貿易戦争とコロナがもたらした戦後最悪の不況

 内閣府は、2018年10月が景気の山で、それ以降、景気後退期に入っていると正式に認定しました。戦後最悪の落ち込みとなったこの不況には、なんと名前がつくでしょうか?

「コロナ・ショック」と呼びたいところですが、新型コロナの影響で景気が落ち込んだのは2020年からです。不況は、それよりも1年以上早く始まっていました。コロナ前から米中貿易戦争の影響で製造業を中心に世界景気は悪化していました。つまり、今回は2つの異なるダメージが時間差で続いた複合不況です。名前をつけるならば、「貿易戦争&コロナ・ショック」または「(貿易戦争とコロナによる)世界分断不況」といったところでしょうか?

 ところで、この不況は、いったいいつまで続くでしょうか? 米中対立は激化の一途、このまま何年も泥沼の景気後退が続くと、悲観的な見方もあります。

 私は、景気回復は近いと考えています。過去の経験則では、真っ暗な闇の中から、次の回復は始まります。いくつか、新しい希望の灯も見えてきています。私は、早ければ来年、世界景気は回復に向かうと考えています。

夜明け前が一番暗い

 過去の経験則では、みなが弱気になったところから回復が始まっています。以下は、近年の事例です。

【1】1998年の世界景気後退(新興国危機)
 中南米・アジアの通貨危機が、ロシアにも波及。景気好調が続いていた米国景気も悪化の兆し。1999年は世界恐慌になると言われました。ところが、実際には1999年から世界景気は回復に向かいました。

【2】2001年の世界景気後退(ITバブル崩壊)
 ITバブル崩壊で世界景気の後退が続く中、9月11日に米国で同時多発テロが起こりました。ITバブル崩壊に同時多発テロが追い打ちをかけて、2002年は世界恐慌になると言われました。ところが、実際には2002年から世界景気は回復しました。

【3】2008年の世界景気後退(リーマン・ショック)
「100年に一度の不況」と言われ、不況の長期化が予想されていました。ところが、実際には2009年4月から世界景気は回復しました。

来年の景気回復、3つのドライバー

 来年の景気回復などあり得ない、と思う方もいると思います。私は来年の景気回復は十分あり得ると考えています。3つの回復ドライバーがあります。

【1】新型コロナ、ワクチン開発成功で徐々に収束に向かう
 米国・欧州・中国で開発を急いでいる予防用ワクチンのいくつかが成功し、2021年には数億人レベルでワクチン供給が可能になると想定します。日本にも、英国または米国で開発されたワクチンが供給されると考えられます。

【2】第4次産業革命、進む
 2021年にかけて、世界的にAI(人工知能)・IoT(モノのインターネット化)・ロボット・5G(第5世代移動体通信)を活用した、技術革新が進むと考えています。こうした、技術革新を、第4次産業革命と呼びます。

 コロナ・ショックがあったために、リモートワーク(在宅勤務)、リモート会議、Eコマースの普及が世界中で加速しています。コロナ収束後、第4次産業革命の本格始動が、世界景気を押し上げると考えます。

【3】資源安メリット 発現
 2020年は、原油など資源が急落したショックから世界経済が落ち込みましたが、2021年はそのショックから世界経済が立ち直り、逆に、資源が下がった恩恵で消費が回復すると予想しています。

 とは言え、景気は水物、予期しない事態が起こって、景気後退がさらに長期化することもあり得ます。そんな中、日本株投資はどうしたら良いでしょうか? 私は、高配当利回り株から投資したら良いと思っています。今日は、2種類の高配当利回り株をご紹介します。攻めの4銘柄と、守りの4銘柄です。

攻め・守りの意味

 本レポートでは、景気敏感業種(石油・総合商社・大手銀行など)から選ぶ株を「攻めの銘柄」、景気変動の影響が比較的小さい業種(食品・通信・損害保険など)から選ぶ株を「守りの銘柄」と呼びます。守りの銘柄は、株式市場で、「ディフェンシブ株」と呼ばれることもあります。

 攻めの銘柄は値動きが荒く、下げる時は大きく下げ、上げる時には大きく上げる傾向があります。

 これに対し、ここで守りの銘柄と呼ぶものは、攻めの銘柄より価格変動が小さくなる傾向があります。ただし、株である以上、値上がり値下がりはします。あくまでも、相対的に値動きが小さいというだけですので、ご注意ください。

攻めの高配当利回り株4銘柄

 最近、株式市場で、景気敏感株の一部を買い戻す動きが出つつあります。たとえば、半導体関連株がそうです。

 コロナ不況で、世界中で、リモートワーク(在宅勤務)、リモート会議、巣ごもり消費が拡大している影響で、ネットを経由した経済活動が一段と活発になっています。それに伴い、自宅で使う高性能PC需要が拡大しています。その中核部品として、半導体の需要が回復しつつあります。また、これから始まる5Gが本格普及すれば、ネットを通じてのデータのやり取りが一段と拡大し、半導体の需要がさらに伸びます。

