※本記事は2019年5月20日に公開したものです。
後編では、20~30代の老後を見据えた資金準備の是非から、若年層でも簡便な指標で老後資金準備スタート可能なアイデアについて、聞きました。
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■人生100年時代に備える・野尻哲史さんインタビュー ■老後資金の延命術は?野尻哲史さんに聞く |
20~30代でも細かい計算なし!老後安心の便利な指標がある
――前編では、投資に対する考え方と、必要な老後資金の算出方法などについて伺いました。50~60代の人は「なるほど」と思ったでしょうが、20~30代はまだ腑に落ちない気もします。彼らが理解できるような何か簡単な指標はないのですか?
野尻哲史さん(以下、敬称略) 私も自分の息子、娘に説明しても、理解してもらえないだろうと思います。
そこで彼らには彼らなりのゴールを示す必要があると考えました。米国のフィデリティ社で作られた指標を、日本に合うようにアレンジした「退職準備の指標」です。
これは、30代の時に年収の◯倍の資産が準備できていれば「老後資金のゴール設定に対して、順調である」という指標です。30代の人に60代時点のゴールの話をしても、はるか遠くにかすんでいるだけ。これは、現時点から見て正しい方向に歩いているかどうかが分かればいいという考え方に基づいています。
――とりあえず、目先だけを見て行動すればいい指標なんですか?
野尻 そうです。まず30代のうちに年収の1倍を貯めましょうという指標です。40代のうちには年収2倍、50代のうちには4倍、67歳時点では7倍です。これは、現在20代、30代の人は67歳くらいまで働くことになるという前提での指標です。30代で年収400万円なら30代のうちに400万円貯める、67歳で年収600万円だったら、4,800万円まで貯める、ただし退職金を除いた金額です。
――30代で年収の1倍は達成できそうですが、67歳で4,800万円はハードルが高いですね。
野尻 そう。高い目標ですね。年収の約16%相当額を投資に回さなければならないので、かなりハードルが高く、この話をすると文句を言われます(笑)。ただこれまでは日本のマーケットはパフォーマンスが低かった(1997年から20年間のパフォーマンス)ので、これが解消されるか、分散投資で他のマーケットへも投資を広げれば、年収の約16%よりも投資額を引き下げることができるでしょうね。
この指標で大事なことは老後を「見える化」したということです。若い世代は7倍のことは考えず、1倍という目標を達成することに挑戦してください。挑戦して達成することがまず重要なのです。
退職世代の「分割投資のススメ」
――40代、50代は最も教育費がかかる年代でもあり、そんなに投資はできませんよね?
野尻 おっしゃる通りです。私は何が何でも「やれ」と言っているのではなくて、できないのなら他の方法を考えればいいと思っています。それが先ほど話した「長く働くこと=老後が短くなる」「老後の生活水準を下げること=地方移住をする」といった方法です。
――前編の冒頭では「投資は120%必要」ということでしたが、若いうちから投資になれておく必要があるのですね。
野尻 フェデリティ退職・投資教育研究所でアンケートを取ると、「初めての投資資金が退職金」という人が4人に1人もいました。退職金で投資をするなと言いたいのではありません。退職するまで投資経験がなく、いきなり退職金という大きなお金を投資に回すというのがリスキーだと言いたいのです。
私は退職世代には「分割投資」を勧めています。1回で投資資金を全額投じるのはやめてほしい。1,000万円投資すると決めているのなら、1回で1,000万円ではなく、5回に分割して投資をしましょう。
――「分割投資」は積立投資のことですか?
野尻 違います。積立投資とは給料の中からやる投資。分割投資は、一度に投資をするとリスクが高いので分割して投資しましょうという50~60代に向けてのメッセージです。
投資はとっつきにくいと感じる若年層への解決策は?
――では投資が難しいと考えている20~30代、あるいは40代はどうすればいいですか。
野尻 投資が難しいと感じる大きな要因は選択肢が多いことでしょう。
例えば、投資初心者でFX(外国為替証拠金取引)をやさしいと感じる人が多いようですが、これはドル/円を買うか売るという選択肢の少なさからくるもの。投資信託(投信)にしても、株投資にしても選択肢が多く、自分の意思決定が損得に直結するという怖さが投資意欲をしぼませているのだと思います。
そこで投資をためらっている人に投資を始めてもらうためには、誰かが「これにしましょう」と、きっかけを与えて行動を促すナッジ(後押し)がないと難しい。行動経済学的には正しいロジックですが、それは無理強いをしているようなものです。
――どう解決しますか?
野尻 企業型DC(確定拠出年金)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)は、運用商品の本数が制限されていて選択肢がある程度限られているので入りやすいとは思います。つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)もそうですね。
ただ私は選択肢を限ることが正しいとは思っていません。むしろ本数制限には大反対の立場ですが、投資初心者に対してはある程度絞り込んであげないと答えが出せないというのは、洋の東西を問いません。
そこで私は、投信を選ぶための条件設定については自分で行う、その条件に合った投信を探したら2本だった、5本だったというふうに絞り込まれたというのであれば、問題はありません。そうではなくて、第三者が条件を決めて「投信は○○と○○から選びましょう」と言い、それに従うことは怖いことです。
――その条件設定が初心者には難しいのです。
野尻 そうですね。第1条件は投資期間です。第2条件は投資できる規模です。
この2つを自分で決められれば、それほど難しいことではないと思います。もちろんこの条件で5,000本ある投信の中から1本を選ぶことはできませんが、本数が限られている企業型DC(確定拠出年金)、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)であれば、長期的に投資できるものがいいとか、自分の資産の中でどれくらいを占める規模(元手)になるのかがはっきりしていれば、後は専門家がそれを具現化する条件を決めることができます。そうやって、まずは投資の世界に一歩を踏み出してください。
――老後の備えにはいろいろな方法があること、30代であればまず年収の1倍の資産づくりを目指すこと、投信の場合、iDeCoやつみたてNISAを使えば投資の第一歩が踏み出しやすいことが理解できました。ありがとうございます。
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■人生100年時代に備える・野尻哲史さんインタビュー ■老後資金の延命術は?野尻哲史さんに聞く |
野尻哲史(のじり・さとし)氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長。
1959年生まれ。1982年一橋大学卒業。山一証券経済研究所、メリルリンチ証券会社などを経て、2007年から現職。10年以上にわたり、個人投資家の資産運用、特に老後資金に関するアドバイスを続ける。『退職金は何もしないと消えていく』『なぜ女性は老後資金を準備できないか』『老後難民』『定年後のお金』など著書多数。
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