東大の新旧対談の後編。今回は投資の本質や基本のポートフォリオの考え方について意見を聞きました。

>>前編:悪材料のときこそ買い場?銘柄選びの考え方

長期投資の本質はリスクプレミアムのコレクション

――前回の宿題となった「リスクプレミアムをコレクションしていく感じ」について、教えてください。

後輩に教鞭をとる山崎元

山崎 リスクを取って長期投資することの本質は、「リスクプレミアム」を長期にわたってコレクションすることで、運用とは「リスクプレミアムをどうやって効率的に集めていくか」という作業です(下図参照)。

 ところが、多くの投資家はアクティブリターンの部分で勝負しがち(下図参照)だよね。ここで売買するのは面白いから。でも、ここだけを見て売買をすると勝つか負けるかという博打的な投資になってしまうので、リスクプレミアムをコレクションしながら勝負する形の方がいい。

<リスクプレミアムのコレクション>

吉田 リスクプレミアムはどれくらいを想定できますか。

山崎 諸説あるのだけれど、だいたい5%くらい。資金100万円に対して無リスク資産の金利がゼロなら5万円。小さいといえば小さいけれど、では100万円の資金で毎年50万円の利益を得ることができるかというと、それはほぼ不可能。でもできると思って失敗する人が後を絶たないんだよね。

――リスクプレミアムをコレクションするためのポートフォリオはどのように組めばいいのでしょう。

吉田 例えば、買いたい銘柄をリストアップして、その中の銘柄を組み合わせて「効率的フロンティア(同じリターンであればリスクが最も小さい、同じリスクであればリターンが最も大きい)」になるようにポートフォリオを構築するのがベストですか。

吉田さんの保有している株をチェック

山崎 この銘柄の組み合わせでは、どれくらいのリスクになるかということを考えるといい。ある程度、流動性があり、極端に株価が上下に振れない大型株(時価総額や流動性が高い会社の株)を3銘柄くらいでポートフォリオを組み、それを少しずつ、なるべく違う業種の銘柄で増やしていくイメージだね。

 例えば、ソニー1銘柄を持つより、一緒に三菱商事とJR東海と組み合わせて持つ方が、ポートフォリオの振れ幅は明らかに小さいことは想像できる。どの銘柄を組み合わせるのかという点については研究の余地があるね。

吉田 効率的なポートフォリオの組み方の理論は習っていたのですが、自分で株価のデータを取ってくるという部分のハードルが高くて……。

山崎 月次の株価が取れるサイトに行って、月次のリターンを計算して、ポートフォリオに組み込んだときに全体にどうなるかという計算をやろうと思えばできるけれど、手間がかかるな。でも、君たちで模擬ポートフォリオをつくって、代々引き継いで、成績を比較すると面白いと思う。「吉田1号」とか「西河2号」とか名前を付けてね。

リスク・リターンをを考えるときポートフォリオはかなり役立つ

東大生が投資をする目的

――みなさんが投資をする目的は何ですか。

吉田 お金をゆっくりもうけたいと思っているんです。理想としてはポートフォリオを寝かせておいて、10年後に起こしたらもうかっていたみたいな形がいい。

山崎 子どももお金も寝かせておくと育つよね。

――西河さんと大塚さんの投資の目的は?

西河 僕は、人間に興味があるし、資本主義にも興味があったので、その視点で、人間の集団である会社を知りたかった。会社に勤めて中から見るのも面白いけれど、全体を見るなら金融を通じたほうが分かりやすい。その延長線上に投資があるという感じです。

大塚 キャピタルゲインを得たいという気持ちはもちろんあるのですが、将来は起業したいと思っているので、投資を通じて財務指標的な視点で企業分析をしたり、市場や業界を知ったりできればいいなと思っています。ところで投資は、誰でもしたほうがいいですか?

山崎 今、いろいろなところから「投資をしないと老後は貧乏になる」という脅しが聞こえてくるけれど、脅して投資をさせるのは良くない。投資をしたくない人はしなくていいし、その代わり仕事に打ち込んで給料をたくさん稼ぐとか、無駄遣いをせずに計画的に使ってお金をためるとか、老後に貧乏にならないための手段はいろいろある。

 でも、適切な場所にお金を置いておけば(適切な投資をすれば)、お金が働いて稼いでくれる確率が高いと考えられるので、それにかける人はかけても(投資をしても)いいと思う。

投資をはじめて変化した世界

――今までの話を聞いていてふと思ったのですが、企業分析としてのファンダメンタルズと投資対象としてのファンダメンタルズは違うのですか。また、何か気がついたこと、得たことがありますか。

山崎 いい質問だね。大塚君、どう?

