日経平均は2カ月で29%下落、リーマンショック級の暴落に

 1月半ばに始まったコロナショックで日経平均は、わずか2カ月で29%の暴落となりました。下落スピートの速さ、下落率の大きさにおいて、過去にあまり類のない暴落です。それでもまだ、暴落は終わっていません。ここからさらに大きく下落する可能性もあります。

 危機発生から始まった日経平均暴落で、コロナショックに似たものがないか、1987年以降で探しました。下落スピード、下落率ともコロナショックと同等の暴落だったのは、2008年のリーマンショックだけでした。

危機発生後の、日経平均の暴落局面を比較:危機発生から3カ月後まで

注:危機発生の1営業前の日経平均を100として指数化。コロナショックについて、株式市場での危機発生の起点は2020年1月14日とした。同時多発テロでは2001年9月10日、東日本大震災では2011年3月10日、ブラックマンデーでは1987年10月19日、リーマンショックでは2008年9月12日を、危機発生の起点(前営業日)とした。出所:楽天証券経済研究所が作成

 リーマンショックでは、危機発生から最安値まで日経平均は41%下落しました。それでは、今回のコロナショックでも、日経平均は最安値まで41%下がるのでしょうか?もしそうならば、日経平均は1万4,200円まで下落することになります。

 私はそこまで下がるとは考えていません。1万6,000円台で下げ止まると予想しています。今日は、そう考える理由を説明します。

 ただし、今回のコロナショックが、世界的な金融危機に発展する場合は、話は別です。その場合は、リーマンショックと同様に、4割安・1万4,000円台への下げもないとは言えません。
なお、今日のレポートは、昨日のレポートの続編です。昨日のレポ-トは、以下からお読みいただけます。
3月16日:コロナショックは、ブラックマンデー、リーマンショックに近似。日本株は「買い場」と判断(上)

株は、短期は需給で動く

 日本株は、配当利回りや買収価値から見て割安で、長期投資で良い買い場を迎えていると判断しています。日本株は割安と判断する根拠は、以下のレポートを参照ください。
3月11日:日本株は割安、長期投資で「買い場」と判断する理由

 ただし、割安だから、これ以上、大きく下がらないというわけではありません。株は、短期は需給で動くからです。短期的に売りの勢いが強ければ、配当利回りや買収価値からいくら割安でも無視され、売り込まれます。

 短期的に日経平均がどこまで下がるか、需給、つまり売り手と買い手の力関係から判断しなければなりません。

下がったために、売らなければならなくなった投資主体が先に動く

 日経平均の急落局面で、主要な売り手と買い手は、以下のタイプが多いと言えます。

◆売り手:下がったために、売らなければならなくなった投資主体
◆買い手:下がったことで、割安になったと判断して買いを入れる投資主体


 今回のように、相場の下落スピードが速い場合は、下がったために売らなければならなくなった主体が、先に動きます。割安になったから買ってみようという投資家は、ゆっくり後から動きます。その結果、下がったから売る主体が、一通り売り終わるまで、下げの勢いは続きます。それが、まさに今、起こっていることと考えています。

 下がったために売らなくてはならなくなる投資主体とは、具体的に何でしょう? 過去の下落局面を例にとって、説明します。

売るのはどんな投資主体?これまでの下落では?

日経平均推移:2014年末~2016年末

 

 上は、2015年から2016年に、1年かけて日経平均が大きく下がった時のチャートです。4回の急落局面を含み、トータルで高値から安値まで28%下がりました。それぞれの急落局面で、「下がったために売らなければならなくなった資金」が動いています。一部推定も含め、説明します。

【1】日経平均2万円から1万8,000円割れまでの急落
マーケットのボラティリティ(変動性)が高まると売るアルゴリズムがセットされたファンドから、大量の売り。売りが一巡すると、いったん日経平均は急反発。

【2】日経平均2万円から1万7,000円までの急落
 再び、マーケットのボラティリティ上昇で売るファンドが動く。

【3】日経平均1万7,000円から1万5,000円までの急落
 日経平均リンク債のノックインが集中していた価格帯。ノックインするたびに、アンワインドのための日経平均先物売りが出る(詳しい説明は割愛)。

