日本株は割安、長期投資で良い買い場と判断

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済を揺さぶっています。日本は、新型コロナウイルスの影響を受ける前から景気後退すれすれまで景況が悪化していました(昨年10-12月GDPは前期比年率▲6.3%)。新型コロナウイルスのダメージを受ける20年1-3月には、景気後退期入りが確定していると考えられます。

 世界景気も雲行きが怪しくなってきました。中国を中心に、欧州・東南アジアの景況が悪化しつつあります。現在、景気堅調と言えるのは、米国だけとなりました。その米国も、新型コロナウイルスの影響で、サービス産業の景況が悪化しています。

 こんな時、日本株への投資をどう考えたら良いのでしょうか? 日経平均株価は、年初来高値(1月20日の2万4,083円)から、既に12.4%下がりました。私は、日本株は配当利回りや買収価値から割安で、長期投資で良い買い場を迎えていると判断しています。それでも、短期的にさらに下落が続くリスクは払拭できません。

 どこが日経平均の大底となるか、誰にも分かりません。それでも、1つ確かなことがあります。景気後退期で、株が急落するところは、後から振り返ると良い買い場になっていることです。
 以下、ご参考まで、リーマン・ショック後1年間の日経平均の動きをご覧ください。

リーマン・ショック後の日経平均の動き(2008年8月~2009年7月)

 2008年9月15日、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻が伝わると、世界的な株の暴落が起こりました。1万2,000円台にあった日経平均も急落、あっという間に8,000円を割れてしまいました。

 当時ファンドマネージャーだった私は、日本株は割安と判断し、日経平均が急落する中、日本株を何回も買い増ししました。買っても買っても下がる展開に不安が高まりましたが、後から振り返るとそこは良い買い場でした。

 私は、今も同じ気持ちでいます。まだ下値リスクは残りますが、少しずつ時間分散して日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると判断しています。

 今の日経平均は、リーマン・ショック時よりさらに割安と判断しています。日経平均の水準は2万1,100円(3月4日)と、当時より高いが、日本企業の財務内容・収益力が当時より格段に高まっているからです。東証一部平均で、予想配当利回りは2.6%まで上昇、PERは14.4倍まで低下しています。株価指標から見て、今の日本株はリーマン・ショック時よりも割安で投資魅力が高いと判断しています。
 それでは、何から投資したら良いでしょう?

新型コロナショックで急落するJR4社を「ディフェンシブ株」として見直し

 日経平均の下値不安が残る中、時間分散しながら日本株の投資を始めるならば、最初は、ディフェンシブ株【注】から投資した方が良いと思います。ディフェンシブ銘柄の代表として、JR4社の投資価値が高いと判断しています。

【注】ディフェンシブ株
 景気変動の影響を受けにくい株のこと。鉄道輸送は、景気変動の影響を受けにくい公共サービスの1つで、JRは代表的ディフェンシブ株です。世界景気が悪化する局面で、鉄道各社は、景気敏感株(電機・機械・自動車など)ほど業績が悪化しません。ただし、景気変動の影響をまったく受けないわけではありません。あくまでも、相対比較で、受けにくいというだけです。

 ディフェンシブ株は、通常、景気悪化による日経平均下落局面で、相対的に下落率が小さくなります。景気変動による業績への影響が小さいからです。ところが、今回の日経平均下落局面で、ディフェンシブ株の代表ともいえる、JR東日本・東海・西日本は、日経平均を上回る下落率となりました。

JR4社株価と日経平均の動き比較:2019年末~20年3月4日

注:2019年末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成

 新型コロナウイルスによる景気悪化が、通常の景気悪化と性質が異なるからです。通常は、製造業の業績悪化が目立ち、サービス業や電鉄業は、相対的に堅調です。ところが、今回は異なります。感染拡大を抑える目的で、観光業などサービス業や、運輸業(航空・電鉄業)などに悪影響が出ています。

 JR各社も、外国人観光客の減少で、新幹線や観光列車、観光ホテルなどの利用が減少しています。その影響が懸念され、JR各社は日経平均よりも下落率が大きくなっています。
 ただし、新型コロナウイルスの影響は、長い目で見て、一時的と考えています。長期的にみて、JR各社が「ディフェンシブな安定成長株」であることに変わりはないと予想しています。したがって、JR各社は今、良い買い場を迎えていると考えています。

 投資するのに魅力的な順は、JR東日本JR東海JR西日本JR九州だと思います。

新幹線の利用拡大が、JR東・東海・西の成長を支えてきた

 JR各社の業績(連結経常利益)推移をご覧ください。今期(2020年3月期)は減益が多いものの、前期までは安定的に最高益を更新してきました。

JR4社の連結経常利益:2018年3月期(実績)・19年3月期(実績)・20年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より作成