 中国関連株にも、少しずつ動きが出てきています。中国で新型コロナの感染が収束に向かい、生産活動が再開されつつある影響が出ています。
そこで今日は、景気敏感株の中でも、予想配当利回り4%以上のものから、投資の参考銘柄を選びました。

攻めの高配当利回り4銘柄:2020年10月7日時点

コード 銘柄名 主要事業 配当利回り 株価:円 1株配当金
5020 ENEOS HD 石油精製 5.7% 385.0 22
8031 三井物産 総合商社 4.3% 1,849.0 80
8058 三菱商事 総合商社 5.2% 2,561.0 134
8306 三菱UFJ FG 銀行 5.8% 433.9 25
出所:配当利回りは、1株当たり年間配当金(2021年3月期会社予想)を10月7日株価で割って算出。大手銀行はこれまでディフェンシブ業種に入れてきたが、景気の影響を受けやすくなってきたため、景気敏感株に分類

 投資家の中には、高配当利回り株に投資する際、「予想配当利回りが高ければ高いほど良い」と考えて、機械的に予想配当利回りが一番高い銘柄を選ぶ方もいます。それは、あまり良い選び方ではありません。配当利回りは、確定利回りでないからです。利回りの高い銘柄には、将来、減配になるリスクが織り込まれていると考えるべきです。

  上に挙げた高配当株は、「比較的、安定的に配当が得られる」と私が期待する銘柄です。ただし、個々の銘柄にはいろいろなリスクがあり、将来減配になる可能性が無いとは言えません。予想配当利回りが一番高い銘柄に集中投資するのではなく、なるべく多くの銘柄に分散投資した方が良いと思います。景気敏感株とディフェンシブ株にも分散したほうが良いし、さまざまな業種にも分散投資した方が良いと思います。

 ENEOS HDは、前期(2020年3月期)の最終損益が、1,879億円の赤字でした。原油急落にともなって在庫評価損が発生したためです。石油精製会社は70日の原油備蓄義務を負っています。原油が急落すると、石油製品の販売価格は大きく下がりますが、高値で仕入れた原料が残っているために、在庫評価損が発生します。これは原油が急落した時だけに発生する一時的な損失です。今期、最終損益は会社予想では400億円の黒字に転換する見込みです。原油が横ばいになれば、在庫評価損は出なくなります。原油価格が上昇に転じれば、在庫評価益が発生します。

守りの高配当利回り株4銘柄

 世界景気が減速しても業績への影響が相対的に小さいと考えられる「ディフェンシブ株」の中から、配当利回りが高めで、株価が割安と私が考える銘柄を選びました。

守りの高配当利回り4銘柄:2020年10月7日時点

コード 銘柄名 主要事業 配当利回り 株価:円 1株配当金
2914 日本たばこ産業 たばこ 7.7% 1,991.5 154
8766 東京海上HD 損害保険 4.2% 4,774.0 200
9432 日本電信電話 通信 4.4% 2,295.5 100
9433 KDDI 通信 4.4% 2,738.5 120
出所:配当利回りは、今期1株当たり年間配当金(会社予想)を10月7日株価で割って算出

 東京海上HDをディフェンシブに分類したのは、私の考えに基づきます。損害保険は、コロナ・ショックで受けるマイナス影響が、他業種に比べて相対的に大きくないという意味で、ディフェンシブに分類しました。特に、東京海上HDは財務が良好であること、引き受ける保険の地域や種類を程よく分散していることも、考慮しました。

 ただし、実際には、貿易の減少で貿易関連の保険は悪影響を受けています。また、海外では、イベント中止保険(イベントが中止になった場合にその損失を補償する保険)の支払いが高水準になっています。

 東京海上HDの株価の動きは、けっしてディフェンシブとは言えません。運用で多額の株式を保有しているからです。日経平均が急落する局面では、保有株式の値下がりにより損保株も売られます。一方、日経平均の反発局面では、保有株式が値上がるため、損保株の上昇率も高くなる傾向があります。それでも、ビジネスそのものはディフェンシブと判断しました。

 日本たばこ産業(JT)、日本電信電話(NTT)の投資判断の根拠につきましては、以下、著者おすすめのバックナンバーにあげているレポートを参照ください。

▼著者おすすめのバックナンバー
2020年9月30日:NTTがドコモにTOB(株式公開買い付け)!NTT株の投資判断とドコモ株の行方
2020年6月11日:配当利回り5.3%!三菱UFJの投資価値を見直す
2020年3月12日:配当利回り7.4%、JT株の投資判断:4月に「改正健康増進法」施行を控えて軟調