2020年の投資戦略を考える「新春講演会2020」が開催されました。楽天証券主催のこのイベントは、日本株、米国株、投資信託、為替などさまざまな分野で活躍するプロたちが登壇します。
その中で、「人生100年時代の資産運用戦略」について、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏、セゾン投信株式会社 代表取締役社長の中野晴啓氏、合同会社フィンウェル研究所 代表の野尻哲史氏の3名によるパネルディスカッションが行われました。モデレーターは、楽天証券経済研究所 ファンドアナリスト篠田 尚子です。
資産形成は逆算で考える
篠田 昨年、「老後資金が2,000万円不足する」という内容(※1)の金融庁の報告書が注目を集めました。世間では「2,000万円」という金額ばかりがクローズアップされましたが、報告書には非常に大きな論点が含まれていました。それは「長寿化社会におけるお金との向き合い方」です。
そこで今回のディスカッションでは、この論点からスタートさせていきたいと思います。資産形成という考え方は浸透してきましたが、定年退職した人が退職金を含めた資産をどう管理し活用していけばいいのかという点にはまだ迷いがあると思います。
野尻さんが提唱されている「逆算の資産準備」について、ご自身の定年退職経験も含めて教えていただけますか。
野尻 自分が定年になって分かったことは、「資産形成の時期はそろそろ終わってしまったかな」ということでした。そこで退職後は資産の「取り崩し」が重要なキーワードになると考えました。お金の不安を抱えながら、人生100歳時代をどう生きればいいのかと悩まれる方は多いと思いますが、悩まなくていいです。「95歳で資産0円になる」ことをゴールにして、徐々に資産を取り崩していく計画を立てれば悩みは解消されます。
篠田 では、続いてファイナンシャルプランナーの岩城さんにお伺いします。野尻さんのお話にあったような、老後資金を心配する方というのは実際に増えているのでしょうか。
岩城 はい。特に50代の方の相談が増えていますね。50代になると公的年金の受給額の見通しが立ってきますし、会社員の方なら、退職一時金を含めた、退職までに得られる収入もある程度は予想できます。そこで、具体的に老後のお金の計画を立てたいと考えはじめます。
50代であれば、まだできることはたくさんあります。例えば、負債が多い人なら、現役のうちになるべく減らす計画を立てるとか、老後資金が不安なら、長く働く方法を考えて、公的年金の受給時期を繰り下げるとかですね。
篠田 岩城さんは「高齢期の資産運用と資産取り崩し」を提唱されていますね。
岩城 1年間の取り崩し額を計算して、計画的に資産を使っていこうということです。計算は難しくありません。「資産額-晩年想定資産(高齢者施設入居費や遺産、葬式代といった最後に残す金額)」を想定余命年数で割ると、「1年間に取り崩せる額」が分かります。
その1年分を資産から取り崩して普通預金に移し、公的年金に合算して生活費として使います。資産は変動するので、毎年計算して「1年間に取り崩せる額」を確認します。
篠田 使うことも重要ということですね。
岩城 お金は使ったり働かせたりすることで価値が生まれます。高齢者になるとお金を「便利さ」や「安全」と交換することも大事なのですが、お金を働かせる=資産運用も大事です。
資産形成は今からでも遅くない
篠田 お金の準備(資産形成)をしていなければ取り崩すこともできないわけですが、次は、長期分散投資と資産形成の重要性について考えていきたいと思います。中野さんは長年、長期分散投資の重要性を説いていますが、「もう年齢的に間に合わないのでは…」と不安に思っている人も多いように思われます。
中野 「長期分散投資と資産形成」は、世代を問わないムーブメントになりつつあります。資産形成とは将来の経済的不安を解消するための合理的な行動です。そして資産形成に長い時間をかければかけるほど、お金はしっかりと育っていきます。
確かに、50代になってお金を無駄遣いしてきたことに気がついて不安になり「今からでも間に合うか?」と聞かれることがあります。年代を問わず気がついた時点から資産形成を始めればいいと思います。
資産形成せよと言われても、衰退する日本経済に不安を抱いている人は多いでしょう。その不安を解消するために「お金を働きに出す」のなら、働き場所(長期資産運用)を日本経済ではなく、安定成長を続けている世界経済に求めるべき。人生100年時代の50歳は人生の折り返し点なので時間は十分にあります。まず行動ありき。考えている時間がもったいないと思います。
資産形成のはじめかた
岩城 退職一時金が預金口座に振り込まれると、金融機関の担当者からいろいろな商品を勧められますが、私はつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を使って投資信託を買うことをお勧めします。
運用経験がない人ほど運用を怖がって、担当者が勧めるものを買ってしまいがち。でも運用で大事なことは、人気のある投信を買うのではなく、低コストの投信を使って国際分散投資をすることです。
「つみたてNISA」の非課税期間は最長20年なので、60歳で退職金を受け取ったら80歳まで続けられます。
中野 岩城さんのおっしゃるとおりで、「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」には、加入条件のほか、(拠出は)60歳までという年齢制限もありますが、「つみたてNISA」なら、20歳以上の方であれば原則どなたでも口座を開設できます。
篠田 野尻さんはつみたてNISAを使うことについて、どうお考えですか。
野尻 「つみたてNISA」を始めるのなら60代、70代と言わず、なるべく早く始めた方がいいと思います。先ほど取り崩しという話をしました。「つみたてNISA」のような非課税制度のメリットが生きるのは、取り崩すときです。
取り崩す年代になるまでに資産を形成しておかなければならないのです。
寿命は延びている
篠田 岩城さんにお伺いしたいのですが、一般的に男性よりも寿命が長いといわれる女性は、資産形成をどのように考えればいいのでしょうか。
岩城 「私は長生きしないから」と言う方もいますが、それでも95歳まで、今20・30代の女性は100歳まで生きることを想定した方がいいでしょう。女性だからという特別な方法はありません。先ほどご紹介したように、毎月いくらまで取り崩せるのかという上限を把握し、それに公的年金を加えた金額の範囲内で楽しみながら生活をしていけばいいのです。
人生には健康や人間関係といったお金の他にも気にかけることがたくさんあります。そこで、お金のことで必要以上に悩まずに、合理的、機械的に管理し、必要なところには気持ちよく使っていくことが大事です。
中野 女性の寿命が男性よりも長いことを逆手にとって、「女房は長生きするけれど、オレは早死にする」と言う男性がいます。ところが、実際に私の父は95歳で亡くなりました。75歳のころから「オレもそろそろ……」と言い続けて20年。
男性も長生きすると意識を変えなければなりません。よく「長生きリスク」と言いますが、長く生きることは決して悪いことではありません。お金の不安、つまり、働けなくなって無収入になることをリスクと捉えるのなら、それを解消するための策が資産形成です。
篠田 資産形成の必要性について野尻さんはどうお考えですか。
野尻 国立社会保障・人口問題研究所によれば、2065年ごろには、総人口に占める65歳以上の比率が約4割になると推計されています。
この比率の上昇は、高齢者の増加によるものと思われがちですが、実際には、15歳以上65歳未満の現役世代の減少によって、相対的な高齢比率の上昇がもたらされているのです。
こうした事実を知っておけば、若い人たちほど「自分が65歳になったときに支えてくれる現役世代が減る」ことの意味が理解できるはずですし、自分で努力して資産形成するしかないことに気がつくと思います。
※1 金融庁が2019年6月3日に公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」に記載された内容のこと。「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万~2,000万円になる」とある。
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