ホントに知ってる? 社会やケイザイのこと? なんとなく知っているはずなのに、質問されると、大人でもうまく説明できないケイザイのコト、幼稚園児でも世の中を知っているシノちゃんが教えます。新入社員の岡本くんと一緒に、みんなの「なぜ? どうして?」を、学ぼう。

子どもが分かるケイザイ! シノちゃんは知っている!

シノちゃん(幼稚園児) ねえねえ。岡本くん、お久しぶり。新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されてから、毎日午前中だけ幼稚園に通っているの。お友達も手作りのお気に入りマスクをつけているよ。

 

岡本くん(新入社員) へー。かわいいマスクだね! 僕はときどき会社に行くけれど、基本的には在宅勤務が続いているよ。

 

シノちゃん ところで、新型コロナのせいで景気って悪くなりそうじゃない?

岡本くん そうだよね。感染者もまた増え始めたし、会社の取引先が「自粛に戻ったら体力が続かない」って本当に困っていたよ。

シノちゃん それなのに株式市場は回復しているんだよ、おかしくない? なんで?

岡本くん  

なぜ株式が? えーと?

 

シノちゃん 

ちょっと! 大人なのに知らないの?

 

――シノちゃんは知っている! 今年2月末から3月下旬にかけて、新型コロナウイルスの影響で、世界の株式市場が急落。世の中が不安に包まれている中で誰もが株価の長期低迷を予想したのに、一転して日本やアメリカの株式市場ではV字回復。そして、世界的に感染者が増え続ける現在も、株式市場は大きく下がっては高値に戻すを繰り返しています。「景気が悪くなりそうなのに、株価が回復するのはなぜ?」をシノちゃんが解説します。

なぜ?新型コロナ感染の心配は続いているのに、株価が戻った不思議

カギを握るのは「中央銀行」

シノちゃん これまで起こったいろんな経済危機で株式市場は大きく下がったけれど、このコロナ・ショックが今までと大きく違ったのは、「回復が早かった」こと。ここ数年の間に投資デビューした人の中には、まるでジェットコースターのように上がったり下がったりの株式市場の動きにヒヤヒヤしたという人、多いかも。

岡本くん そういえば、僕の先輩が株投資しているけれど、「読みが外れた!」と嘆いていた。

シノちゃん そうだよね。経済危機で株式市場が「急落からの急回復」は、たぶん誰もが経験したことのない出来事だったみたい。この背景には、なんと日本やアメリカ、ヨーロッパの中央銀行の存在があるのよ。

岡本くん 黒幕なの? 中央銀行? どこの銀行? 

シノちゃん 中央銀行っていうのは、岡本くんがお金を預けるような、街にある銀行じゃなくて、国の金融システムの中心の役割を担う重要な組織のこと。日本なら日本銀行、アメリカはFRB(米連邦準備制度理事会)、ヨーロッパはECB(欧州中央銀行)がそれぞれ中央銀行の役割を担っているの。厳密に言うと、それぞれの中央銀行の役割は違うところもあるけれど、共通しているのは、「金融市場と金融システムの安定維持」!

岡本くん 金融システムの安定維持…。中央銀行ってSE(システムエンジニア)みたい。

シノちゃん まあ、あながち悪くないたとえかも。コンピューターもウイルスに侵されるもんね。新型コロナウイルスという未知のウイルスのまん延から、経済の先行きに不安が高まってコロナ・ショックが起きたよね。それで、何があってもいいように現金を手元に置きたいと考えた世界中の企業が、世界の基軸通貨・米ドルを確保しようと一斉に動いたの。この結果、米ドルの需要が急増しちゃった。

岡本くん 需要が増えると、米ドルの価値が上がることになる? 米ドルが手に入りづらくなるんじゃない?

