金が過去最高値を狙う展開

 7月に入り、金(ゴールド)が一時1,800ドルと、2011年につけた過去最高値1,891ドルにあと一歩と迫っています。

金価格の推移

単位:ドル
出所:セントルイス連銀

  普通、過去最高値の水準はレジスタンス(上値抵抗線)と考えられます。そのため、これを上に切ることができるかが見もので、もしブレイクアウトすれば、そこで「ワッ」と一斉に新規の買いが入ると予想されます。

 そしてその後は、先ほどのレジスタンスの水準まで株価は下押しするのが通例です。その際、これまでの上値抵抗線は下値支持線、つまりサポートに代わるわけです。そのサポートが堅持されたことが確認された後に、本格的な機関投資家の買いが入ると予想されます。

いま金が人気なワケ

 金には利子も配当もありません。だから高金利下では利子や配当がない分、金は不利。いま金が買われている最大の理由は、FRB(米連邦準備制度理事会)が米国の政策金利であるFF(フェデラルファンズ)レートを0~0.25%という極めて低い水準に設定しているからです。

 そしてもう一つ、ゴールドの需給関係に好影響を及ぼしている要因としては、米ドルではなく金で準備金を積み上げることが、各国の中央銀行で流行しているからです。これは、米国の外交政策が近年、諸外国にとってフレンドリーでなくなってきたことが少なからず影響しています。対米関係が冷え込む中、米ドルで準備を積むことはしたくないと考える国が増えているのです。

金への投資法・ETFと産金株

 では、金に投資するにはどんな方法があるでしょうか。

カンタンな金ETF投資

 一番カンタンな方法は、SPDRゴールドシェア(GLD)というETF(上場投資信託)を買うやり方です。

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金鉱株で投資

 次に、産金会社などの金鉱株を買う方法もあります。金価格が急上昇している局面では、産金会社の利益は往々にして、金価格の上昇率以上に増大します。だから株価の値上がり幅は金価格そのものの上昇幅より大きくなるのです。これはオペレーティング・レバレッジと呼ばれる現象で、この仕組みを説明します。

 金1オンスに対する鉱山の維持管理を含めた採掘コストをAISC(All in sustaining cost)と言います。

採掘コスト(AISC、2019年)

単位:ドル
出所:各社年次報告書

  AISCが高い企業ほど損益分岐点は高くなり、そんな高コスト体質の企業ほど、金価格が損益分岐点を超えて上昇すれば、ここからの業績の変化率は高くなります。このような状態を「オペレーティング・レバレッジが大きい」と形容します。

 上のチャートではハーモニー・ゴールド・マイニング(HMY)が最も高コスト体質です。いまは金価格が1,800ドルを超えている状態なので、ハーモニーのような会社でも黒字を出せる環境になったと言えます。

バリュエーションを分析

 次にバリュエーションの分析の仕方を説明します。

 産金各社の時価総額を確認埋蔵量で割り算すると、投資家がその会社の地下に眠っている確認埋蔵量1オンスに対し、いくらの価値を株式市場で付与しているかが分かります。

時価総額÷確認埋蔵量(2019年)

単位:ドル
出所:各社年次報告書

  上のチャートを見るとアグニコイーグル(AEM)は697.3ドルの評価がされています。同社が高評価を受けている理由は、金価格が高いときも低いときも安定した業績が出せるように日頃からロー・コスト経営に徹しているからです。また、営業キャッシュフローを最大化することを心がけた経営を行っています。2019年の金生産の実績は178万オンスでした。同社の場合「今年はこれだけ生産します」と約束すると、必ずその約束を守るということを励行しています。そういう積み重ねが投資家の信頼を得ているわけです。

 これに対してアングロゴールド・アシャンティ(AU)ゴールドフィールズ(GFI)、ハーモニーの3社は比較的低評価に甘んじています。その理由はこれらの企業は南アフリカが本社だからです。

 南アフリカは早くからゴールドが出ることで知られており、100年以上の社歴のある老舗産金会社が多く、ずっと生産を続けてきたため、いまは地底深くに降りていかないと金がありません。つまり簡単にアクセスできるところは取り尽くしてしまったのです。そのため、南アフリカの産金会社は一般に採掘コストが高く、したがって株式市場での評価も低いのです。

 採掘コストの高い南アフリカの産金会社は株価の値動きが荒っぽく、金価格が下落する局面では南アフリカの産金会社はBUY & HOLDには向かないと言えるのです。

 一方、採掘コストが安い優良企業は、株価の値動きがマイルドなので、高コスト企業と比較するとリスクは低いと言えるかもしれません。