社会人になってすぐ投資を始め、33歳の若さで1億円の資産を築いた井上はじめさんのインタビュー、中編をお届けします。前回、世界経済の成長に連動するインデックスファンドに投資する理由について聞きましたが、中編では実際にどのくらいの金額を積み立て、どのように増やしていったのかを伺いました。

無駄なお金は使わず、1円でも多く投資に回す

──社会人1年目の夏に積み立てを始めたとのことですが、最初はどれくらい積み立てていたのですか。

 月10万円です。

──え、毎月10万円? 新入社員の給与を考えると、かなりの金額ですよね。

 前回、話したように世界経済の成長に連動する金融商品であれば、将来、間違いなく増えると考えていました。だとしたら、投資金額は多いほうがいい。毎月1万円、年間12万円の積み立てだと、仮に2倍になっても12万円しか増えません。でも、毎月10万円積み立てたら、120万円のプラスになります。多分ですが、アメリカとか中国とか東南アジアとかに絞っていたら毎月10万円の全力積立はできなかったかもしれません。でもそもそも世界に分散しているのだから、絶対にどこかが成長するはず。だから全力の積立額で投資することができました。

──普通の人は給与から生活費を抜いたら5万円余った。それを全部積み立てると生活に余裕がなくなるから2万円積み立てよう、などと考えると思うんですが…?

 普通はそうかもしれませんね(笑)。もちろん、残った3万円でおいしいものを食べたり、好きなブランドを買ったりするのも楽しいのですが、僕は当時、「億万長者になりたい」と本気で考えていました。だから、必要なお金以外はすべて世界経済に預けようと思ったんです。本気でお金を貯めようとするなら、そのくらいの覚悟が必要でしょう。

──だからこそ、1億円を達成できたんですね。

 はい。もし当時、月2、3万円しか積み立てていなかったら、たぶん1,000万円にも届かなかったかも。毎月10万円積み立てていたから、数年後にまとまったお金ができ、それを元手にさらに増やすことができたわけです。

──節約もしていたのですか?

 通信費や水道光熱費などの固定費は、徹底的に調べて最も割安なものを選ぶとか、日々の買い物はキャッシュレスにしてポイントを貯めるとか、いろいろ工夫していました。ランチ代を浮かせるため、自分で弁当を持参したり。これらは今も続けています。できるだけ無駄なお金は使わず、1円でも多く積立額を増やすことが大事だと思います。

今も会社の冷蔵庫には井上さんが持参したパン一斤が置いてある。レタスやハムは毎日持参し、会社のトースターで美味しいホットサンドを作って食べている。同僚も、「パンも美味しそうだし、節約を本当に楽しんでいる様子が分かる」とほほえましく見守っているとか。

──そういえば井上さんは著書のなかで「自分は投資家ではなく、節約家だ」とおっしゃっていますね。

 僕は、投資や経済に詳しいわけではないですからね。投資信託の積み立てって、1度手続きすれば、あとは毎月決まった日に自動的に口座から引き落とされるので、専門的な知識はいらないんです。ある日突然、価格が2倍になるとか半分になるとか、そういうこともないので、毎日、基準価額(1口あたりの値段)をチェックしなければならないなんてこともありません。投資家らしいことは何もしてないので、投資家と言われると、照れくさいです(笑)。

──それに対して、節約するのは得意なんですね。

 はい。「投資」よりは得意です(笑)。

積み立て5年で、元手が約3倍に!

──毎月10万円積み立てれば、1年後に元本は120万円になりますよね。初年度はどのくらい増やすことができたのですか。

 いえ、それがマイナスだったんです。

──え! そうなんですか?

 僕が積み立てを始めたのが2007年8月だったと言うと、お分かりの方もいるかもしれませんが、ちょうど米国サブプライム問題が発覚した時期だったんです。翌年、リーマン・ショックが起き、世界同時不況が訪れました。それで、僕が積み立てていたファンドも一気に値が落ちてしまい…。

──うーん、残念ですね。どれくらいマイナスになったんですか?

