5大商社の4-6月決算が出そろう。最悪の環境で健闘と評価

 大手総合商社5社の第1四半期(2020年4-6月期)の決算が出そろいました。コロナショックで世界景気が急激に悪化し、原油など資源価格が急落した最悪の環境下での決算で、大幅減益や赤字になりました。

 それでも、決算内容はけっして悪くないと評価します。伊藤忠、三菱商事、三井物産の3社については、世界中の幅広いビジネスにリスク分散し、巧みにキャッシュフローを稼ぐビジネスモデルは健在と感じました。

 住友商事は、減損計上が増え、通期(2021年3月期)で▲1,500億円の最終赤字に転落する見込みと発表しました。コロナショックで大きなダメージを受けましたが、コロナ後には収益力を取り戻すと考えています。

 丸紅は、前期(2020年3月期)、減損が集中し▲1,974億円の最終赤字に転落しましたが、今期、第1四半期は、堅実に581億円の利益を稼ぎました。すでに回復が始まっていると考えています。

 決算内容を詳しく見る前に、まず、5社の配当利回りを見てみましょう。

予想配当利回り4~5%台も。高配当利回り株として評価

 コロナショックの下、今期(2021年3月期)の業績や配当の予想を出さない企業が多い中、5大商社は、配当予想をすべて開示しました。

五大商社の配当利回り(会社予想ベース)

 三菱商事と伊藤忠は、今年度(2021年3月期)に増配を予想しています。これまで取り組んできた経営改革の成果で、減益でもしっかりキャッシュフローを稼いでいくことに自信を持っていると感じました。

 三井物産は、配当を据え置き。同様に将来への自信を感じる決算でした。3社とも、高配当利回り株として投資価値が高いと判断しています。

 住友商事と丸紅は、三菱商事、伊藤忠、三井物産と比べると、収益基盤がやや弱く、今期は減配を予定しています。

 丸紅の予想配当利回りが現時点で2.5%とやや低めですが、先行き、収益が回復すれば、また増配していく余地があると予想。5社とも、好配当利回り株として投資していく価値が高いと判断しています。

 参考までに、過去6期の5大商社の1株当たり配当金の推移を以下に掲載します。危機で減配になることはありますが、それでも年々、配当の水準を引き上げてきたことがわかります。

5大商社の1株当たり配当金:2015年3月期実績~2021年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

コロナショック下の株価比較、収益力の差が表れている

 それでは、コロナショックのあった今年、5大商社の株価がどう動いたか、比較しましょう。以下のグラフをご覧ください。

5大商社、2020年の株価の動き:2019年末~2020年8月25日

出所:楽天証券経済研究所が作成
※2019年末の株価を100として指数化

 コロナショック下でどれだけ利益が落ち込んだか、その差が、そのまま株価変動に表れています。伊藤忠はショック下でも、もっとも安定的に稼ぐ力を示したことから、ショック前の株価をいちはやく回復しています。

 三井物産と三菱商事は、構造改革の成果で、財務も収益力も安定してきたことがわかります。三菱商事は、今期増配まで発表している割には、株価が出遅れており、現在の株価水準で投資価値は高いと判断しています。

 住友商事は今期、丸紅は前期、減損で巨額の赤字を計上しました。まだ、収益力に課題があったことがわかりました。

 次に大商社の過去6期の純利益推移、および、今期の純利益(会社予想)をチェックしてみましょう。

5大商社の利益は?コロナのダメージを確認

5大商社の連結純利益:2015年3月期実績~2021年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成
注:三井物産は連結純利益では2019年3月期に最高益まで届きませんでした。ただし、連結税前利益で見ると、2019年3月期に最高益を更新しています。

 コロナショックに見舞われた前期(2020年3月期)と今期(2021年3月期)、大手総合商社は、軒並み利益が落ち込みます。それでも、過去の危機(2008年リーマンショックや2015年資源安ショックなど)と比較すると、ダメージが小さく済んでいます。

 上の表で、資源安ショックに見舞われた2016年3月期の純利益との比較ができます。今と同じように原油など資源価格が急落し、大手総合商社は資源権益などで軒並み巨額の減損を計上した時です。

 三菱商事と三井物産はこの時、大幅な赤字に転落しましたが、コロナショックでは黒字を保っています。両社とも、当時より財務内容が改善、収益の安定性も一段と高まったと評価できます。
伊藤忠は、資源安ショックの時も黒字を保ちましたが、コロナショックでも収益の落ち込みがもっとも小さく済んでいます。

 丸紅は、資源事業への依存を小さくするために、近年は非資源事業を積極的に拡大してきました。ところが、前期▲1,974億円の赤字に転落しました。前期は、食糧事業で減損(ガビロン社)を出すなど、非資源事業で損失を出したことが、赤字転落の原因となりました。

 ただし、今期、収益は回復に向かっています。第1四半期(4-6月)に581億円の純利益を稼ぎました。農業・食料品事業や、海外IPP(電力)・水道・ガスなどのインフラ事業が、不況下でも安定的に利益を稼ぎ出しています。世界的な危機が起こっても収益を安定させるように取り組んできた成果が、ようやく出始めたと言えます。

 住友商事は、前期でなく今期に巨額の減損を出すので、回復が遅れます。今期、第1四半期(4-6月期)に▲410億円の最終赤字を計上しました。同社がマダガスカル共和国で推進してきたニッケル採掘・精錬事業で、約550億円の減損を認識したことが主な要因です。ただし、住友商事の不採算事業の減損はこれで終わりとなりません。

 同社は、第2四半期以降も、追加減損が発生し、今期(2021年3月期)通期では、▲1,500億円の最終赤字になるとの予想を発表。マダガスカル・ニッケル事業で追加減損が発生する懸念があることに加え、インド特殊鋼事業・鋼管事業・インドネシア自動車金融事業などで、経済環境次第で減損が発生する可能性があるとしています。

5大商社の投資判断まとめ

 増配を発表した三菱商事、伊藤忠、そして配当据え置きの三井物産は、コロナショックでも、安定的にキャッシュフローを稼ぐ力があることを示しました。これだけのショックが起こっても、配当金を維持していく力をつけたことは、ポジティブです。好配当利回り株として、積極的に投資していけると判断しています。

 住友商事と丸紅はまだ収益力にやや課題が残りますが、両社ともコロナ危機が去った後は、収益が大きく回復すると考えています。丸紅はすでに回復が始まっていると判断されます。住友商事、丸紅とも、投資していく価値があると考えます。

事業拡大に貪欲な総合商社

 総合商社の戦略は、資源もなく少子化が進む日本がどう生きていくべきか、まさにその道筋を示していると考えています。政府が成長戦略としてやっていくべきことは、商社がほとんど手をつけています。

 商社は、資源のない日本が生きていくのに不可欠な「日の丸資源会社」となっています。それに加え、新興国での社会インフラ整備事業にも注力しています。発電所・鉄道・上下水道などの建設・運営を幅広く手がけています。

 総合商社は、IT、バイオ、新エネルギー、ロケットなど、今すぐ花開かなくても、将来いつか大きな成長のタネになりそうなものには、片っ端から手を出しています。その貪欲さこそが、今の日本に欠けている成長力の獲得につながると思います。

 それでいて、収益が悪化し、損失リスクが高まってきた事業に対しては、厳格な撤退基準を持っています。見込み違いだった事業からは、大きな傷を受ける前に、すばやく撤退するところが、総合商社の強さの根底にあると考えています。

 大手5社でやっている事業、リスクの取り方は異なりますが、いずれも新興国の成長を取り込みつつ、巧みにリスク管理しています。それが、投資対象として高く評価するポイントです。

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