毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、ディスコ(6146)
1.2020年4月の世界半導体出荷金額(単月)は、前年比4.8%増、前月比14.4%減
世界各国で新型コロナウイルスの感染第2波が到来しつつあるようです。日本も例外ではなく、すでに第2波が始まったと思われます。今回は、この困難な世界情勢の中での半導体デバイス市場と半導体設備投資の動きを確認したいと思います。
まず、世界半導体出荷金額(単月)の動きから。2020年4月の世界半導体出荷金額(単月)は、321億9,200万ドル(前年比4.8%増、前月比14.4%減)となりました。
向け先別に見ると、4月時点で出荷金額の61.5%を占めるアジア・太平洋向け(中国向けを含む)が前年比3.0%増と緩やかな回復過程にあります。ただし、4月前月比は15.3%減であり、新型コロナ禍の中でも順調だった1-3月の反動がでたと思われます。日本向けの回復は鈍いですが、これは新型コロナ禍に対応した自粛の影響が出ているためと思われます。
ちなみに、アジア・太平洋向けと日本向けを合わせた構成比は4月で70.2%になります。新型コロナウイルスの感染者数が世界の他の地域よりも少ないアジアが半導体デバイスの最大の需要地であることは、半導体関連企業への投資にとって重要な注目点です。
南北アメリカ向けは好調です。4月は前年比29.9%増でした。アメリカでテレワークの増加に伴ってデータセンター投資が活発に行われているためと思われます。アメリカは感染者の増加に歯止めがかかりませんが、逆に経済を可能な限り維持するために、データセンター(高性能サーバー、SSDを含む)、高性能パソコンと5Gを含む通信への投資が活発になっていると思われます。
一方、欧州向けは前年割れが続いています。欧州では感染が一旦収まっているようですが、第2波到来のリスクがあります。また、各国政府、企業、国民の資金不足から経済の再起動も思うように進んでいない可能性があります。半導体市場としては小さいため、欧州向けが半導体市場に直接悪影響を及ぼすことは考えにくいですが、欧州とアメリカの経済悪化が世界経済全体の波乱要因になる可能性は十分にあると思われます。
表1 世界半導体出荷金額(単月)
2.先端半導体の生産出荷は順調
グラフ1は、世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)を示したものです。新しいブームに向かう途中で新型コロナ禍に遭遇した結果、先端半導体から汎用半導体まで全部合わせると一旦小休止の状態にあると考えられます。
ただし、先端半導体だけの生産販売を見ると、引き続き順調に拡大中です。グラフ2は台湾にある世界最大の半導体受託製造メーカー、TSMCの月次売上高の前年比を見たものです。5Gスマホ向け、高性能パソコン、高性能サーバー向けの7ナノ半導体の生産が活発だった2020年1-3月期から4月、5月は伸び率が鈍化しましたが、なお高水準です。
また、今秋(9~10月?)発売予定の新型iPhone向けの5ナノチップセットの生産を6月中に開始したと言われています。加えて、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイシス)から受託している高性能パソコン用、サーバー用の7ナノCPUの生産も活発と思われます。TSMCの2020年1-3月期の用途別売上構成比を見ると、構成比49%のスマートフォン向けとともに構成比30%のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC、高性能パソコン、サーバー向けCPUなど)が前年比50%近い高い伸びとなっています(表2)。
これを見ると、従来スマートフォンに偏っていた先端半導体の需要分野が、新型コロナ禍を契機として高性能パソコン、高性能サーバーからなるHPCに拡大していることがわかります。このため、TSMCは今後5Gスマホの売れ行きが予想よりも振るわなかったとしても、HPC向けで十分補い、高い成長を続けることが可能になってきたと思われます。
なお、TSMCはアメリカの対中規制の強化によって、今後ファーウェイからの受注を得ることができなくなります(今年9月以降の出荷分から)。TSMCにとっては大口顧客であるファーウェイを失うことは痛手ですが、ファーウェイの競争相手であるアップル、シャオミ、オッポなどのスマホメーカーのシェアが上昇するか、AMD向けのパソコン、サーバー用CPUの生産が増えるならば十分補えると思われます。
グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)
グラフ2 TSMCの月次売上高:前年比
表2 TSMCの用途別売上高
3.マイクロン・テクノロジーの2020年8月期3Qを見ると業績は順調に回復中