 世界的な株安は5年近く続きましたから、一時は150万円くらいマイナスになりました。トータル700万円ほど積み立てたとき、評価額は550万円ほどでしたから。もちろん、含み損であって、実質的に損をしたわけではありませんが。

──投資なんてやめておけばよかった…とは思いませんでした?

 それはなかったですね。最初に言ったように、不況に見舞われたとしても、「世界の人口は増え続けているのだから、このまま下がり続けることはあり得ない、いずれ回復に向かう」と確信していましたし。逆に、リーマン・ショックで大きく下落した反動で、一気に上昇する可能性もあると思っていました。

不況時=安く買えるチャンス!と井上さん。リーマン・ショックの経験から「XXショック」を恐れる必要はない、と確信を深めたという。

──なるほど。

 それに「値が下がったのは、かえって幸運だったかもしれない」という思いもあったんですね。1口あたりの値段が下がれば、同じ10万円でより多く買えますよね。1口1万円だったら10口しか買えませんが、8,000円に下がれば12.5口買えます。後で基準価額が上がれば、不況のタイミングで安くたくさん買えた分、多く利益を得られるわけです。むしろ積立投資って値下がりした時にたくさん購入できるので、長期的にみたら不景気はウエルカムなんです。    

──不況が続いた5年間、安く買えたという解釈ですね。

 はい、5年にわたってバーゲンセールのような値段で買うことができました。

──ということは、リーマン・ショックから回復し、値が上がったときにはかなりの利益を得られたわけですね。

 2012年後半から株高となり、僕が保有しているファンドもあっという間に値上がりしました。結果、2013年末には評価額が2,200万円まで跳ね上がったんです! その時点の積み立て額はトータル800万円でしたから、1,400万円プラスです。すごいでしょう(笑)。

──スゴイ! 1年程度で一気に大幅プラスになったわけですね。

 はい、値が下がっても積み立てを続けたかいがありました。

デイトレードは苦痛でしかなかった

──井上さんは2012年末に交通事故に遭っていますよね。

 会社からの帰り、駅から自転車で家に向かう途中、70㎞のスピードで走ってきた自動車にはねられ、2カ月間入院しました。保有していたファンドの値が上がり始めたときは病院にいたわけです。

──その経験はその後の人生に影響を与えましたか?

 それはそうですね。退院後もしばらく自宅療養していたのですが、後遺症が残る可能性があったため、いろいろ将来について考えました。これまでと同じように会社員生活を送ることができるのだろうか、いったい僕の人生はどうなってしまうのだろうかと。当時、結婚したばかりで、妻が励ましてくれたので救われましたが。

──考えた結論は?

 この先、これまで通り働き続けられるかどうか自信もなくなったため、会社に頼らず、生きていく方法はないだろうかと考えました。デイトレードに挑戦したんです。

──結果はどうでしたか?

 月々の積み立てとは別に、ボーナスの蓄えがあったので、そのなかの100万円を元手に始めたのですが、最初は絶好調で、4カ月で2倍に増やすことができました。

──おお! やっぱり投資のセンスがあるのでは?

 僕もそう思いました。自分は天才かもしれないって(笑)。でも、ぜんぜん違いましたよ。その後、何をやってもうまくいかなくなり、わずか3週間で100万円の稼ぎがすべてなくなってしまいました。

──甘くはなかったわけですね。

 そうですね。デイトレードはチャートの形状から値動きを分析できる能力に長けている人に向いていると思います。トライ&エラーを何度も繰り返し、このタイミングで購入、このタイミングで売却というのを実践できる能力を持つ人でないと難しいでしょう。僕には無理だと思い、すぐに撤退しました。

──でも、5カ月では向いているかどうかわからないのでは?

 それはそうなんですけど、何というか、まったく楽しくなかったんですよ。むしろ、毎日朝9時に市場が開いてから15時に閉まるまで、ずっと板やチャートを監視しているのが、苦痛以外の何物でもなかった。その意味でも続けられないと思いました。

──たしかに自分が楽しいと思えるかどうかは大事ですよね。では、次回はもう1度、投資信託の積み立ての話に戻って、お伺いします。

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