2020年サプライズ10大予想
前回「リスクはチャンス?2020年10大リスクの見極め方」で、政治リスクを専門とするユーラシア・グループによるグローバル・リスクを中心とした「世界10大リスク」の話をしましたが、今回は、経済・金融の専門家による「世界10大予想」をご紹介します。
年末年始になると、エコノミストや銀行・証券会社から経済や金融の予想が出てきます。中でもウォール街で注目されているのが、ウォール街のご意見番こと、米投資会社ブラックストーン社のバイロン・ウィーン氏によるサプライズ10大予想です。1986年以来、今年で35回目となる年始恒例の予想です。同氏は「平均的な投資家が発生確率を3分の1程度とみているイベントを、自分は50%以上で起こると信じている出来事」と「サプライズ」の定義を説明しています。
2019年のFRB政策予想は的中
2019年の同氏の予想では、「FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを停止。インフレは抑制され、10年債利回りは3.5%に達せず、S&P500は15%の上昇、上海株は25%の上昇」としました。さらに「FRBはバランスシート縮小を停止し、ドル安要因となり、米国への資本流入が鈍化」と、FRBの政策は見事に的中しました。
もちろん、外れていることもあります。
「金価格が下落し1,000ドル」「英国は2回目の国民投票によってEU(欧州連合)残留」などは当たっていません。また、米国への資本流入が鈍化との予想でしたが、資本流入は鈍化せず、米10年債利回りは2%以下に低下しました。3.5%に達しないとの予想通りでしたが予想意図とは異なったようです。
予想の大部分は当たらないことが多いのですが、昨年はかなり健闘しました。
しかし、当たるかどうかより重要なのは、ウォール街のご意見番がどのように考えているのかを見ておくことです。自分の相場観と照らし合わせて、その予想がサプライズかそうでないか見極めておくことはシナリオを想定する際に役に立ちます。毎年強気の予想ですが、今年はどのような予想を立てているのでしょうか。
では今年の予想の要点を紹介します。
2020年サプライズ10大予想は?
バイロン・ウィーン氏による「2020年サプライズ10大予想」
1.景況は予想を下回るが景気後退は回避。FF(フェデラルファンド)金利は1%に低下。トランプ米大統領は景気刺激で給与税引き下げへ
2.米大統領選挙で格差と気候変動が主要テーマになり、リベラルな大統領・議員候補への支持が拡大。民主党が上院過半数議席獲得
3.米中貿易協議、包括的な第2弾には至らず
4.実験車両による相次ぐ事故を受け自動運転車実用化先送り
5.イラン情勢混迷化で原油価格1バレル=70ドルに上昇
6.株式相場下落率5%の調整が数回起こるが、S&P500種株価指数3,500を達成
7.FAANG(フェイスブック 、 アマゾン・ドット・コム 、 アップル 、 ネットフリックス 、グーグル)への政治的圧力高まる
8.英国のEU離脱が実現し、英GDP(国内総生産)は2%を超え、株、通貨も上昇。欧州市場は弱いまま
9.債券バブルは亀裂を生じ始めるが、諸外国ではマイナス金利が続く。米10年債利回りは2.5%に達し、イールド・カーブはスティープに
10. ボーイング「737MAX」の問題解決で製品納入再開
米国経済や株について強気予想
今年も米国経済や株について強気の見方のようですが、株価の上昇幅は昨年の15%予想と比べると控えめです(S&P500の3,500達成予想は2019年末の3,230.78から8.3%の上昇)。
景気は、後退はしないが緩慢な成長のため、FRBの政策金利であるFF金利は1%に引き下げられると予想し、長期金利は債券バブルが弾けて上昇すると予想しています。ただ、バブルが弾けても2.5%の水準ですので現在の1.8~1.9%の水準を見れば、サプライズの水準ではないような気がします。バブルが弾けても、すかさず債券買いが入り、利回りは再び低下していくのではないかというシナリオを考えてしまいます。
「AIが張子の虎」とは?
ウィーン氏は10大予想以外にも、それほど重要ではないもの、実現可能性が高くないものとして、さらに5項目を挙げています。
11.インドでの経済危機が和らぎ、経済成長率6%、市場は20%上昇する
12.AI(人工知能)が張子の虎との見方が広がる。製造業はすでに機械化されており、これ以上仕事をAIが置き換える余地は小さい
13.ロシアで経済危機が深刻化し、社会不安が広がる。プーチンは中国に近づき、中ロは欧米と対峙(たいじ)する
14.ポピュリズム、内向き思考、無秩序、不協和が広がる。投資家が新興国市場の現地通貨建て債務を敬遠し、スプレッドが拡大
15.北朝鮮が核開発停止を受け入れるが、既存の兵器の放棄は拒否する。北朝鮮は脅威であり続けるが、差し迫った危険ではなくなる
「AIが張子の虎との見方が広がる」との予想は、現在、これだけ世の中がAI、AIとはやし立てている状況に対し、ガラッと評価が変わるのか大変興味深いです。もし、実現すればサプライズ10大予想よりもサプライズな予想です。ロシアの経済危機の深刻化と投資家の新興国市場の敬遠はリスクシナリオとして留意しておきたいところです。
昨年もそうでしたが、バイロン・ウィーン氏の予想はサプライズ度合いが低くなってきているような気がします。ただご意見番の予想ですので、相場シナリオを想定する際に参考材料として活用することができます。ユーラシア・グループの10大リスクやバイロン氏のサプライズ10大予想を事前に知っているかそうでないのかでは、これらのリスクが発生した場合に慌てずにすみます。そういう意味で前回と今回のコラムは、折に触れて、数カ月に1回、1年の中で何回も読み返す価値があると思われます。ぜひ参考にしてください。
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