“金価格上昇要因製造機”の異名は、トランプ氏からFRB議長のパウエル氏へ

 以前の「金価格上昇どこまで?トランプという「有事製造機」は大統領選までノンストップ?」 で、トランプ大統領起因の複数の、金価格を押し上げる要因が発生していると、述べました。

 上記のレポートは2019年8月半ばに書いたものでしたが、当時の金価格は、NYの先物市場で1,450ドル近辺、東京の先物市場で5,000円近辺でした。足元の金価格は、NY市場は1,700ドル近辺、東京市場は6,000円近辺ですので、あれから国内外の金価格は20%近く、上昇したわけです。

図:NY金と東京金の価格推移(中心限月、月足、終値)

出所:各種情報源より筆者作成

 当時のトランプ米大統領は、「武力衝突の種をまく」、「米中貿易戦争を発生・悪化させる」、「米金融緩和の実施・強化のために当局に圧力をかける」などを行っていました。このことがきっかけで、「有事のムードが強まる」「中央銀行の金保有高が増加する」、「代替資産に注目が集まる」「代替通貨に注目が集まる」という、4つの金価格を押し上げる要因が発生していたと考えられます。

図:トランプ大統領をきっかけとした複数の金相場を押し上げる要因(2019年後半)

出所:筆者作成

 まさに、一人で複数の金価格を押し上げる要因を生み出すトランプ大統領は“金価格上昇要因製造機”と言えたわけです。

 しかし、足元の金相場の状況から、この“金価格上昇要因製造機”の異名は、別の人物に引き継がれた、と筆者は考えています。その人物とは、FRB(米連邦準備制度理事会 米国の中央銀行にあたる)の議長をつとめるパウエル氏です。

 パウエル議長が2020年6月10日(水)の会見で述べた内容には、複数の金価格を押し上げる要素が盛り込まれていました。

 会見で発言した内容にあった「2021年末までゼロ金利を継続」と「米国債などの資産の保有、数カ月は少なくとも現行ペースで拡大」という点は、「有事のムードが強まる」「中央銀行の金保有高が増加する」、「代替資産に注目が集まる」「代替通貨に注目が集まる」という4つの金価格を上昇させる要因を発生させた、と考えられます。

図:パウエル議長をきっかけとした複数の金相場を押し上げる要因(2020年半ば)

出所:筆者作成

「2021年末までゼロ金利を維持」することで、市中の金利水準が低下し、「個人や企業が資金調達をしやすくなり」、経済が活性化し、景気が回復する期待が高まり株高、それが、代替資産の側面から金相場に下落圧力となる点は、パウエル議長が作った金相場の下落要因と言えます。

 とはいえ、全体的には、上昇要因が多く、多少の株高が発生しても、複数の上昇要因に相殺され、金価格は上昇する可能性があります(株高・金高が起こる)。

 トランプ大統領(2019年後半)とパウエル議長(2020年半ば)が“金価格上昇要因製造機”と考えられるのは、彼らが上記のような流れを作ったためです。

新旧両“金価格上昇要因製造機”が今後も金価格を押し上げる要因に

 今後の展開を考えるとき、“旧”金価格上昇要因製造機が、引き続き、上昇要因を製造し続けるのか、がポイントです。

 トランプ大統領の支持母体でもあるキリスト教福音派の要人が、トランプ氏を非難し始めていることからもわかるとおり、新型コロナウイルスの感染拡大や、黒人殺害事件後のトランプ大統領の行動・言動は、非常に攻撃的になっています。

 あえて敵を作り、誰かを、あるいは何かを攻撃する行為は、それを見ている“一部の”同調する人々の心に火をつけることがあります。さまざまな人・物を攻撃するトランプ大統領は“一部の”人々からの支持(というよりは忠誠)を強固なものにしていると、筆者は感じます。

 このような支持層は“岩盤層”とも言われます。このような、“忠誠のような支持”を何が起きても壊れない強固なものにしながら、秋の公開討論会でのバイデン氏との一騎打ち、そして11月3日(火)の選挙に向かっていく、と考えられます。(公開討論会や選挙の日程は現時点の予定)

 忠誠のような支持を強固なものにするために、トランプ氏の行動・言動は、今後さらに過激になる可能性があります。この場合、“有事のムード”の側面から、金価格の上昇要因が生まれます。その意味では、“旧”金価格上昇要因製造機も、引き続き、上昇要因を提供し続ける可能性があります。

コロナ禍で急速に浸透し始めたESGは、長期的視点で銀相場を変える一大要因に

 次のレポート「金銀上昇!その他はふるわず【ジャンル横断・騰落率ランキング】」で書いたとおり、先週、さまざまなジャンルのさまざまな銘柄が下落した中、銀の上昇が目立ちました。また、最近一カ月間では、銀の上昇率が金の上昇率を上回っています。

 足元、銀価格の上昇が目立っていることについて、コロナ禍(コロナか)と関りがあると、筆者は考えています。

 コロナ禍がきっかけで、社会に急速に*ESGという考え方が浸透してきていることにより、今後、銀相場は、一時的な急騰ではなく、長期的でゆっくりとした、上昇トレンドに入る可能性があると、筆者は考えています。

*ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)のこと

 世界中で、在宅勤務が急速に普及したり、自分や周囲の体調を意識するムードが急速に強まったり、医療従事者を称える声を各地で耳にするようになりました。コロナ拡大前に比べれば、社会が大きく変化したことは、誰の目にも明らかです。