 2018年3月期、4社そろって経常最高益を更新しました。JR東日本はその時点で2期連続、JR東海は6期連続、JR西日本は2期ぶりの最高益でした。JR九州は、上場後、初の最高益でした。

 今期(2020年3月期)、現時点でJR西日本のみ最高益を更新する見通しです。JR東日本は10月の大型台風で長野新幹線が深刻な被害を受けたことに加え、新型コロナウイルスの影響も受けるため、減益となる見通しです。JR東海・九州も減益見込みです。新型コロナウイルスの影響が長引くと、今期業績は計画未達になる可能性もあると考えています。

 それでも、JR4社は、中長期的に最高益を更新していく力があると考えています。新幹線および多角化事業(不動産・レジャーなど)が成長ドライバーになると思います。

人口の増えない日本で、新幹線が牽引役となってJR4社は最高益を更新

 人口の増えない日本で、鉄道業は成熟産業と見られていましたが、新幹線収入の拡大によって、JR東海・東日本・西日本は、安定的に最高益を更新してきました。

 新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、今や「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大がさらに追い風となっています。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与しています。

 2015年11月に上場とともに完全民営化(政府保有株をゼロにすること)を達成したJR九州も、先行き、収益を拡大していくと予想しています。人口減少地域で鉄道業の収益が悪化する不安はあるものの、九州新幹線の収益拡大が期待されます。また、早くから、観光客を楽しませる多様な観光列車(デザイン&ストーリー列車)の導入を進めてきた効果も、九州地区へのアジアからの観光客増加で効果を発揮します。ホテルや不動産業などへの多角化も進んでおり、人口減少を補って、グループで収益を底上げしていく体制ができあがっていると考えています。

 JR九州が導入で先行した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星」の旅は、予約倍率が10倍前後で、好調です。従来の寝台列車とは異なり、動くホテルのような快適さが受けています。JR九州の成功を見て、JR西日本・JR東日本も豪華寝台列車の旅を導入しましたが、いずれも好評です。

 なお、私の勝手な予想ですが、いずれJR4社が提携して豪華寝台列車を使って全国をめぐる長期旅行が売り出されると思っています。そうなれば高い人気を集め、4社の収益拡大に寄与すると考えています。

今、JR東日本に注目する理由

 JR4社とも、中期的な成長力を考えれば、投資価値は高いと考えています。ただし、4社で相対比較すれば、東京を地盤に持ち、不動産・小売など多角化事業で高い競争力を持つJR東日本の投資価値が一番高いと考えています。

 JR東日本は、事実上、日本最強の不動産会社だと考えています。日本の不動産価格は、JR駅周辺がもっとも高く、駅から遠くなるにつれて下がる傾向があるからです。JR東日本は、東京駅周辺などで、不要になった鉄道用地や施設を再開発して高い競争力を有するオフィスビルを次々と作ってきました。土地購入費が不要で、最強の立地にオフィスビルを建てられるので、事実上、最強の不動産会社と考えています。

 2019年3月末時点で、賃貸不動産に1兆4,661億円もの含み益を有します。含み益の大きさで、三菱地所・三井不動産・住友不動産についで第4位です。
 今期は、台風19号で大きな被害を受けたことに加え、新型コロナウイルスの影響もあり、JR東日本の株価は大きく下がりました。今、投資していく良いタイミングと思います。

株主優待が魅力的なJR4社、JR東日本は株主優待の拡充を発表

 JR4社は、運賃・料金の割引券などを、株主優待品として、3月末の株主に贈呈しています。新幹線などを利用することの多い個人投資家に、好評です。株主優待が魅力的な、安定成長株として、長期投資していく価値が高いと考えています。

 JR東日本は2月4日、株主優待の拡充を発表しました。従来、新幹線の乗車券・特急利用料金などが2割引きになる株主優待割引券を、3月末に100株保有する株主に対し、1枚贈ってきました。それを、今後は4割引き券とします。参考:JR東日本の株主優待

 JRの株主割引券の有効期限は1年です。有効期限内に使う予定がなければ、ネットで売却することもできます。「JR東日本 優待券 売却」で検索すると、さまざまな買取価格が出てきます。買い取り価格は、時々の需給で変動します。有効期限の残りが短すぎると、売却できないこともあります。

 JR東日本を100株保有すると、JR東日本グループが提供する宿泊施設やレストラン、駅レンタカー、GALA湯沢スキー場リフト券・レンタル料金、リラクゼ利用料金などが割引になる株主サービス券も贈られます。詳しい内容は、同社ウェブサイトや楽天証券で確認してください。株主優待内容は、予告なしに変更されることもありますので、最新の情報をチェックするようにしてください。

▼著者おすすめのバックナンバー
2020年3月3日:日経平均どこまで下がる?(下) 下値リスク残るが長期投資で「買い場」と判断
2020年3月2日:日経平均どこまで下がる?(上)リーマン危機、同時多発テロ後に似てきた新型コロナショック