6月29日付けで公表されたアメリカのメモリ大手、マイクロン・テクノロジー(DRAM、NAND型フラッシュメモリの大手だが、特にDRAMに強い)の2020年8月期3Q(2020年3-5月期)決算を見ると、DRAM、NANDの生産販売も回復に向かっていることが確認できます。
マイクロンの2020年8月期3Qは、売上高54億3,800万ドル(前年比13.6%増)、営業利益8億8,800万ドル(同12.1%減)となりました。前回の半導体ブームが終わった後の下降局面で、DRAM市況が今の水準よりも高かった前3Qに比べると営業減益となりましたが、今2Qと比較すると13.4%増収、営業利益2.0倍となりました。今2Qが業績の大底だったと思われます。
会社側の今4Qガイダンスを見ると、売上高57億5,000万ドル~62億5,000万ドル(前年比18.1~28.3%増)、営業利益10億2,000万ドル~13億3,000万ドル(同56.9~104.6%増)と前年比、今3Q比ともに急速な業績回復が予想されています。スマートフォン向け、HPC向けにDRAM、NANDの出荷順調が期待できるとともに、DRAM、NANDの市況が過去半年から1年の間に底打ち反転してきたことが寄与すると思われます。
今後を展望すると、TSMC、AMD、インテルのスマホ向けチップセット、パソコン向け、サーバー向けCPUが増加しているため、それに付属するDRAMとNANDも増加が予想されます。また、データセンター投資が活発になっていますが、ストレージとしてSSD(NANDを組み合わせた記録媒体)が伸びているもようです。これもNANDの出荷増加につながると思われます。そのため、2021年8月期は好業績が予想されます。
これまで減少してきた設備投資も、業績の拡大に合わせて増加が予想されます。
なお、欧米の主要半導体デバイスメーカー、半導体製造装置メーカーの決算発表スケジュールは以下の通りです(現時点で決算発表日が判明しているもののみ)。
ASML 7月15日(水)
TSMC 7月16日(木)
インテル 7月23日(木)
アドバンスト・マイクロ・デバイシス(AMD) 7月28日(火)
ラムリサーチ(2020年6月期) 7月29日(水)
アプライド・マテリアルズ(2020年10月期3Q) 8月13日(木)
表3 マイクロン・テクノロジーの業績
グラフ3 マイクロン・テクノロジーの売上高と営業利益
グラフ4 マイクロン・テクノロジーの設備投資:四半期ベース
4.メモリ大口価格は堅調な動きが続く
DRAM、NANDの大口価格は横ばいが続いています。DRAMは、今年3月上旬に大底入れし、上昇に転じた後横ばいになりました。NANDは昨年8月に大底入れした後上昇に転じましたが、小幅上昇した後これも横ばいになっています。5Gスマホ、高性能パソコン、高性能サーバー向けにメモリ需要は増えていますが、メモリ向け設備投資がNAND向けから増加しているため生産数量も増えており、市況は横ばいです。
また、DRAMのスポット価格は、今年3月が直近のピークとなってその後下落しています。新型コロナウイルス禍の影響でスマホ市場全体が盛り上がらないことを反映していると思われます。ただし、これまで見てきたように、ロジック、メモリ合わせて先端半導体の需要のけん引役が、5Gスマホから高性能パソコン、高性能サーバーへと広がっています。この3分野の需要増加がDRAMスポット価格が近い将来上昇に転じ、更にDRAM、NANDの大口価格が上昇に転じる要因になるかもしれません。引き続きメモリ市況に注目したいと思います。
グラフ5 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
グラフ6 DRAMの市況
グラフ7 DRAMのスポット市況
5.半導体設備投資の動き
日本製半導体製造装置販売高は、新年度に入って順調に伸びています。4月の前年比16.4%増に続き、5月も同16.1%増となりました。アメリカ製も同じく17.2%増、13.1%増となりました。2020年暦年の半導体設備投資は、2019年に伸びた先端ロジック半導体向けの堅調が予想されます。それに加えて、2019年10-12月期から回復したNAND向け設備投資が持続し、これまで手控えられていたDRAM向けの設備投資が再開すると予想されます。2020年の半導体製造装置販売高は、日本製、北米製ともに、順調な伸びが続くと思われます。
7月に入ると、TSMC、インテル、サムスンの2020年12月期2Q(2020年4-6月期)決算が順次発表される予定です。2020年1-3月期、4-6月期の業績と設備投資の実績次第では、2020年12月期通期の設備投資計画が上方修正される可能性があります。その意味でこの3社の決算は、半導体設備投資の先行きを予想する上で注目度の高い決算となると思われます。
