただくとわかる通り、裁定買い残高は、2018年初には3.4兆円もありました。この時は、「世界まるごと好景気」と言って良い状況でした。

 したがって、投機筋は世界景気敏感株である日本株に強気で、日経平均先物の買い建てを大量に保有していたことがわかります。

 ところが、2018年10月以降、世界景気は悪化し、2020年に入ってからはコロナ危機でさらに急激に落ち込みました。投機筋は、日経平均先物を売って、買い建て玉をどんどん減らしていきました。その結果、裁定買い残高は、2020年には一時約2,000億円まで低下しました。

 投機筋は、日経平均先物買い建てをほとんど整理してしまったことがわかります。ここまで減るのは、リーマン・ショックのあった2008年、チャイナ・ショックがあった2016年以来のことです。

裁定売り残高が拡大、投機筋の売り建てが積み上がる

 裁定買い残高だけでなく、裁定売り残高の推移も同時に見る必要があります。詳しい説明は割愛しますが、裁定売り残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「売り建て」の変化が表れています。

 売り建てが増えると裁定売り残が増え、売り建てが減ると裁定売り残が減ります。

日経平均と裁定売り残の推移:2018年1月4日~2020年10月20日(裁定売り残は2020年10月9日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 2020年10月9日現在、裁定売り残高は、約2兆円まで積み上がっています。一時約2.6兆円あった時と比べると減ってはいますが、なお投機筋(主に外国人投資家)が、日本株に弱気で、日経平均先物の売り建てを積み上げていることがわかります。

 注目すべきは、10月9日時点で裁定買い残高が4,588億円しかないのに、裁定売り残高が、2兆円まで増えていることです。売り残が買い残より1.5兆円も大きくなっています。投機筋が、日本株に弱気を継続していることがわかります。

 注目いただきたいのは、裁定売り残のグラフに、矢印を書き込んでいるところです。ともに、日経平均が大きく上昇する中で、裁定売り残高が減少しています。ここでは、いわゆる「踏み上げ」が起こっています。

 日経平均が下落すると予想して売り建てを積み上げていた投機筋(主に外国人)が、日経平均がどんどん上昇していくため、損失拡大を防ぐために、日経平均先物の買い戻しを迫られていることがわかります。

 6月以降、裁定売り残高が、約1兆円減っていますが、これは、外国人投資家が6~7月に日経平均先物を約1兆円買い越しているのと符合します。

 それでは、日経平均に、裁定買い残と売り残を両方つけた、以下のグラフを見てください。投機筋(主に外国人)は、今のところ日本株に弱気を継続していることがわかります。

日経平均と裁定買い残・売り残の推移:2018年1月4日~2020年10月20日(裁定売り残・買い残は2020年10月9日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

世界景気の回復がもっと鮮明にならないと外国人は先物を買い戻さない?

 外国人から見て、日本株は世界景気敏感株です。製造業、輸出産業の構成比が高いからです。7月以降、世界景気はゆるやかに底打ちしていますが、まだ、コロナが去らない中での景気回復なので、勢いがありません。

 新型コロナの予防用ワクチンが大量供給され、経済が正常化に向かうことがはっきりするまで、外国人投資家は、日本株ショート(空売りを積み上げた状態)を続けるのでしょうか?

 目先、11月3日には米大統領選があり、どんな結果が出ても、不安心理が高まる可能性があります。日本株は割安で、長期投資で買い場と考えていますが、短期的にはしばらく乱高下が続きそうです。

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