シノちゃん そう。そこで、世界の中央銀行は、金利を引き下げることにしたの。お金が必要な人たちにきちんと行き渡るようにするためにね。金利が低いと借りやすくなるから。岡本くん、お金を借りるときは、その分の金利、つまり利息を払うことは分かるよね。

岡本くん うん。物入りでキャッシングしたときに、利息と一緒に返したよ。

シノちゃん 世界の中央銀行は、この金利を限りなくゼロに近づけることで、「借りられない」を未然に防いで、またパニックが起きないようにしたの。

岡本くん 金利がゼロになるなら、僕も借りたい。

シノちゃん そうそう。金利が下がるとお金は借りやすくなる。だけど、預金したときの金利も下がることになるの。これは債券に投資した場合も同じで、お金は増えづらくなっちゃう。

岡本くん それはそれで困る人もいるよね。

金利ゼロと米ドル、株価の関係は?

シノちゃん そう。だから「お金を銀行に預けていても仕方がない」「債券に投資しても仕方がない」と考える人たちのお金は行き場を失って、株式市場に向かうの。そうして、大きなお金が株式市場に流れて、株価の急回復につながったんだね。日本はもう何十年も金利が低いままだから、あまりイメージができないかもしれないけど。

岡本くん 日本の何十年も知っているシノちゃんって…。

シノちゃん コホン。アメリカはほんの2年ほど前まで、債券の金利(10年債利回り)が3%前後もあったから、金利を下げることは市場にとても大きな衝撃を与えたの。あと、アメリカの場合は特に、アマゾン、アップル、マイクロソフトみたいな巨大ハイテク企業が、業績面でコロナ・ショックの打撃をほとんど受けなかったことも、株式市場を押し上げる要因になったのよ。

岡本くん 経済活動の強制停止で、これから景気が悪くなることが分かっているのに、株価が上がったのは、そんな理由だったんだ! あれ? でも日本って金利が低いどころか「ゼロ金利」なんじゃなかったっけ?

シノちゃん 日本だけでなく、実はヨーロッパも元々金利は低くて、むしろマイナス金利な
ので、国によっては銀行口座にたくさん預金していた場合は逆に手数料を取られちゃう! 日本もヨーロッパも、アメリカのようにこれ以上、政策金利を引き下げられない代わりに、それぞれの中央銀行はその分、株式や債券をたくさん買って、世の中や企業にお金を供給しているの。

岡本くん へー。何? 中央銀行も株式や債券を買うの⁉

シノちゃん 中央銀行は、株式や債券を買うことで、世の中に出回るお金の量を増やして、企業などがお金を借りやすくさせているの。こんなふうに、株式や債券を買い入れてお金を世の中に供給する政策のことを、金融緩和政策と言うよ。

岡本くん 中央銀行ってお金持ち。

中央銀行は救世主?一生安心?

シノちゃん ちなみに、IMF(国際通貨基金)が6月に発表した報告書によると、日本、アメリカ、ヨーロッパの中央銀行は、コロナ・ショック対応に合計6兆ドル(約640兆円)もの資金を供給したって。

岡本くん 景気が悪くなっても、いつでも中央銀行が自動的にお金を用意してくれるなら、僕たちは安心だね!

シノちゃん いやいや。決して楽観はできないの。世の中にお金を行き渡らせるという中央銀行の対応策はあくまでも「応急処置」のようなもの。借りたお金は返すものだから、企業は自力で利益を上げなければならないし、新型コロナウイルス感染拡大の第2波に備えて、事業運転資金を確保しておく必要もあるでしょ。

岡本くん 応急処置か。僕たち、何かできることないの?

シノちゃん 私たちも景気が悪くならないように、お買い物に行ったり、いつかはお父さんやお母さんと旅行することも必要だよね。もちろん、新型コロナウイルスの感染予防策をきっちり取りながらね。

岡本くん シノちゃん、大人だね。って、もう走って行っちゃったし。

シノちゃん 早く旅行に行きたいな! 次回の「子どもが分かるケイザイ」も、お見逃しなく!

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