2021年になると、5ナノの増強投資と3ナノの初期投資が出てくる可能性があります。またメモリ投資は、このままデータセンター投資が続き、5Gスマホが本格的に売れ出すならば、2020年以上に活発になると思われます。そのため、2020年に続き2021年も半導体設備投資は順調な伸びが期待できると思われます。
表4 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)
表5 大手半導体メーカーの設備投資
6.注目銘柄
今回の注目銘柄は、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコの4社です。今後6~12カ月間の目標株価は以下の通りです(各社とも前回の目標株価を維持します)。4社とも引き続き投資妙味を感じます。
東京エレクトロン 34,000円
アドバンテスト 8,000円
レーザーテック 13,000円
ディスコ 32,000円
東京エレクトロン
6月18日付けで東京エレクトロンは2021年3月期業績予想を公表しました。それによれば、今期は前期に続きロジック半導体向け設備投資が堅調で、メモリ向け投資が前下期から回復したNAND向けに続きDRAM向けでも回復する見通しです(詳細は2020年6月26日付け楽天証券投資WEEKLYを参照)。
アドバンテスト
前工程が実際に東京エレクトロンの予想通りに増強されるならば、半導体生産の増加に伴って、後工程でも今期はSoCテスタ(非メモリ・テスタ)受注高が高水準を維持し、前期からのメモリ・テスタの伸びが続く可能性があります。今1Qのテスタ受注に注目したいと思います(ちなみに、アドバンテストの予想では、今1Qの全社受注高は前4Qから一時的に落ち込むことになります)。
また、アドバンテストについては、「システムレベルテスト」の伸びも注目点です。2020年3月期のアドバンテストのセグメントの「サービス他」に新規事業であるシステムレベルテストが含まれています。「サービス他」の受注高は2019年3月期307億円から2020年3月期591億円へ、売上高は同じく315億円から425億円へ大きく増えました。増えた要因の一つがシステムレベルテストです。
このシステムレベルテストは、ロジック、メモリの半導体単品の検査、半導体を基板に組み込んだ完成品の検査に続く、第3の新しいテスト市場であり、複数の半導体の組み合わせ検査を行うものです。スマートフォンなど各種電子機器の内部が複雑を極めるものになってきたため、急成長している分野です。2021年3月期の業績への寄与が期待されます。
ディスコ
2020年3月は受注が急増しましたが、足元のダイサ(回路を描き込んだシリコンウェハを四角いチップに切り出す)、グラインダ(シリコンウェハの底面を削る)の受注、引き合い動向は思わしくないもようです。経済動向に敏感な台湾、中国などのOSAT(後工程専門業者)からの引き合いに勢いがないようです。ただし、今下期になって先端ロジックだけでなく、メモリ生産動向に今よりも上向きの変化があれば、ダイサ、グラインダの需要にもポジティブな変化が期待できると思われます。
レーザーテック
レーザーテックの注目点は、8月5日に予定されている2020年6月期決算発表で公表されるであろう2021年6月期会社予想がどのようなものになるのか(業績と受注見通し)と、2020年6月期4Q(2020年4-6月期)の受注実績です(会社予想に対して追加受注があったのかどうか)。受注の勢いと水準が重要なポイントになります。
また、7月15日に公表される予定のASMLの2020年12月期2Q決算も重要です。EUV露光装置の受注、出荷の動きは、レーザーテックのEUV用マスク欠陥検査装置の受注、出荷見通しに影響を与えると思われます。
なお、本稿の末尾に2019年の各製造装置の企業ごとの市場シェアを付けました。
日本の主な半導体関連企業の2020年3月期1Q決算発表予定は以下の通りです。
ディスコ 7月21日(火)
東京エレクトロン 7月28日(火)
信越化学工業 7月28日(火)
SCREENホールディングス 7月29日(水)
アドバンテスト 7月30日(木)
レーザーテック(2020年6月期) 8月5日(水)
SUMCO(2020年12月期2Q) 8月6日(木)
各社業績表
表6 東京エレクトロンの業績
表7 アドバンテストの業績
表8 ディスコの業績
表9 レーザーテックの業績
表10 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2019年)
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、ディスコ(6146)
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