 そして、この変化がきっかけで、紙や印鑑を用いた慣例的な作業をなくそう、無駄な残業をなくそう、など、コロナ禍が起きる前から起きていた、ペーパーレス化や働き方改革が、急速に、進み始めました。

 なかなか改善されなかった、紙や残業を是とする古い慣習が、ようやく変わり始めたのです。これは、非常に大きな社会変革です。ある意味、世界全体でほぼ同時に革命が起きたと言ってもよいと思います。

 この革命の根幹にあるのは、Social(社会)から、無駄を取り除いたり、社会に貢献する人、モノ、考え方を是としたりする思想です。

 そして、Socialが重視されるようになると、今度は、そのSocialを取り巻くEnvironment(環境)がクリーンであることが重視され、SocialとEnvironmentが重視されると、それを推進するGovernance(企業統治)が、重視されるようになります。

 もともと、近年、Environment、Social、Governance、の頭文字をならべた“ESG”という考え方は、企業が行う経済活動が、環境、社会、企業統治の各テーマを、良い方向に導こうとしているかを計る、ものさしとして重要視されてきました。

 しばしば耳にする“ESG投資”とは、企業への投資の際、その企業がESGを良い方向に導こうとしているかどうかを、投資をする上での判断基準とする、という考え方です。この考え方では、ESGを重視する企業は、長期的な成長が期待できる企業、ということになります。

 無駄を取り除いたり、社会に貢献する人、モノ、考え方を是としたりする革命をもたらしたコロナ禍は、ESGの重要性を、世界に再確認させた、と言えると思います。実は、“ESG”と、銀は、再生可能エネルギーというテーマで接点があります。

再生可能エネルギーの重要な要素“太陽光発電”と銀は、接点がある

 太陽光発電は、ESGのなかでも特に、E(環境)とS(社会)に貢献する“再生可能エネルギー”を推進する、非常に重要なテーマです。ESGの考え方が浸透すればするほど、太陽光発電が、そしてその太陽光発電の電極部分に用いられる“銀”が、今後さらに注目される可能性が出てきます。

 先月、貴金属の需給を調査している世界的な機関であるTHE SILVER INSTITUTEが公表した、世界の銀の需給統計によれば、2019年の、太陽光発電向けの銀の需要は、2014年比でおよそ2倍になりました。

図:太陽光発電向けの銀需要 単位:トン

出所:THE SILVER INSTITUTEのデータをもとに筆者作成

 太陽光発電向けの銀の需要は、2019年時点で、銀需要全体の9.9%です。2014年は4.7%でした。

 もともと、太陽光発電向けの銀の需要は増加傾向にありましたが、そこにコロナ禍が、ESGの重要性を世界に再認識させたことにより、銀需要が、今後さらに長期的視点で、増加する可能性が高まったと、言えると思います。

 コロナ禍で起きている銀価格の上昇は、このような可能性が生じたことが一因になっていると、考えられます。

コロナ禍でESGが浸透し、銀を取り巻く常識が変わりつつある

 銀の価格推移に関し、以下のように述べられることがありますが、近い将来、これらが銀価格の傾向を示すものとして、そぐわなくなる可能性があると、筆者は考えています。コロナ禍がきっかけでESGの考え方が本格的に浸透し、太陽光発電向けの需要拡大が、今後も、長期的に増加する可能性があるためです。

  1. 少数の誰かが買い占めると、価格が急騰することがある。(ハント兄弟の買い占め騒動のような事象)→太陽光発電向けの需要が拡大すれば、銀市場は社会的により重要なインフラとなり、これまでのような“投機の場”、という色合いは薄くなる可能性がある。
  2. 写真フィルムの感光材向け需要が、デジタルカメラとスマートフォンの急速な普及によって急減して価格が上昇しなくなった。→先述の図のとおり、写真フィルム用の需要は減少しているが、太陽光発電向けのように増加している需要もある。減少ばかりではない。
  3. 歴史的に通貨の側面を持つため、価格の推移が、同じく通貨の側面を持つ金(ゴールド)と似ている。ESG、太陽光発電、というこれまであまり目立たなかったテーマが、コロナ禍で目立つようになってきた。これまでと異なる市場環境になってきているため、過去の値動きの傾向を、これまでも同じように当てはめることが難しくなると考えられる。

 銀が持つESGとの接点の強さは、金や、プラチナ、パラジウムは、おそらく持ち合わせていないと思います。他の貴金属にない、社会が是とする接点だからこそ、銀の魅力が際立つわけです。

 銀を長期投資の対象と考える際、銀が、強くて長期的な時間軸の独自材料を持っていることを認識することは、重要だと思います。

 過去の急騰急落に目が行きがちになりますが、そうではなく、コロナ禍、ESG、太陽光発電などの、長期的な視点に立ったキーワードを意識することが重要であると、筆者は考えています。

図:NY銀先物価格(中心限月、月足、終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:各種情報源より筆者作成

[参考]具体的な貴金属関連の投資商品

種類 コード/ティッカー 銘柄
純金積立   金(プラチナ、銀もあり)
国内ETF/ETN 1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託   ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
  ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
  ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
  三菱UFJ純金ファンド
外国株 ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV Franco-Nevada:フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物   金、ミニ金、ゴールド100(プラチナ、銀、パラジウムもあり)
海外商品先物   金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)
出所:筆者作成