新型コロナウイルスの影響による今年2~3月の市場調整は、投資信託にも明暗をもたらしました。

 まず「明」の資産だった国内株式、米国株式、先進国債券は、3月の下落後すぐに持ち直したのに対し、「暗」となった新興国の株式と債券、国内外のREIT(リート:不動産投資信託)は相対的に戻りが鈍く、投資信託の運用にも影響が出ています。

同じ新興国でも株と債券に違い

 しかし、「暗」の資産だからといって、投資妙味がないかというと決してそんなことはありません。

 例えば、新興国株式は、短期で見ると株価の変動が大きくリスクも高いですが、経済が成熟した先進国と比べると成長の余地が残されています。長い目で見れば、経済成長にともなって株価も上昇していくという希望を持つことができます。

 本当に注意すべきは、新興国の債券です。

 国の信用力が低い新興国の債券は一般的に金利が高く、この金利の高さが大きな魅力となって投資家の関心を引き付けてきました。特に、2000年代後半の世界的な金融危機の後、日米欧の先進国が政策金利をゼロ近辺まで引き下げた中、ブラジルに代表される新興国は10%前後の高い金利水準を維持していたため、投資先としての魅力が際立っていました。投資信託の世界では、主に毎月分配型の分配原資として、金利の高い新興国債券や新興国通貨が用いられ、ファンドによっては、毎月200円から300円という高い分配を実現していたのです。

かつての人気ファンドも苦境に

 しかし、そんな「超高分配」も今は昔。もともと財政基盤の弱かった新興国各国は、今回のコロナ・ショックで大幅な政策金利の引き下げを余儀なくされました。金利が低下すると、その通貨の魅力が低減するため、資金が流出し通貨も下落する…という悪循環に陥ってしまうのです。直近では、6月17日にブラジルが史上最低水準となる2.25%まで金利を引き下げました。さらに、ブラジルレアルは、対円で見ると、過去1年間で約25%下落しています。

 結果として、高い金利を味方に高分配を実現してきた新興国債券や新興国通貨の毎月分配型ファンドは、その多くが分配金を引き下げたり、元本を取り崩しながら分配したりという事態に見舞われています。新興国の中でも、投資信託への影響範囲が大きかったのが、ブラジルレアルです。

なぜ注意が必要なのか?分配金が出る仕組み

 では、ここで改めて、投資信託の分配金の仕組みについておさらいをしておきましょう。

 預貯金の利息が元金とは別々に管理されているのに対し、投資信託の分配金は決算を迎えるまでファンドの資産と一緒に運用されています。決算日にこの運用資産の一部を切り出す形で分配金が支払われるため、決算の直後は資産価値が減り、基準価額も低下します。つまり、分配金の支払いは、基準価額の低下要因となるのです。

新興国債券は挽回が難しくなる可能性

 この仕組みから、ブラジルに代表される新興国の債券と通貨が軒並み弱含む中、今もなお毎月の分配を継続しているファンドの中には、運用開始当初1万円あった基準価額が数百円台まで低下しているものもあります。ここまで基準価額が大きく毀損(きそん)し、ファンドそのものが「弱体化」してしまうと、今後どれだけ新興国市場が回復したとしても基準価額の挽回は難しくなります。満期償還を待たずに繰上償還される可能性もあり、注意が必要です。

REITの影響は限定的だが急落リスクも

 他方、新興国債券と同じように毎月分配型が多いREITは、不動産の賃料収入という安定したキャッシュフローが見込める資産のため、新興国債券・通貨を組み入れたファンドと比べると、影響は限定的です。ただし、REITに投資するファンドも、基準価額の変動幅の大きさには十分に注意する必要があります。

 投資信託の世界ではメジャーなREITですが、株式や債券と比べると市場規模は小さく、今回のコロナ・ショックのような事態が起こると、世界中の投資家が一気に資金を引き揚げて急落することがあります。

分配金はこう決まる

「暗」の資産は付き合い方を慎重に

 以上見てきたように、「暗」の資産はそもそも短期の価格変動が大きく、相対的なリスクが高いという点には今一度留意する必要があります。原則は、積み立て投資などで時間を味方につけること。分配金のような定期的なキャッシュフローを望む場合は、身の丈にあった分配を実現できているファンドを選ぶことが大切です。

≫≫「コロナ・ショック後の明暗(1)変動相場で見える投信の勘所」を読む

時間を味方に投資するために

≫≫ 今こそ再考したい毎月分配型ファンドの賢い選び方