投資の世界におけるリスクとは、損失の可能性ではなく価格の変動率(リターンのブレ)であり、リターンを得るためには、リスク(価格の変動率)を受け入れなければならないこと、リスクの水準を見て金融商品を考えるべきことを紹介しました(リスクってなに?1、リスクってなに?2)。
しかし、銀行預金は、わずかばかり金利が付きますが、価格変動はありません。これまでの説明と矛盾します。
金利が付く以外、価格が変動しない銀行預金は、一見素晴らしいですが、本当に価格変動はないのでしょうか。減ってしまい、元本が割れることはないのでしょうか?
今回は、発生しうる銀行預金の安全について言及したいと思います。可能性が低いですが、改めて考えた筆者の意見です。
銀行預金はインフレに対応できる?
「銀行預金はインフレになったら、実質的に目減りしてしまうので、インフレ時に強い投資商品を持つべきだ」という営業トークがあります。預金金利がインフレ率に負けてしまうので、銀行預金の実質的な価値が目減りしてしまうという話です。
実は、この説明は、過去の実証研究では、必ずしも正しくありません。ここでは、詳しい説明を抜きに結論だけ書きますが、過去の定期預金金利とインフレ率を比較すると、おおむね定期預金金利はインフレ率を上回っています。つまり、銀行預金は、インフレで目減りすることはなく、対応できていることになります。
ただ「おおむね」という言葉を付けたように、完全にインフレに対応できるわけではありません。インフレ率が跳ね上がる状況では、銀行預金はインフレについて行けないケースがあります。例えば、過去、消費税率引き上げのタイミングでは、預金金利はインフレ率に負けています。経済危機が来て、インフレ率が急に上がるような局面が来たら、預金金利がインフレ率を上回ることは難しいと思われます。
従って、平時では、銀行預金はインフレに対応できる一方、非常時では、インフレ対応は難しいと考えられます。
銀行が経営破綻しても1,000万円までは必ず戻ってくる?
「ペイオフ」という言葉を聞いたことがありますか? これは、銀行が経営破綻しても、預金保険制度により、定期預金や(利息が付く)普通預金は、合算して元本1,000万円までとその利息は保護されるという制度です。1,000万円までは、銀行が潰れても保護されると覚えている方も多いと思います。
では、必ず1,000万円までは戻ってくるのでしょうか?
制度的には、預金保険機構が1,000万円までは預金を保護してくれることになっています。しかし、少数の銀行が倒産した場合は確実に保護されるでしょうが、多数の銀行が倒産した場合に保護されるかは分からないと筆者は考えます。
あちこちの銀行が倒産してしまう事態になったときは、預金保険機構の資金力で対応できるとは限らないからです。政府に余力があれば、公的資金を投入して預金保護を図るかもしれませんが、バタバタ銀行が倒れるような状況で、政府も余力がなければ、1,000万円までの預金保護は難しいのではないでしょうか。
結局、ペイオフも平時においては機能するものの、非常時においては機能しない可能性が高いと思われます。
多数の銀行の倒産は、めったに起きないと思いますが、金融恐慌が発生した場合や、日銀のマイナス金利長期化とフィンテック企業等の銀行業務への侵攻により従来の銀行のビジネスモデルが機能せず、事業継続が不可能になってしまう場合では、短期間で多数の銀行の経営が行き詰まることも起こりえると、筆者は考えています。
それ以外に銀行預金が戻ってこないことはある?
ここまで、インフレ対応とペイオフという観点から検討してきましたが、これ以外に銀行預金が戻ってこないケースは考えられるでしょうか。
残念ながら、まだあります。それは資産課税です。
国民が持っている金融資産に対し、何と政府が課税するというものです。ストレートに言いますと、国民の金融資産を政府が没収するということです。
資産の没収「そんなバカな」と思われるかもしれません。しかし、日本では過去に一度発生しています。それは、第2次世界大戦の敗戦後のことです。財政破綻していた政府は、預金封鎖を行うとともに、預金を含む国民の金融資産に対し、課税を行ったのです。政府の借金を減らすために、政府が国民の財産を没収したのです。
「もう資産の没収なんてない」と言いたいところですが、日本の政府債務がひたすら膨張を続けている現状を考えますと、絶対にないとまでは言い切れないと思います。
先のことは分からない、だからリスク分散が重要
ここまでの話をまとめますと、いずれの観点から見ても、銀行預金は平時は安全、非常時は安全とは言えないという結論になりました。
非常時というのは、そう簡単に発生する事象ではありません。しかし、絶対に発生しないとは言えないことも事実です。つまり、銀行預金が安全かどうかは、要は非常時発生の確率の問題といえます。
先のことは、誰にも分かりません。将来のシナリオを平時が続くと決め打ちするのは、危険です。非常時も起こりうると考えて、行動するべきです。そのためには、金融資産も銀行預金だけに集中せず、投資商品にも分散しておくことが、生活の安全を守ることにつながります。
この世の中に絶対に安全なものはないということ、預金もその例外ではないことを、ぜひ認識していただきたいと思います。
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