タケル ボクは26歳の営業マン。会社を作って、尊敬するジェフ・ベゾスみたいな大富豪になりたい! どんな会社が稼げそうかウオッチする目的と、起業資金を増やすために株式投資をはじめて3年。だけど今、持っている株式のほとんどが売り時を逃して、下がりっぱなし。伸びそうなR株を見つけたのに、資金があと少し足りない……。

――こんな悩みを抱えたタケルは、信用取引を指南するというドーシタ師範に誘われ、「信用取引はじめて道場」に通うことになった。

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信用取引には向いている取引と、向いていない取引がある

タケル 早速ですが、ドーシタ師範。ボクはいまR株が欲しい。だけど投資資金が足りないから、これを信用取引で手に入れたい。まだ誰も目をつけていないし、じっくり大きくなるまで持って、テンバガー(10倍株)を目指す!

ドーシタ師範 ……信用取引はしないほうがいいぞ。

タケル え? 信用取引の機能のレバレッジ(◆最後のページで解説)を使って、資金の3倍くらいまで取引はできますよね。出たばかりのボーナス30万円しかないボクでも、いま40万円のR株は余裕で買えるはず。

[3の巻]株の下落でも利益を出す仕組み!信用取引で利益のチャンスは2倍?

信用取引は短期の取引に向いている

ドーシタ師範 資金が足りる足りないという問題ではないのだ。現物取引と違って、信用取引にはいつまでに取引を完了させなければならないという期限がある。まずは、この道場に伝わる虎の巻一つ目を授けよう。

虎の巻1信用取引の株式は永遠に持っていることはできず、決められた期日までに取引を一巡させることがルール
買った株式は、6カ月後など、あらかじめ決められた期日までには売って取引を終えないといけない。売買タイミングを捉えて、短期間で取引一巡するのに向いている

タケル 信用取引には取引期限があるのか。ということは、株式を安く買い、その企業が業績を伸ばして大きく成長するまで、3年とか5年と長く持つような投資には向いていないってこと?

ドーシタ師範 その通り。信用取引に向いている株は、多くの投資家に注目されて、売買が活発なものがいい。つまり、制度信用(◆最後のページで解説)という枠を使う場合なら、6カ月という短い期間で期待する動きが出そうな株がいいのだ。信用取引には、制度信用と一般信用という2種類の方法があるのだが、それは後で詳しく説明しよう。

タケル 6カ月って短いですね。だとしたら、いま一番話題になっているS株がいい?

ドーシタ師範 その株式の売買が活発かどうか、それは取引参加者が多いということだ。それを判断するには、その株式の取引量(出来高)の推移をチェックする必要がある。具体的には株価の動きと取引量の増減を見ることで売買が活発か、取引参加者が多いかどうかを判断するのだ。

タケル 株価の動きと取引量の増減?

ドーシタ師範 下の画面のように株価が上昇したり、下落するとともに、取引量が増えていれば売買は活発だと判断できるのだ。

上部の株価が大きく動くと、下部の取引量を表す出来高も大きく増えている(赤い囲み)
出所:マーケットスピードⅡより

タケル なるほど! 株価が動くときに取引量も増えている。売買が活発、注目されていると言えるんですね。

ドーシタ師範 これは証券会社のウェブサイトや金融情報サイトなどで、いつでも確認できる。この道場の教育用に採用している楽天証券の「マーケットスピードⅡ」という取引ツールでも簡単にチェックできるから、後で教えてやるぞ。

タケル わかりました。

ドーシタ師範 その他、証券会社がウェブサイトで公開しているランキング情報も参考にするといい。売買代金など、いろいろなランキングがあるが、上位の株は注目されている証拠だ。売買成立回数を表すティック数のランキングもチェックするといい。

タケル R株のティック数を見てみると、あれ? 売買代金のランクは低いけれど、ティック数はトップ100位に入る勢い。注目され始めている?

売買代金とティック数のランキング銘柄は異なっている
出所:マーケットスピードⅡ

ドーシタ師範 少し前にR社のニュースがあったからな、これが材料になったのかもしれん。ところで、レバレッジの話が出たから分かっているようだが、虎の巻二つ目を授けよう。

投資額を大きくすることができるが、損失も大きくなる信用取引

虎の巻2信用取引は実際に持っている資金を担保にして、その約3倍のレバレッジを利かせた金額まで株式取引ができる
資金効率がいいメリットの半面、利益、損失ともに、レバレッジが掛かった結果となる。高いリターンを期待できる一方で、リスクも高くなる

タケル 分かっていますよ。さっきも言いましたけど、信用取引は自前資金の約3倍分の額まで、取引ができるんですよね。

ドーシタ師範 そうじゃ。信用取引のメリットの一つとして、自前の投資資金を担保に、具体的には自前資金の3倍程度の株式取引ができるのだ。自前資金が50万円あった場合、最大でその約3倍の150万円分くらいの株式取引ができる。ただ、この担保である保証金は最低額が決められている。例えば、楽天証券の場合、30万円が保証金の最低額だ。

タケル ボク、保証金がギリギリだった。

ドーシタ師範 ここで言いたかったのは、約3倍のレバレッジを効かせて取引した場合、その利益も3倍の恩恵にあずかることができるが、一方で損失の場合も、3倍のレバレッジの分、大きくなるということだ。

タケル 下落しても損切りしなければ、株価が戻るまで待てばいいですよね。

ドーシタ師範 タケルよ。もう忘れたのか、信用取引には期限があるということを。

タケル そうだった。ということは、あらかじめレバレッジ分の損失を計算して、売るタイミングを考えるべきですね。

ドーシタ師範 そう。下落したらどう対応するか、あらかじめ考えておくことが重要だな。

タケル でも下落相場が続くと損失が大きくなるわけだから、信用取引する人が減って売買も活発にならないですよね。

ドーシタ師範 タケルよ。信用取引は株を「買い」から始めなくても、いいのだ。

タケル ドーシタ師範、謎かけですか?

――[3の巻]へ続く

信用取引ことば解説

◆レバレッジ(ればれっじ)とは

 日本語で言えば「てこの作用」。信用取引では手持ちの資金よりも大きい金額の取引を行うことを指します。

◆制度信用(せいどしんよう)とは

 信用取引には、制度信用取引と一般制度取引の2種類があります。この2つは「取引ができる銘柄や返済期限、金利や規制などのルールをどこが決めているか」で分かれます。このうち、制度信用は証券取引所によってルールが決められていて、これは全ての証券会社に一律に適用されます。一方の一般制度は、各証券会社がそれぞれ、期限などルールを決めている取引です。

信用取引はじめて道場

 この連載では、信用取引をスタートするために必要な準備と、株式の売買一巡するために求められる知識とテクニックを身につけてもらうことを目的にしています。

「信用取引は難しくて、よく分からない」という人にもできるだけやさしく、信用取引のメリットとデメリット、そして手数料などのコスト、さらには特有の言葉遣いの解説をします。現物取引はしているけれど、信用取引はやったことがない人が自分で銘柄を選び、取引一巡するまでをナビゲートします。

 そして、信用取引が力を発揮するのはどんな局面なのか、上手な信用取引の仕方などの技を主人公とともに学び、株式取引のレベルアップをしていきましょう。