企業の分析で視野が広がった、と大塚さん

大塚 単純に投資の対象としてファンダメンタルズ分析をしている中で、これは企業分析にも役立つよね、と気づきつつある段階です。ある数字が気になって調べてみたら、「企業がもうかるってこういうことなんだ」と分かったこともありました。

また、投資を始めてから、世界の事象を表面的な印象ではなくて、深く考えられるようになりました。

西河 企業分析をしていくうちに、企業が借金をすることは悪くないことだと分かりました。無借金経営の企業が優良企業ともてはやされることがあるけれど、世界のトップクラスの企業の多くは、多額の有利子負債を抱えている。ソフトバンクも有利子負債が多いですよね。

 有利子の負債だから、借りたお金よりも(利息分)多く返済しないといけないので、資金調達の手段としては新しい株式を発行して市場から調達した方がいいかと思っていたのですが、勉強するうちに、株主が期待するリターンを出し続けることの方が企業としてはリスクが大きい、だったら利息を払ってでも借金をして資金調達をする方がいいと思うようになりました。

山崎 借金はすべて「悪い借金」ではなくて、使い道が十分に合理的で、借り入れる際の金利が低ければ「いい借金」と言える。

 例えば、高すぎない家を買うときに組む住宅ローンはいい借金。企業が設備投資をすればもうかるという見通しがあればいい借金。でも、カードローンでお金を借りて、15%もの金利を払うのは悪い借金だと思う。それを知ることができただけでも、違う世界を見ることができたといえるのかもしれない。

――投資クラブ活動を続けていく中で、これからいろいろな発見がありそうですね。では、山崎さんに聞いてみたいことはありますか。

大塚 投資と投機といいますが、投機をどう捉えていますか?

山崎 投機は、ゲームとして楽しむのならいいけれど、稼ぐための手段ではないと思うといい。投機に参加することは、人間の精神活動としては高度だと思うし、博打をやってみたけどうまくいかないときの心理は経験しておくべき。日本にカジノができたら、子どもが成人したときに連れて行こうと思っているんだ。ギャンブルはたしなむべきもの。

 私が楽天証券に勤めていなければ、遊びで株のデイトレやFXをやっていると思うけれど、今は立場上できないので、競馬をやっているわけ。この中で競馬をやる人は?

西河 競馬はゼロサム(一方が利益を得たら、もう一方は損をして、全体としてはプラスマイナスゼロになること)ですらないのでやりません。

――ゼロサムですらないって、どういうことですか。

 競馬好きな山崎元

山崎 競馬の控除率を25%とすると、1万円馬券を買うと2,500円の損が期待される。2,500円で映画を見るのと日本ダービーを見るのとではどちらが楽しい? 1日のレースで1万円の馬券を買うと、1カ月8回の開催で8万円を投じることになり、期待値として2万円の損になる。その金額が教養娯楽費として適切だろうか?

 さらに投じた8万円を全額すっても生活に支障がないか? 競馬はゼロサムですらないけれど、私は映画より日本ダービーのほうが楽しいし、2万円は教養娯楽費として適切だと思うし、8万円を失っても生活はできる。だから、1日1万円くらい馬券を買ってもいいと思っているのです。

今後、投資の世界はどうなるのか

西河 トレードの世界にAI(人工知能)が導入され始め、トレーダーが減っているといわれています。AIは投資家には脅威ですか。

山崎 AIは疲れることなく24時間ルール通りにトレードするし、ミスをすることもない。しかも速い。そのため、ポジションをとるトレーダーは減っています。でも個人投資家がAIの影響を受けるかというと、それは違う。

 AIは取引の流れのマイクロセコンドくらい前にいて、ちょこっともうけるという作業を延々と繰り返しているだけだから、もしかしたら個人投資家は何ベーシス(1ベーシスポイントは0.01%)かは損をするかもしれないけど、10年20年という長期投資の期間でいうと関係ないし、ポートフォリオを組んでリスクプレミアムを集めていくことに関しては変わることはないと思う。

 ただし、しょっちゅう売り買いをして利益を積み重ねていくプレースタイルのゲームプランはうまくいきにくくなるけどね。

――最後に、山崎さんから後輩たちへ投資のアドバイスをお願いします。

山崎 毎日のニュースを漠然と見るのと、ニュースが株価にどれくらいの影響を与えたかと考えながら見るのとでは、まったく違う。そこで、NYダウと日経平均と為替レートと長期金利くらいは毎日見て、なぜそうなったのかを考えて欲しい。

「日銀総裁があんな発言をしたから、金利が下がって、株価が下がって、円安になったんだ。次はどうなるんだろう。続けて上がることがあるかな、ないのかな」。そんなふうに考える習慣をつけると、ニュースを見ると自動的に脳に経済のスイッチが入るようになるので、ぜひ実践してください。

 それから学生という身分のうちは、人的投資から得るリターンが一番高いはずなので、自分に対する教育投資を一生懸命やって欲しい。一方で、「Agents」に参加して分かったと思うけれど、投資をするとお金が働いてくれるので、リスクプレミアムを長期間にわたって集める戦略で、将来のためのお金を作って欲しい。若いから、集める時間がたっぷりあるからね。

お話を聞かせてくれた投資サークルAgentsのメンバー