株式投資の手法に、成長株(グロース株)投資割安株(バリュー株)投資の2つがある。

 成長株とは、毎年、売上高や利益が伸びて会社が大きくなり、株価もどんどん上昇するタイプ。「夢に賭けて大きくもうけたい」投資家がねらう。

 これに対し、割安株は、業績が安定していて利益も着実に出しているものの、その実力より株価が安い株。「配当利回りも高いし、悪くない株だから、気長に株価上昇を待とう」といった「オトク感」を求める投資家に人気だ。

 そこで、楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之が、成長株でありながら割安株でもある株の魅力と、銘柄探しのワザを、投資初心者に分かりやすくお伝えする。

割安株?成長株?それっておいしいの?

 投資初心者にとっては、成長株、割安株といっても具体的なイメージが湧きにくいもの。25年間にわたってファンドマネージャーを務め、さまざまな成長株、割安株にも投資してきた窪田。典型的な割安株として、たばこメーカー・JT(2914)の名前を真っ先に挙げた。

「トウシルでJT株を取り上げると『喫煙者がどんどん減っているのに大丈夫ですか?』と質問されます。でも喫煙者が減った分、たばこの価格を値上げしているので、営業利益率は実に前期(2019年12月期)も23%と収益力は力強いものがあります。ただ、海外たばこ事業が円高で不振だったため、11%の減益になりましたが、それでも前期は1株あたり4円も増配(配当金を増やすこと)しました。たばこ産業はほとんど独占企業で競争相手が少なく、財務内容が非常にいいからこそ、減益でも増配できる。にもかかわらず株価の下落が続いています。つまり投資家に嫌われている、これも割安株の立派な条件の一つなんですよ」(窪田)

 一方、成長株の典型例は、コロナ・ショックにもかかわらず株価が上場来高値を更新している工具通販のMonotaRO(3064)という。

「成長株は、一言でいうと投資家を興奮させている株です。前期(2019年12月期)MonotaROは年率20%増収、15%増益と高成長が続き、製造現場向けネット通販が今後もますます伸びるという夢や希望をかき立てます。なのです」(窪田)

 その半面、成長株は期待を少しでも裏切るような業績鈍化などがあると株価が急落しやすい。

「会社が成長を続けるには、1.市場の成長性が高い、2.市場シェアが高い、3.参入障壁が高いという3つの条件を満たしていることが必要です。たとえば、オリエンタルランド(4661)が運営している東京ディズニーリゾートは、コロナ・ショック前までは、海外からの観光客の増加もあってテーマパークとしての成長性は抜群。ライバルは大阪のUSJぐらいなので市場シェアでも圧倒、新たに巨大テーマパークを作るのは並大抵ではなく参入障壁も高いため、見事に3条件を満たしていました。でも、3つの条件のどれか一つでも崩れると株価が急落してしまう。コロナ・ショックで観光ブームに影が差したことは心配です。それが成長株投資の怖さです」(窪田)

成長株かつ割安株の「欲張りな」探し方

 とはいえ、株価急上昇に期待できる成長株で、株価の急落リスクの少ない割安株、しかも配当利回り(株価に対して、年間でいくら配当を受けられるか示す数値)が高い株はないのだろうか。 

「コロナ・ショックで株式相場が下落したこともあって、成長株でありながら、かつ割安株でもある、といった銘柄が、実はいま増えているんですよ」(窪田)

 そして見せたのは、成長株の株価がどのような時期を経て、どう値動きするかを示した下図。

成長株のライフサイクル

 成長株には、利益も上がっていないのに期待先行で株価が乱高下する黎明期、2ケタ台の増収増益が続き、投資家の興奮も株価もピークに達する急成長期、最高益更新は続くものの増益率が鈍化する成熟期という、3つのステップを経て、オトナの株になっていくという窪田。

「図を見ても分かるように、どんな成長株にも、一時的に業績の伸びが鈍化して株価が下落する時期があります。『もう、あの株終わったよ~』『今さら、誰が買うの?』と、あれだけ興奮していた投資家がそっぽを向いたとき、その企業のさらなる成長を信じて買えるかどうか? ある意味、健全なひねくれ者になれるかどうかが、成長株かつ割安株の『おいしいとこ取り』に成功するコツです」(窪田)

 成長が鈍化して成熟期に入った企業の中には、毎年のようにジワジワと最高益を更新しながら、株価を毎年の1株あたり利益で割って割安度を測る指標「PER(株価収益率)」が10倍前後の割安銘柄も多数あります。そんな少しずつでも着実に伸びるチョビチョビ成長株の中には、成長株であって、かつ割安な、一石二鳥投資ができるものもある、というのが窪田の見方だ。

成長株かつ割安株の具体的な銘柄とは?

 窪田の言うチョビチョビ成長株はすでに急成長期は終わったものの、地味に最高益更新を続けていて配当利回りなども高い銘柄のこと。

「例えば、優待株としても人気の高いKDDI(9433)などは今も最高益更新が続き、成長株の条件は満たしています。しかし、携帯事業の急成長期が終わった、という評価で2015年以降、株価が横ばいで推移。PER11倍、配当利回りも3.6%超と、割安株としてもお買い得な株価水準になっています。さらに、今後は『auWALLET』や『auPAY』などスマホを使ったライフデザイン事業が新たな成長分野になりそう。過去に急成長分野だった携帯事業で安定高収益を続けつつ、新たな成長分野に期待が持てる銘柄といえるでしょう」(窪田)

 他にも、時間貸し駐車場のパーク24(4666)は、都心の空きスペース活用ニーズを取り込んだ貸し駐車場ビジネスをいち早く展開し、2016年頃までは、押しも押されもせぬ成長株だった。しかし、その後はライバル会社の参入や成長鈍化が嫌われて株価が急落。近年はカーシェアリング事業が次なる成長分野として期待されているものの、配当利回りが4.1%に達するほどの割安株に。

「しかし、安定した収益が見込める駐車場事業に加えて、先行投資の成果で軌道に乗りつつあるカーシェア事業の成長性を考えると、コロナ・ショックの影響で株価が急落した今はとても投資価値が高いと判断しています」と言う窪田。

 つまり、チョビチョビ成長株が何かの拍子にガクっと株価が下がって割安になったときが狙い目ということだ。

「景気循環や成長のための投資で業績が上下動する循環的成長株も魅力ですね。モーター事業で世界屈指の日本電産(6594)やゲームや半導体事業が好調なソニー(6758)などがそうです。成長株というのはいったん急落して、『今さら、あんな株を買うなんてバカじゃないの?』というときじゃないと、高くて買えないもの。今回のコロナ・ショックのように全体相場が急落したときはある意味、チャンスと私は考えています」と、相場局面での成長+割安株戦略についてアドバイスした。

※本記事は2020年5月22日現在の株価情報などによるものです。

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