2020年の投資戦略を考える「新春講演会2020」が開催されました。楽天証券主催のこのイベントは、日本株、米国株、投資信託、為替などさまざまな分野で活躍するプロたちが登壇します。

 その中の「ファンドマネジャーが語る! アクティブファンドの魅力、徹底討論」では、3名のファンドマネジャーが激論を交わしました。。今回は後編、銘柄選びの極意についてです。

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銘柄を選ぶポイント

吉井(司会) では、次に銘柄を選ぶ際のポイントを、キーワードで挙げてください。

木村さんは「ボトムアップ」、奥野さんは「構造」、酒井さんは「会社の業績の変化」ということですが……。

木村 配当フォーカスオープンで重要視しているのは、ボトムアップ・アプローチです。配当に注目したファンドはたくさんありますが、その中にはスクリーニングやクオンツ運用(数量的な分析に基づく運用)など、定量的に機械的に銘柄を選んでいるファンドが多いのです。

 私は配当に注目して企業を選ぶからこそ、(配当だけで選ばずに)実際に企業を取材して、ボトムアップの銘柄選びを徹底しています。「高水準の配当を継続する」という基準で銘柄を選ぶ際に重要なのは、経営者が内部留保金をどのように使おうとしているのか、株主還元の方針はどのようなものなのか、といったことです。これらは、財務諸表を分析しても、AIを駆使しても絶対に分からない。経営者から直接聞くしかない。だから年間延べ400社以上の会社を訪問しています。

奥野 私たちは、「儲かってしまう会社」にしか投資をしません。繰り返しになりますが、そのために1.付加価値の高い産業、2.圧倒的な競争優位性、3.長期的な潮流を満たしている企業を探します。

競合優位の会社を見極めると奥野氏

 例えば、ナイキに注目したら、その競争優位を見極めるためにオレゴン州の本社を訪問するし、ライバル企業と比較するためにアディダスの本社があるドイツのバイエルン州だって訪ねます。ナイキのないスポーツ界を想像できますか? ディズニーのない娯楽産業を想像できますか?

 そうした企業を見つけて保有すればいいだけで、目先の株価に躍らされる必要がありません。付け加えると、「儲かってしまう会社」とは、顧客のニーズを満たした会社、もっと広く捉えれば、「幅広く顧客の問題や社会の問題を解決できる会社」でもあるのです。そういった会社を保有することで、オーナーである株主は長期的に株価の上昇を享受できるのは言うまでもありませんが、結果として社会も少しずつ良くなっていくのです。これこそが「資本主義」の本質です。

酒井 会社の業績の変化がポイントです。まず、「会社の変化」とは何かということですが、ソニーを例に取ると、30年前は家電の会社でした。15年前はエンターテインメントの会社、今はスマホの中に使われている部品とエンターテインメントの会社です。

 富士フイルムは、昔はカメラのフィルムの会社でしたが、今はヘルスケアの会社です。このように、会社は業態が変わる局面があるので、そこが投資のタイミングになります。

マーケットだけで判断しない酒井氏

 業績の変化では、スターフライヤーという航空会社の例があります。ある時、スターフライヤーの四半期決算を見ていて、売上が変わらないのに利益が急に増えていることに気がつきました。その原因は原油価格の値下がりでした。
 国際路線を持つ日本航空や全日本空輸は、原油価格の変動を燃料サーチャージでカバーしていますが、スターフライヤーは国内線だけなので、原油価格の変動がそのまま企業業績に反映されるのです。

 ところが、マーケットは原油価格値下がりの影響に注目していませんでした。もし四半期の利益が通年ででたら、現在の株価はかなり割安な水準だと。そう思った瞬間に購入を決めました。このように、自分で十分に調べて選ぶ銘柄もあれば、業績の変化だけを見て選ぶ銘柄もあります。

銘柄を増やすときの選抜法

吉井 投資信託には複数の銘柄が組み入れられていますが、組み入れるときに配慮していることはありますか。

酒井 引き算です。自分の思いをポートフォリオに詰め込みすぎないということ。例えば、マーケットがいいときに活躍してくれる銘柄、悪いときに活躍してくれる銘柄、原油価格が高いときに活躍してくれる銘柄、安いときに活躍してくれる銘柄というように、いろいろな局面で活躍してくれる銘柄を、自分の思いからは切り離して組み入れておくことが大切ですね。

木村 短期的な相場に左右されるなです。短期的な相場動向に左右されないことは、ファンドマネジャーとして最も大事なことです。

短期の相場を見ないと木村氏

株式市場は移り気で、短期的にコロコロ変わります。目先の利益を欲しがる人は、目先の相場動向に合わせて運用してしまうため、運用スタイル、運用方針もコロコロ変わる。

 こんな後追いの運用は必ず失敗します。「配当フォーカスオープン」では運用方針をしっかり持って、どんな状況でもぶれずに方針を貫く。それを徹底してやっています。

奥野 構造です。その会社がなければ世界が成り立たないような会社は、相場が下落しても強い。ある産業の市場シェアを3割以上持つような強い会社があるとします。その会社の株価は私たちのパフォーマンスの統計では、相場が100下がるときは60~70くらいしか下がりません。

 一方、相場が100上がるときは90~95くらい上がります。長期的な結果として相場、インデックスを上回ります。このようなパフォーマンスの特性の要因は、その産業における企業の優勝劣敗にあると考えています。

 つまり、事業環境、景気が悪化すると市場シェアの低い弱い会社がその産業から退場し、景気が戻ったときに強い会社は、退場した会社のシェアの分も取り込んで、より高い市場シェアを実現し、その結果としてより高い利益を上げることができるようになります。世界経済の成長率鈍化に伴って、この優勝劣敗の傾向はより強くなるので、今後はますます企業選択の妙が大事になると思っています。

最後に 2020年に向けて

吉井 それでは、最後に2020年のコミットメントをお願いします。

奥野 投資家の皆さんの多くは、投資とは「株を売り買いする」ことであると考えていて、「オーナーシップを持つ」という考え方をお持ちではないかもしれません。でも、大事なことは、会社を見極めてオーナーになり、その会社に働いてもらうこと。このメッセージを今後も発信し続けたいと思っています。

酒井 皆さまに愛されるファンドになることを目指し、リターンと安心感を提供することで、投資家のポートフォリオに欠かせないパーツであり続けたいですね。

木村 2019年もそうでしたが、2020年も2021年も、相場に左右されない運用を続けます。簡単そうですが、相場が悪くなれば私自身、精神面にも体調面でもつらくなることがあります。だからこそ私は、相場に左右されないと、言い続けていきます。

吉井 アクティブファンドの魅力、ファンドマネジャーの皆さんの考え方の違いなどが良く理解できました。木村さん、酒井さん、奥野さん、ありがとうございました。

右から、司会の吉井(楽天証券)、酒井(アセットマネジメントOne)、木村(三井住友DSアセット)、奥野(農林中金バリューインベスト)

★編集後記★
アクティブファンドのファンドマネジャーたちが、銘柄に吟味を繰り返しファンドを作っていることを感じました。「ほったらかしがいい」でも「この銘柄本当にいいの?」と不安なわたしにぴったりです。インデックスファンドのように、相場に明らかに振り回されることもなく、選び抜いた銘柄で構成されたアクティブファンド。
みなさんも一度調べてみてはいかがでしょうか。

セミナー中のひとコマ

投資信託を保有している人は、ほとんどでした!

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