NTT(9432)が、NTTドコモ(9437)にTOB

 NTT(9432)は9月29日、子会社NTTドコモ(9437)を完全子会社【注】にするため、今日(9月30日)からTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表しました。

【注】完全子会社
 親会社が、発行済株式すべて(100%)を保有する子会社を、完全子会社と言います。NTTは現在、NTTドコモの株の66.21%を保有する親会社です。NTTドコモは子会社ですが、少数株主(親会社NTT以外の株主)が33.79%を保有しているため、完全子会社ではありません。NTTは、今回のTOBで、少数株主持ち分33.79%すべてを買い取り、完全子会社化することを目指しています。

 TOB価格(NTTによるドコモ株の取得価格)は1株当たり3,900円で、9月28日の終値(2,775円)に、40.5%のプレミアム(買収のための上乗せ幅)を乗せました。

 その価格でドコモを完全子会社化するのに、4.2兆円の資金が必要で、国内企業のTOBとしては過去最大となります。そのための資金を、NTTは、負債(銀行からの借入)で調達すると発表しました。

 NTTがTOBを正式発表する前、29日朝から、NTTがドコモにTOBをかける旨、報道が出ていました。そのため、ドコモ株は寄付から買い気配に。大引けの株価は、15.8%高の3,213円でストップ高買い気配となりました。

 NTTによる買い取り価格は3,900円ですから、今日も買い気配で上昇が続き、ドコモ株は3,900円まで上昇する見込みです。

ドコモ株主はどうなるか?

【1】TOBに応募する場合

 NTTは、ドコモの少数株主持ち分をすべて買い取ることを目指しているので、ドコモの株主は、TOBに応募すれば、28日の株価から約4割のプレミアムをつけた3,900円で買い取ってもらうことができます。ドコモ株主には、思わぬプレゼントとなりました。

 NTTがTOBに応募したドコモ株を買い取らないのは、応募株数が下限(0.45%)に満たずTOBが成立しない場合などに限られますが、TOB価格に4割のプレミアムをつけているので、TOBの成立はほぼ確実と考えられます。

【2】TOBに応募しない場合

 NTTは、いわゆる「二段階買収」という一連の手続きを行い、TOBに応募しなかった株主の持ち分も含め、ドコモ株をすべて買い取ることを目指します。

 TOB後に、NTTによるドコモ株の保有割合が90%以上となった場合、NTTは会社法の規定に基づき、TOBに応募しなかったドコモ株すべてに、株式売渡請求をする予定です。

 その場合、買取価格は、TOB価格と同水準にする予定としています。ただし、売渡株主が、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行う場合は、裁判所が売買価格を判断することになります。

 TOB後の、NTTによるドコモ株の保有割合が90%に満たない場合は、株式併合を行って、全株買い取りを目指します。

 いずれにしろ、ドコモの株主は、事実上、強制的に株式を買い取られることになる可能性が高いと言えます。

 ドコモ株を高配当利回り株として、長期投資していた株主は、別途、長期投資していく価値のある高配当利回り株を探す必要が生じます。

 私は、この後説明するNTT(9432)(予想配当利回り4.5%)や、KDDI(9433)(同4.5%)、三菱UFJ FG(8306)(同5.7%)、三井住友FG(8316)(同6.3%)、ENEOS HD(5020)(同5.7%)、日本たばこ産業(2914)(同7.9%)などが、乗り換え候補として良いと考えています。

NTT株の投資判断:高配当利回り株として「買い」

 9月29日のNTT株は、前日比65.5円(2.9%)安の2,230.5円【注】となりました。

【注】65.5円(2.9%)安の内訳
29日は配当の権利落ちが50円ありましたので、実質的な値下がりは、15.5円(0.6%)でした。29日は、9月中間配当の権利落ち日で、中間配当金は1株当たり50円(会社予想)です。

 NTT株は、29日終値ベースで予想配当利回り4.5%(1株当たり年間配当金・会社予想100円を、29日の終値2,230.5円で割って算出)と、配当利回りが魅力的です。

 私は、高配当利回り株として、長期投資していく価値が高いと判断しています。

 ドコモにTOBと報道が出た29日の前場、NTT株は一時5.8%安まで売り込まれました。2つの懸念から、売られたと考えられます。

【懸念1】巨額の買収資金を調達するために、NTTが公募増資をする懸念
【懸念2】巨額の買収がNTTの財務・業績に重荷になる懸念

 懸念1は、おそらく杞憂と思われます。NTTが、買収資金の4.2兆円は負債(銀行からの借入)で調達すると発表しているからです。

 将来、借入返済のために公募増資をする可能性がないとは言えませんが、その可能性は低いと思います。

 懸念2についても、問題ないと私は判断しています。巨額買収のためのコスト負担で、短期的には利益が圧迫されます。ただし、長期的には、ドコモを完全子会社にしたメリットはNTTにとって大きいと考えています。

 ドコモまで含め、NTTグループが一体経営されることにより、NTT株は、これから本格化する第4次産業革命での、メジャープレーヤーの1つになると考えています。

 もともと、NTTは、旧電電公社を、分割・民営化して誕生した会社です。NTTがあまりに強大な存在だったため、競争を促進するために、分割された経緯があります。

 分割後も、NTTがドコモを優遇し、競争を制限することがないか、常に監視の目が光っていました。その後、分割は十分な効果を発揮し、ドコモが優遇されることはありませんでした。

 公正な競争が確保される中で、NTTがドコモを完全子会社化し、結びつきを強化することは、NTTにとってメリットが大きいと考えています。

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