【4】再び、1万7,000円から1万5,000円までの急落
中東産油国の国家ファンドが、日本株を売り。原油価格の急落で、原油収入の減少に苦しむ中東産油国が、収入を補うために、原油を増産。ところが、原油増産で原油価格の下げが加速したため、打つ手がなくなり、保有していた日本株の売却に動いたと考えられる。

 以上が、2015~2016年の急落で、下がったために売らなければならなくなった資金の説明です。日経平均がそれだけで下がったわけではありませんが、下落を主導する「問答無用の売り手」であったことは間違いないと思われます。

 今回の急落でも、上記と同じような資金が動いている可能性はあります。ただし、実際にどういう売り手が動いているかはわかりません。あくまでも推定です。

 今回、中東産油国が日本株を売っているか売っていないか、私にはわかりません。当時と同じように、原油が急落しているので、売る可能性は否定できません。

どういう主体が、日本株を買うか?

 それでは次に、どういう主体が日本株を買うか、考えてみましょう。過去の経験則なども含め、以下の通りと考えられます。

【1】日本銀行
これまで、年間6兆円のペースで日本株ETF(上場投資信託)を買ってきました。昨日、買いペースを年間12兆円に倍増させると発表しました。買うだけで、決して売らないので、日本株の需給改善に寄与します。

 ちなみに、日銀は、これまでに買い付けたETFの平均簿価が日経平均で1万9,500円くらいと発表しています。したがって、日銀は今、日本株ETF投資で巨額の含み損を抱えた状態です。それでも、一般の投資家と異なり、買いを続けることが可能です。

【2】自社株買い
 日本の上場企業の自社株買いが増えています。年間、10兆円くらいのペースで買っていると推定されます。これも、買うだけで売らないので、需給改善に寄与します。

【3】年金基金
 年金基金は、株が大きく下がると株を買い、株が大きく上がると株を売ります。今のように大きく下がる局面では、株を買い始める可能性が高いと考えられます。年金基金は、運用の基本ポートフォリオで、株の組入比率を決めています。株が大きく下がる局面では、時価ベースで株の組入比率が基本ポートフォリオで決めている比率よりも低くなるので、リバランスで株を買ってきます。

【4】個人投資家
 過去、日経平均が大きく下落する局面では、常に積極的な買い主体となってきました。リーマンショックが起こった2008年9月以降、日経平均が急落する中、1カ月で1兆円以上買い越したこともあります。現在のコロナショックでも、大幅に買い越しています。

 コロナショックの急落で、まだ買い主体の動きは目立っていませんが、いずれ、上記の買い主体も、積極的に動いてくると考えられます。短期的には、下がったために売らなければならない資金に押し負けていますが、売りが一巡すれば、日経平均を大きく反発させる力になると予想しています。

投機筋の売りポジションが高水準

 それでは、いつ、売りの勢いは落ちるのでしょうか。誰にもわかりませんが、推測するためのデータはあります。裁定売り残高、買い残高の推移です。

 裁定残を見ると、現在は、投機筋の買いポジションはほとんど整理され、売りポジションが積みあがっている状態と推定されます(詳しい説明は、明日のレポートに記載)。ここから、先物主導で、さらに売り込まれるとは考えにくいところです。

 以上から、日経平均は、1万6,000円台で目先の底をつけ、その後、反発に転じると予想しています。

世界不況に金融危機が重なれば、日経平均は1万4,000円台への下落も

 リーマンショックと、コロナショックの違いは、何でしょう? リーマンショックの時、世界同時に景気後退に陥っただけでなく、欧米の金融機関を中心に信用不安が起こりました。つまり、金融危機と世界不況が同時に起こったのが、リーマンショックでした。

 コロナショックでは、とりあえず、現時点で金融危機は起こっていません。世界不況の可能性がきわめて高いだけです。ただし、予断は許しません。もし、世界経済が凍結した状態が長引けば、世界的に経営破綻が広がり、金融危機に発展する可能性もないとは言えません。そうなれば、日経平均はリーマンショックと同様、高値から4割安・1万4,000円台への下落もあり得ます。

 現時点で決め打ちはできません。コロナショックがどう推移していくか、しばらく事態の推移を見る必要があるかもしれません。